私大生「1日の生活費677円」は貧困世帯の話ではない。調査の世帯年収は939万円
私立大学生への仕送り額が、過去最低になり、1990年度には2,460円だった1日あたりの生活費が、2018年度は677円となったことが、4月3日に東京地区私立大学教職員組合連合(東京私大教連)の調査結果から明らかになりました。各社も報道していますが、重要な情報が抜け落ち、保護者世代に伝わらない要因になっています。それはこの調査に回答した世帯の年収(税込み)平均が、939万6,000円であるということです。
年収が増えても、仕送りは右肩下がり
調査は、私立大学の新入生家庭を対象に長く続いているもので、今回は1都5県の14大学を対象にしています。
- 私立大学新入生の家計負担調査 2018年度(東京私大教連)
1994年に過去最高だった仕送り額の平均(6月以降)12万4,900円は、2018年度に8万3,100円に減少。家賃の平均は6万2,800円となり、仕送り額に占める家賃の割合が7割を超えています。1990年代は仕送りに占める家賃の割合は5割を切っていました。
世帯の平均年収は、1993年が過去最高で1,072万円。バブル崩壊とともに下がり続けていましたが、2012年の875.2万円を底に少し回復傾向にあります。しかしながら、仕送り額は図のように右肩下がりで減り続けています。
仕送り額から家賃を引いた額が「1日の生活費」というのはやや単純化しすぎている気もしますが、大学生とその保護者が置かれた状況を把握するデータとしては目安になるはずです。
1日の食費200円の「リアル」な大学生
結果を受けて、フジテレビ「Live News it!」が学生事情を取材しています。放送は見ていませんがウェブサイトに内容が公開されていました。
などのように、暖房費を節約するためにメルカリを使ったり、安い焼きそばで自炊して味覚障害になったり、といった大学生の苦労を紹介しています。このような報道を見ると「貧困世帯」なのかなと思うかもしれませんが、そうではありません。
記事には「今どきのリアルな学生生活事情を取材した。」と書いてありますが、このような学生はごく一部ではなく、「リアル」な大学生像ではないかと思います。
ある時、食堂で「ご飯を大盛りにしてくれませんか」と頼んで、断られている(大中小で値段が違うから店員さんの対応は適切だと思う)学生を見て、話かけてみると食事代がないということでした。バス代、本代、ゼミやサークルの活動費など、学生生活には多くの費用がかかりますが、授業の出席は厳格になり、バイトの時間確保も悩ましいのです。
なぜか、年収が記事から「消えて」いる
なぜか、フジテレビの記事は年収について触れられていません。
実は、他のメディアも同様で、読売新聞、朝日新聞、共同通信、時事通信などが調査を記事にしていますが、確認した範囲では年収には触れていませんでした。
- 下宿生への仕送り額、過去最低…生活費は月2万(読売新聞)
- 首都圏私大生の仕送り額、過去2番目の低さ 教職員組合(朝日新聞)
毎日新聞は年収に触れています(該当部分をウェブで読むには有料登録が必要です)。なお、自宅外の世帯年収は946万1,000円です。
年収900万円でも「限界」なのがニュースでは?
いまの大学生が非常に厳しい状況に置かれていることを下記のような記事で伝えて来ました。「初めて知った」「こんな大変なのか」といった反応が筆者のもとに寄せられています。
現在のマスメディアの伝え方では、「貧しい学生は学費も高いし大変だな」という他人事になってしまい、年収900万円という私大学生の保護者が危機感を持つことは期待できません。
調査の記者会見で「私大生を抱える家庭の負担は、もはや限界」と部長がコメントしていますが、「世帯年収(税込みとはいえ)が900万円の学生が限界と言われても…」というマスメディアの感覚があるのかもしれませんが、むしろ900万円もあるのに限界なのがニュースなのではないでしょうか。