Yahoo!ニュース

「夫の死後」でどう変わる?~妻の「氏」と、夫の「実家」との関係

竹内豊行政書士
夫の死後に妻の「氏」と、夫の「実家」との関係はどのように変わるのでしょうか。(写真:アフロ)

結婚をすると、夫婦は結婚の際に夫または妻の氏のどちらかを「夫婦の氏」として選択しなければなりません(法律では、「姓」のことを「氏」といいます)。これを夫婦同氏の原則といいます(民法750条)。

民法750条(夫婦の氏)

夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。

このように、結婚をすると、夫婦は「同じ氏」になります。このことは、夫婦の一方は、氏を変えることを意味します。そして、現状では氏を変えるのはほとんどが妻です。

前回の「田中花子さんの『氏』は『離婚』でどう変わるのか」では、婚姻によって氏を改めた妻が離婚をすると、氏はどのようになるのかをみてみました。

そこで分かったことは、離婚により婚姻の効力が当然に消滅することで、夫婦同氏の効力も当然に失われ、その結果、婚姻によって氏を改めた者は、当然に「婚姻前の氏」に復する(=離婚復氏の原則)ということでした。

しかし、「婚姻前の氏」に戻すと、仕事などで不利益が生ずるなど生活に支障が生じることもあるため、離婚によって婚姻前の氏に復した夫または妻は、離婚の日から3か月以内に届け出ることによって、「離婚の際に称していた氏」を称することができる(=婚氏続称制度)ということでした。

つまり、離婚をすると「旧姓」に戻るが、届出をすることで婚姻中に称していた氏を継続的に称すことができるということでした。

そこで今回は、婚姻によって氏を改めた者(以下「妻」とします)の氏は、相手配偶者(以下、「夫」とします)が死亡すると、どのようになるのかを、姻族関係と合わせてみてみたいと思います。

妻には、「続称」か「旧姓」か選択できる

配偶者の死亡によって婚姻が解消された場合、生存配偶者(婚姻の際に配偶者の氏に改めた者)は、そのまま婚姻中の氏を称し続けるか(続称)、または「婚姻前の氏」に復するか(復氏)、自由に選択することができます(民法751条1項)。

民法751条1項(生存配偶者の復氏等)

夫婦の一方が死亡したときは、生存配偶者は、婚姻前の氏に復することができる。

このことは、「夫婦同氏」の効力は、夫婦の一方の死亡解消によって、当然には消滅しないことを明らかにしています。

このように、妻は、「続称」か「旧姓」かを自由に選択できます

「婚姻前の氏に復する」ことを選択する場合~「復氏届」と「復籍」

夫の死亡後、妻が「婚姻前の氏」に復する(いわゆる「旧姓」に戻すこと)ことを希望する場合は、戸籍上の届出(生存配偶者の「復氏の届出」)をすることによって旧姓に戻すことができます(戸籍法95条)

戸籍法95条(生存配偶者の復氏の届出)

民法第751条第1項の規定によつて婚姻前の氏に復しようとする者は、その旨を届け出なければならない。

そして、復氏届の効力により婚姻前の氏に復した妻は、「婚姻前の戸籍」に入ります。この「婚姻前の戸籍」に入ることを復籍といいます。ただし、その戸籍(=婚姻前の戸籍)が、戸籍に記載されている全員の死亡や婚姻などよって既に除かれているとき、または妻が「新戸籍編製の申出」をしたときは、妻が筆頭者となる新戸籍を編製することになります(戸籍法19条2項による同条1項の準用)。

「姻族関係」は終了しない

夫と離婚をすると姻族関係(=夫婦の一方と他方の血族との関係であり、婚姻の効果として発生する)は終了します(民法728条1項)。

民法728条1項(離婚等による姻族関係の終了)

姻族関係は、離婚によって終了する。

一方、夫が死亡しても、姻族関係は当然には終了しません。もし、妻が姻族関係を終了したい場合には、姻族関係終了の意思表示をすることが必要です。具体的には、戸籍係へ姻族関係終了の届出をすることになります(民法728条2項・戸籍法96条)。

この届出は、俗に「死後離婚」といわれ、夫の死亡後に、夫との嫁・姑などの「家」との関係を断ち切りたい妻が多く利用しているようです(姻族関係終了届について詳しくは、「急増する『死後離婚』 5年で220%増!」をご覧ください)。

民法728条2項(離婚等による姻族関係の終了)

夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項(民法728条1項:姻族関係は、離婚によって終了する。)と同様とする。

戸籍法96条(生存配偶者の姻族関係の終了)

民法第728条第2項の規定によつて姻族関係を終了させる意思を表示しようとする者は、死亡した配偶者の氏名、本籍及び死亡の年月日を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。

ご覧いただいたとおり、婚姻によって氏を変えた者(ほとんどは妻)は、相手配偶者の死亡によって、届出により氏を旧姓に戻すことができます。また、相手配偶者との姻族関係も、どうように届出によって終了することも可能です。選択肢の一つとして、頭の隅に入れておくとよいかもしれませんね。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

竹内豊の最近の記事