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田中花子さんの「氏」は「離婚」でどう変わるのか

竹内豊行政書士
結婚によって「氏」を変えた人は、離婚をするとどうなるのでしょうか。(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

結婚をすると、夫婦は結婚の際に夫または妻の氏のどちらかを「夫婦の氏」として選択しなければなりません(法律では、「姓」のことを「氏」といいます)。これを夫婦同氏の原則といいます(民法750条)。

民法750条(夫婦の氏)

夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。

このように、結婚をすると、夫婦は「同じ氏」になります。このことは、夫婦の一方は、氏を変えることを意味します。そして、現状では氏を変えるのはほとんどが妻です。たとえば、夫が田中太郎さん、妻が佐藤花子さんだとすれば、佐藤花子さんは、結婚によって田中花子さんになるのです。

では、田中花子さんが太郎さんと離婚をすると、花子さんの氏はどのようになるのでしょうか。

離婚をすると「旧姓」に戻る

離婚復氏の原則

離婚をすると、当然ですが婚姻の効力が消滅します。したがって、夫婦同氏の効力も当然に失われます。そのため、婚姻によって氏を改めた者(ほとんどが妻)は、当然に「婚姻前の氏」に復します(民法767条1項)。このことを離婚復氏の原則といいます。

つまり、婚姻によって夫の氏に変えた田中花子さんは、旧姓の「佐藤」に戻るので佐藤花子さんになるのです。

婚氏続称制度

しかし、「婚姻前の氏」に戻すと、仕事などで不利益が生ずるなど生活に支障が生じることもあるでしょう。そこで、離婚によって婚姻前の氏に復した夫または妻は、離婚の日から3か月以内に届け出ることによって、離婚の際に称していた氏を称する制度が設けられています(民法767条2項・戸籍法77条の2)。これを婚氏続称制度といいます。

この制度を利用すれば、離婚によって「佐藤」に戻った花子さんは婚姻中に称していた「田中」を離婚後も称することができるのです。

民法767条(離婚による復氏等)

1 婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、協議上の離婚によって婚姻前の氏に復する

2 前項の規定により婚姻前の氏に復した夫又は妻は、離婚の日から3箇月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、離婚の際に称していた氏を称することができる。

戸籍法77条の2(離婚)

民法767条第2項(同法771条において準用する場合を含む。)の規定によつて離婚の際に称していた氏を称しようとする者は、離婚の年月日を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。

「氏」が変わると、同一人物でるか区別しにくくなるなど社会的に不自由が生じることがあります。また、氏が変わることでアイデンティテイの喪失を感じる方もいらっしゃいます。

離婚となると、財産分与の話が中心になりがちですが、結婚によって氏を変えた方(ほとんどが妻)は、離婚後の氏を離婚後も引き続き称するのか、それとも、旧姓に戻すのかも検討しておいた方がよいでしょう。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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