Yahoo!ニュース

急増する「死後離婚」 5年で220%増!

竹内豊行政書士
夫亡き後に、「死後離婚」をする人が急増しています。(写真:アフロ)

最近、「死後離婚」という言葉をよく耳にします。先月10月15日に放送された「あさイチ」(NHK)でも「死後離婚」を取り上げて話題になりました。

届出件数5年で220%増

「死後離婚」は、夫婦の一方が死亡したときに、生存配偶者(夫が死亡した場合は妻)が亡配偶者の親(舅(しゅうと)、姑(しゅうとめ))や兄弟姉妹(義理の兄弟姉妹)などとの「姻族関係」を終わらせる法制度のことをいいます。

実は、「死後離婚」は法律用語ではありません。正しくは「姻族関係終了届」という制度を指します。

そして、「姻族関係終了届」の届出件数は年々増加しています。過去5年間の届出件数は次のとおりです。

婚姻関係終了届の届出件数( ):前年比

2017年度 6,042件(121%)

2016年度 4,964件(142%)

2015年度 3,493件(124%)

2014年度 2,802件(102%)

2013年度 2,743件

以上、法務省戸籍統計による

このように、毎年増加しており、5年前と比べて220%も増加しています。

死後離婚について理解するために、婚姻解消についてご説明します。

婚姻解消の2つの原因

婚姻(結婚)は、「当事者(夫または妻)の一方の死亡」または「離婚」によって解消します。

「当事者の一方の死亡」による婚姻の解消~離婚との違い

当事者の一方の死亡による解消の場合は、以下の4点で、離婚の場合と異なります。

1.氏を自由に選択できる

生存配偶者が婚姻によって氏を改めた者(ほとんどの場合は妻)である場合、そのまま婚姻中の氏を称するか、婚姻前の氏に復するか(複氏)、自由に選択できます(民法751条1項)。

民法751条(生存配偶者の復氏等)

1.夫婦の一方が死亡したときは、生存配偶者は、婚姻前の氏に復することができる。

複氏は、市区町村の戸籍担当へ届け出ることで成立します(戸籍法95条1項)。なお、届出期間に制限はありません。

戸籍法95条(生存配偶者の復氏)

民法第751条第1項の規定によつて婚姻前の氏に復しようとする者は、その旨を届け出なければならない。

2.姻族関係は当然には消滅しない

配偶者が死亡しても姻族関係は当然には消滅しません。姻族関係は、生存配偶者が姻族関係終了の意思表示をする(戸籍係へ姻族関係終了の届出をする)ことによって終了します(民法728条2項・戸籍法96条)

民法728条(離婚等による姻族関係の終了)

1.姻族関係は、離婚によって終了する。

2.夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様とする。

戸籍法96条(姻族関係の終了)

民法第728条第2項の規定によつて姻族関係を終了させる意思を表示しようとする者は、死亡した配偶者の氏名、本籍及び死亡の年月日を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。

この、生存配偶者が民法728条2項に基づいて、戸籍法96条の届出によって姻族関係を終了させることを「死後離婚」、すなわち「姻族関係終了届」といいます。

そして、上記1と2を組み合わせると、婚姻中の氏を称しながら、姻族関係を終了させたり、婚姻前の氏に復しながら、姻族関係を存続させることもできます。

また、再婚も、姻族関係の終了とは無関係です。したがって、前婚によって生じた姻族関係をそのままにして再婚することもできます。

これに対して、死亡した配偶者の側(舅・姑、義理の兄弟姉妹など)からは、生存配偶者との姻族関係を終了させることはできません。

3.親権者や監護者の決定を必要としない

当事者の一方が死亡しても、親権者や監護者の決定を必要としません。生存配偶者が単独で親権を行使します。

4.財産分与の適用はない

離婚と異なり、財産分与の適用はありません。生存配偶者は相続人として、死亡配偶者の財産に対して相続権を持ちます。

なお、離婚についての詳細は、「結婚のために知っておきたい法知識19~離婚後すぐ再婚できる?「氏」はどうなる?・・・」をご覧ください。

姻族関係終了届の法的効果

では、なぜ姻族関係終了届をするのでしょうか。姻族について確認してから、姻族関係を終了させることによる法的効果をみてみましょう。

姻族とは

民法は、「6親等内の血族」、「配偶者」および「3親等内の姻族」を「親族」としています(民法725条)。

民法725条(親族の範囲)

次に掲げる者は、親族とする。

一 六親等内の血族

二 配偶者

三 三親等内の姻族

「血族」とは、血統のつながった者をいいます。

これに対して「姻族」とは、配偶者(夫または妻)の血族のことをいいます。

たとえば、配偶者の父母・兄弟姉妹・甥姪は姻族になります。

姻族関係終了届を届出することによって、亡くなった配偶者の血族と縁を切る効果が発生します。では、なぜ縁を切るのでしょうか。その理由を探ってみましょう。

姻族の扶養義務を回避できる

法的効果としては、姻族の扶養義務を回避できることが挙げられます。

嫁と亡夫の親(舅・姑)の関係(姻族1親等となる)については、原則として扶養義務を負いません。ただし、特別な事情がある場合のみ家庭裁判所が義務を負わせることができるとされています(民法877条2項)。

877条(扶養義務者)

1.直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。

2.家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。

3.前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。

そこで、もし家庭裁判所によって、たとえば嫁が亡夫の父母(舅・姑)の扶養義務を負わされたとしても、姻族関係終了届を届出すれば姻族関係を終了させることができるので扶養義務はその前提を欠き消滅します。その意味では、姻族関係終了届は大きな意味を持つといえます。

このことから、民法学者の大家である我妻栄は、姻族関係終了届を「伝家の宝刀」と呼びました。

姻族関係終了届が増加している背景

しかし、姻族の扶養義務が課せられることは、まずほとんどないと言ってよいでしょう。では、なぜ姻族関係終了届は急増しているのでしょうか。その背景を探ってみましょう。

核家族化の進行

核家族化の進行が挙げられます。

たとえば、配偶者の両親と同居していなかった場合、配偶者が亡くなった後に、今までの付き合いなどを振り返って「舅や姑、義理の兄弟姉妹とは付き合いたくない」と思って届出をする。

家制度の意識の低下

また、核家族化の進行や個人の意識の変化等に伴い、戦前の「家制度」の意識が低下したことも挙げられます。

姻族関係終了届を行った事例

実際に、姻族関係終了届を行った事例を見てみましょう。

相続トラブル

たとえば、義父母や義理の兄弟姉妹と亡夫の遺産を巡って争いになってしまったなど、相続で揉めたことがきっかけとなって届出をした。

不信感

亡夫が結婚前に他の人と結婚していたことが遺産分けで戸籍謄本を取得して発覚した。このことを隠していた義父母や義理の兄弟姉妹に不信感を募らせて届出をした。

お墓の問題

亡夫の生家の墓守をしたくないために届出をした。

姻族関係終了届の方法

方法は簡単です。本籍地または所在地の市区町村に提出すれば足ります。関係を切りたい相手側の許可は必要ありません。自治体によってはホームページから専用用紙をダウンロードできるサービスをしているところもあります。

なぜ「死後離婚」と呼ばれるのか

以上見てきて、姻族関係終了届を「死後離婚」と呼ぶことに違和感を覚える方が多いのではないでしょうか。姻族関係終了届は、姻族、つまり亡き配偶者の血族と縁を切るために行うものであって、亡くなった配偶者と縁を切るために用意されたものではないからです。

理由の一つとして、戦前の家制度の名残が考えられます。

戦前の結婚は、夫と妻が結婚するというよりは、妻が夫の家に入るという認識が強く、「夫の家(姻族)と別れること」が「離婚」と同じ意味と考えられていました。そのため、夫が亡き後に姻族と縁を切ることを、「死後離婚」と言い表したと考えられます。

まとめ

死後離婚とは、正しくは姻族関係終了届のことを指します。その法的効果は、亡き配偶者との姻族関係を終了させることにあります。

実際に、配偶者亡き後に姻族関係が継続していても法的不利益はまずありません。しかし、「結婚は家同士がするもの」といった家制度の考えの衰退や、配偶者が亡くなった後に姻族との間の過去の行いや相続での争いなどをきっかけに「姻族と関係を断ちたい!」という強い意思が届出をさせると推測されます。

このように、姻族関係終了届は、届出の知識の普及や届出の方法が簡単なことや法的不利益はまずないことなどを踏まえると、今後も増えていくと考えられます。

さて、いつか訪れるパートナーの亡き後に、あなたは姻族関係終了届を「する派」ですか?それとも、「しない派」ですか?

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

竹内豊の最近の記事