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正月に、親戚と会うのが憂鬱~亡夫の親戚とバッサリと縁を切る「死後離婚」とは

竹内豊行政書士
お正月に親戚と会うのに、「うんざり」という方もいるのではないでしょうか(提供:イメージマート)

今日は元日です。元日に帰省中の方もいれば、これから帰省する方もいることでしょう。「久しぶりに親戚に会えてうれしい!」という方いれば、「うんざり・・・」という方もいるでしょう。そこで、今回は、うんざりと思っている方の中で、配偶者が亡くなった後に、きれいさっぱり亡き配偶者側の親戚と縁を切りたいという方の法的手段をお伝えしたいと思います。

配偶者が死亡しても姻族関係は継続する

結婚によって発生した姻族関係【注】は、離婚によって消滅します。一方、配偶者(婚姻関係にある妻・夫)が死亡した場合、姻族関係は当然には消滅しません。また、配偶者が死亡後に再婚しても、前の配偶者との姻族関係は継続します。したがって、前婚によって生じた姻族関係をそのままにして再婚することもできます。

【注】姻族関係とは、夫婦の一方と他方の血族との関係であり、婚姻の効果として発生します。民法は、6親等内の血族・配偶者・3親等以内の姻族を「親族」と規定します(民法725条)。

姻族」は、具体的には、配偶者の父母、兄弟姉妹、甥・姪などです。

配偶者が死亡後に姻族関係を終了させるには

姻族関係は生存配偶者が姻族関係終了の意思表示をすることによって終了します。

この姻族関係の終了の意思表示は、一般に「死後離婚」と呼ばれています。

民法728条(離婚等による姻族関係の終了)

1.姻族関係は、離婚によって終了する。

2.夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様とする。

姻族関係を終了するには届出が必要

配偶者が死亡後に姻族関係を終了する方法は簡単です。本籍地または所在地の市区町村に「姻族関係終了の届出」を提出するだけです(民法728条2項に基づく戸籍法96条)。

戸籍法96条(姻族関係の終了)

民法第728条第2項の規定によつて姻族関係を終了させる意思を表示しようとする者は、死亡した配偶者の氏名、本籍及び死亡の年月日を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。なお、関係を切りたい相手側の許可は必要ありません。これに対して、死亡した配偶者の側(義理の父母、義理の兄弟姉妹など)からは、生存配偶者との姻族関係を終了させる手立てはありません。

姻族関係終了届の法的効果

姻族関係終了届を届出することによる法的効果をみてみましょう。

姻族の扶養義務を回避できる

法的効果としては、姻族の扶養義務を回避できることが挙げられます。

嫁と亡夫の親の関係(姻族1親等となる)については、原則として扶養義務を負いません。ただし、「特別な事情」がある場合のみ家庭裁判所が義務を負わせることができるとされています(民法877条2項)。

民法877条(扶養義務者)

1.直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。

2.家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。

3.前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。

そこで、もし家庭裁判所によって、たとえば嫁が亡夫の父母の扶養義務を負わされたとしても、姻族関係終了届を届出すれば姻族関係を終了させることができるので扶養義務はその前提を欠き消滅します。その意味では、姻族関係終了届は意味を持つといえます。このことから、民法学者の大家である我妻栄は、姻族関係終了届を「伝家の宝刀」と呼びました。

姻族関係を終了させる理由

しかし、姻族の扶養義務が課せられることは、実際のところ、まずないと言ってよいでしょう。では、姻族関係を終了させる理由はどこにあるのでしょうか。実際に、姻族関係終了届を行ったよくある原因をご紹介しましょう。

再婚をした

配偶者が亡くなった後に再婚をすることになり、過去の清算として届出を行った。

相続でもめた

義父母や義理の兄弟姉妹と亡夫の遺産を巡って争いになってしまったなど、相続で揉めたことがきっかけとなって届出をした。

亡夫側の親戚の裏切り行為

亡夫が結婚前に他の人と結婚していたことが遺産分けで戸籍謄本を取得して発覚した。「亡夫の秘密」を隠していた義父母をはじめとした亡夫側の親戚に不信感を募らせて届出をした。

お墓問題

亡夫の生家の墓守をしたくないために届出をした。

ご覧いただいたとおり、配偶者亡き後に、姻族関係が継続していても法的不利益はまずありません。しかし、「結婚は家同士がするもの」といった家制度の考えの衰退という背景、姻族との過去のわだかまり、相続での争い、再婚などが理由で「姻族と関係を断ちたい」という意思が姻族関係終了届をさせると推測されます。このように姻族関係終了届は、法的効果を求めるというよりも、心理的効果を求めることが動機となって提出されているようです。

姻族を終了させることで心のもやもやが晴れるのであれば、「姻族関係終了届」について検討してみるのも「あり」かもしれませんね。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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