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パリコレで「着る家」や「着るソファ」登場 コロナ禍で変わるファッションの発想

宮田理江ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター
ANREALAGE 2021年春夏コレクション展示会(筆者撮影)

テントにもなるワンピースや、ソファに変身するドレスなど、まるで「着る家具」と呼べそうな装いが相次いで登場しました。これらの大胆なコレクションを発表したのは、どちらもパリ・コレクションに参加している日本屈指の人気ブランド「ANREALAGE(アンリアレイジ)」と「beautiful people(ビューティフルピープル)」。

コロナ禍が強いた家ごもりは、気持ちを伸びやかに整え、希望をもらえるようなファッションの発想をデザイナーたちにもたらしました。見ているだけでも心が弾みそうな新発想のコレクション。なぜ、今、このような服をクリエーターは発表するのか?こういったコレクションを提案する意味を考察しながらご紹介します。

「家のような服 服のような家」 ANREALAGE(アンリアレイジ)

ANREALAGE 2021年春夏コレクション(画像協力:アンリアレイジ)
ANREALAGE 2021年春夏コレクション(画像協力:アンリアレイジ)

パリコレに参加し続けている、森永邦彦デザイナーが手がける「アンリアレイジ」は、革新的な服でコアなファンが多く、コラボやメディアでも引っ張りだこ。新コレクションでは「着るテント」を発表しました。20を超えるルックの大半がテント仕様。今シーズンのメインテーマに「テント」を据えました。

コレクションのテーマは「HOME」。コンセプトは「家のような服。服のような家。」で、家(テント)と服を自在に行き来できるトランスフォーム(変形)性が斬新です。イメージソースの一つは「ヤドカリ」だそうです。

ショーの動画を見れば分かる通り、様々な形のテントから骨組みをはずせば、そのまま服になる仕掛けです。動画では富士山の裾野に色とりどりのテントを張り、その後、服に様変わりさせています。

テントは2メートルのスペースを確保できるように設計されています。布をたっぷり使っているので、服に変形させた状態でも、しっかりとボリュームがあって、ソーシャルディスタンスを保ちやすくなっています。

ウイルス感染対策で「着るマスク」のようなユニークな発想

テントが原型になっていることもあって、全身をすっぽり包む、小さな家のようなシルエットです。ウイルス対策に役立つとされる銅を用いた繊維で仕立て、特殊な抗ウイルス加工を表面に施しています。ウイルス感染対策に効果が見込めるという点では「着るマスク」のようでもあります。

テントの形は球体、ピラミッド状、6面体、8面体など、何種類も用意されました。色はイエロー、グリーン、ピンクなどのポジティブカラー。目立ちやすいネオンカラーは被災時の救難サインとしても効果的です。目を惹くヘッドピースは建築家の隈研吾氏がデザインしました。

服で「身を守り、気持ちを落ち着かせる」効果

発想の背景にあると思われるのは、コロナ禍に伴う不安や家ごもりでしょう。見た目の美しさに加えて、「身を守る」「気持ちを落ち着かせる」という役割までが服に期待されるようになったのは、ウイルス感染が広がって以降の大きな変化です。世界の有力デザイナーはこういった潜在的ニーズを敏感に感じ取り、クリエーションに写し込んでいます。

まるでクッションの「人をだめにするドレス」 beautiful people(ビューティフルピープル)

beautiful people 2021年春夏コレクション(画像協力:ビューティフルピープル)
beautiful people 2021年春夏コレクション(画像協力:ビューティフルピープル)

同じくパリコレに参加している、日本の有力ブランド「ビューティフルピープル」は、服と家具を融け合わせました。2020年の毎日ファッション大賞を受賞した実力派の熊切秀典デザイナーはコロナ禍で家ごもりが続くうち、「このままソファと一体化してしまうかもしれない」と感じ、「もしも、洋服が住居として変化したら?」というイメージがわいたそうです。

発表された服は、ふっくらしたボリュームを持ち、朗らかな曲線を描くシルエット。一般的な防寒仕様のダウンジャケットは布の間に羽毛を詰め込んでいますが、こちらの「着る家具」では羽毛ではなく、粒の細かいビーズがドレスにたっぷり詰めてあります。全体に丸みを帯びているのは、このビーズのおかげです。

フランスの古い宮廷ドレスには、腰の後ろを過剰に張り出した、「バッスル」と呼ばれるタイプがありました。今回のコレクションではこの張り出し部分にビーズをどっさり詰め込んで膨らませ、そのまま背中を預けられるソファ風に仕上げました。頭を飾るヘッドピースにもビーズを詰めて、枕やクッションとして使えるようにアレンジしています。

おうち時間が楽しくなりそうなビーズクッション

見た目以外の魅力に挙げられるのが、微粒ビーズならではのやわらかい肌触り。ビーズ入りクッションを触ったことのある人なら分かると思いますが、ギュッと押すと、自在に姿を変えるビーズは、体重を自然に受け止めてくれます。

あまりに快適なので「人をダメにするクッション」と呼ばれた「ハナロロ」を開発したタキコウ縫製社とのコラボレーションがこの心地よさの理由。今回のドレスは、家具として使わない場合でも、ソフトな感触が楽しめます。反発の少ないビーズの手触りは気持ちまで穏やかに落ち着かせてくれそうです。

服で「笑顔になれたり、リラックスする」効果

曲線を描く、ユーモラスな形状は、見る人の笑顔を誘う効果もあり、不安の時代にふさわしい装いと言えます。見た目のおしゃれという役割以外に、周りの人たちの気持ちを和ませるコミュニケーションツールという、今の状況に期待される、新たな効果も引き出してくれるという「心の機能性ウエア」です。

「抗コロナ服」は、おしゃれ以上のメリットを感じさせるおしゃれ服

beautiful people 2021年春夏コレクション(画像協力:ビューティフルピープル)
beautiful people 2021年春夏コレクション(画像協力:ビューティフルピープル)

「アンリアレイジ」と「ビューティフルピープル」のコレクションに共通しているのは、withコロナの現実にきちんと向き合いながら、ファッションで気持ちを盛り上げる提案です。

着る人に「おしゃれ」以上のメリットを、安心感やポジティブ気分といった形で提供しようとする意識も感じ取れます。大変な危機を、ダイナミックなデザインで前向きにとらえ直し、希望の種をまくクリエーションは、装うことの大切さをさらに実感させてくれそうです。

(関連サイト)

アンリアレイジ

https://www.anrealage.com/

ビューティフルピープル

https://beautiful-people.jp/

毎日ファッション大賞

https://macs.mainichi.co.jp/fashion/

ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター

多彩なメディアでコレクショントレンド情報をはじめ、着こなし解説、スタイリング指南などを幅広く発信。複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスも経験。自らのテレビ通販ブランドもプロデュース。2014年から「毎日ファッション大賞」推薦委員を経て、22年から同選考委員に。著書に『おしゃれの近道』(学研パブリッシング)ほか。野菜好きが高じて野菜ソムリエ資格を取得。

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