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冠水道路の避難注意 水面下に潜む溺水トラップの危険と対処法

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
トラップに落ちたら浮き具の浮力で浮上する(画像制作:Yahoo!JAPAN)

 溺水トラップとは、冠水で見えなくなったフタのあいたマンホール、側溝、田畑などです。行く先が冠水して、気持ちが急いでいる時には、こういった落とし穴(トラップ)に気が付かずにはまってしまいます。

 9月6日8:00現在、台風10号は奄美大島近海に位置しています。九州では東風が強まり、西側に山を持つ鹿児島県、宮崎県に大雨が降る時間が近づいています。台風がはるかかなたにあるとはいっても、大雨は先にやってきます。日中の大雨なので明るいうちに、まだ道路冠水が始まる前に避難を始める方もおられるかと思います。でも、大雨が続いたら、避難途中に冠水が始まる可能性が大になります。そうなったら、溺水トラップに注意しましょう。

雨が降り始めたらしばらく続く

 昨日9月5日の気象庁の発表で、大淀川を中心に宮崎県の各河川の氾濫等に注意するようにありました。これは台風10号に吹き込む風が海上で十分に湿り、東風となって宮崎県を中心に吹き込み、山沿いで大雨をもたらすことを予報しているからです。

 Windy.comが提供する風向きと雨量との情報を合わせた可視化データは、9月6日お昼ごろからしばらく雨が宮崎県を中心に降る様子を示しており、お昼ごろから続く大雨で心配になり、自宅周辺の道路の冠水が始まる頃に避難を始める方もおられるかもしれません。

溺水トラップ

 道路が冠水して泥水などで覆われると、道路やその周辺にある危険性が全く見えなくなります。危険性とは、フタのあいたマンホール、側溝、田畑などの存在です。道路が冠水し、避難所に向かうとか、家にいる子供を迎えに行くとか、気持ちが急いでいる時には、図1に示す、こういったトラップに気が付かずにはまってしまいます。

図1 冠水道路に潜む溺水トラップの危険と対処法(画像制作:Yahoo!JAPAN)
図1 冠水道路に潜む溺水トラップの危険と対処法(画像制作:Yahoo!JAPAN)

マンホールのトラップ

 カバーイメージで示した通り、道路には下水につながるマンホールがあります。普段は鉄のフタで口が閉じられています。洪水の時、水は河川から溢れるばかりでなく、河川に流れ込むことができない雨水が下水路を逆流して、マンホールから吹き出します。その威力でしばしばマンホールのフタが飛び上がり、外れて口があいていることがあります。

 避難途中にマンホールのトラップにはまった事故が過去にありました。マンホールに体がすっぽりと入ってしまうと、自力脱出はほぼ不可能です。体が垂直になり、例えば背浮きになるように体を動かすことすらできなくなります。万が一このような状態に陥ったら、背負っているリュックサックの浮力か、手に持っている空のペットボトルの浮力を使って浮き上がります。

側溝のトラップ

 図2をご覧ください。ある地方都市の小学校の通学路にあたる道路と、その横にある側溝の写真です。この場所は周囲より土地が低くなっていて、大雨の水がこの側溝に流れ込んできます。側溝と道路の境界には反射板ポールが等間隔に設置されていて、しかもポールとポールの間にはロープが張られています。

図2 道路わきの側溝。冠水時に設置されているポールがなかったら、道路と側溝の境界がわからなくなる(筆者撮影)
図2 道路わきの側溝。冠水時に設置されているポールがなかったら、道路と側溝の境界がわからなくなる(筆者撮影)

 ここでは過去、ポールが設置されてなかった頃、大雨の時に歩行者が側溝に落ちました。道路が冠水した際に、車道を走る車を避けようと必要以上に側溝側に寄ったためです。冠水のため道路と側溝の境界の区別がつかず、ひとつは歩行者自身が側溝に気が付かなかったこと、もうひとつは自動車の運転手が「歩行者には横にまだ歩けるスペースがある」と勘違いしたことが原因として挙げられます。

 どんなに歩行者が気を付けていても、事故が起こる時には他の要因が重なるもの。そういった想定外があるので、やはり冠水してからの屋外避難は避けたいものです。

田畑のトラップ

 図3は田畑に接する道路の例です。このような場所が冠水した時、写真だけでは田畑側に落ちてもすぐに上がってこられるように見えます。実際このくらいの傾斜であれば、普段の水の出てないときなら簡単に歩いて上がることができるのですが、冠水していると上がれなくなります。

図3 道路わきの斜面。これくらいの斜面でも冠水していると徒歩で上がれなくなる(筆者撮影)
図3 道路わきの斜面。これくらいの斜面でも冠水していると徒歩で上がれなくなる(筆者撮影)

 図4のイメージのように、一歩一歩上がっていき、腰が水面に出たくらいの所で足が滑って、それ以上は上がれなくなります。傾斜でいうと分度器の20度くらいよりきつくなるとこの現象が発生します。大雨で田畑の様子を見に行き、流された時に見られる事故原因です。大雨では田畑の様子を見に行かないことにつきます。

図4 斜面を上がろうとしても這い上がれない(筆者作成)
図4 斜面を上がろうとしても這い上がれない(筆者作成)

 どうしても上がれない時には、背浮きになって水面を漂い、救助がくるのを待つしかありません。そして、近くで背浮きで浮いている人を見かけたら助けに行かずに、すぐに119番通報して、消防の救助隊を呼び、救助してもらいます。

まとめ

 避難途中に道路の冠水が突然発生すれば、誰でも慌てて周辺の危険がすっぽりと抜けてしまいます。自宅を前にして、冠水に隠れたトラップに落ちて亡くなる方も過去におられました。トラップにはまったら、リュックサックやペットボトルなどの緊急浮き具を有効に活用し、浮いて呼吸を確保してください。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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