ハッブル宇宙望遠鏡の最新観測で、宇宙膨張の謎がさらに深まる…
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「最新のハッブル宇宙望遠鏡の観測と宇宙膨張の秘密」というテーマで動画をお送りしていきます。
●宇宙の膨張率を表す「ハッブル定数」
○ハッブル定数とは何か?
観測技術の進歩により、地球から遠方にある天体からやってくる光ほど、その波長が伸びていることが判明しています。
これは「赤方偏移」と呼ばれる現象です。
定説のビッグバン宇宙論では、この赤方偏移の原因を宇宙の膨張であると解釈しています。
宇宙空間が膨張していれば、遠方の天体ほど速い速度で地球から後退します。
後退する光源から放たれた光は、ドップラー効果により、本来よりも波長が伸び、赤みがかって見えます。
これにより遠い天体からの光ほど赤方偏移が顕著である説明ができます。
特に地球から10~数百Mpc(1Mpc≒326万光年)までの距離の、比較的近傍の宇宙では、天体の後退速度は地球との距離にほぼ比例していることが知られています。
これは「ハッブル-ルメートルの法則」と呼ばれます。
この法則を数式にすると、v=H0*r(v:後退速度、r:距離)で表されます。
ここで登場する比例定数H0が「ハッブル定数」と呼ばれるものです。
○ハッブル定数の重要性
ハッブル定数は、地球からある距離遠い天体がどれくらいの速度で後退しているのかを決める定数です。
つまりハッブル定数は「宇宙の膨張率」を示しており、H0が大きいほど、宇宙空間が広いという計算になります。
また、宇宙が1点で始まった場合、ある天体の地球からの距離をその天体の後退速度で割る(r/v)と、その天体が宇宙膨張と共にその場所までたどり着くまでにかかった時間、つまり「宇宙の年齢」が求められます。
v=H0*rから、r/v(宇宙の年齢)=1/H0
つまりハッブル定数の逆数が、宇宙の年齢となります。
厳密には宇宙に存在する物質の密度など他の要素も考慮に入れる必要があるものの、最新の推定値は約138億年です。
さらに、正確なH0の値がわかれば、あとはある天体からの光の赤方偏移からその天体の後退速度vを求めるだけで、その天体までの距離rを理解できます。
このようにハッブル定数は宇宙の大きさ、年齢、天体との距離など極めて重要な情報を提供してくれるので、宇宙の性質を理解する上で非常に重要な定数であり、それを推定するために世界中で力がそそがれています。
○HSTによる最新のH0推定
先述のv=H0*rの式において、vの単位はkm/s、rの単位はMpc(約326万光年)が用いられています。
つまりH0は具体的に言うと、「地球との距離が約326万光年離れるごとに後退速度が何km/s速くなるか」を示しています。
ハッブル宇宙望遠鏡(HST)は、過去40年間で観測した全ての超新星のデータを用いて、H0を最高精度で推定しました。
そこで得られた最新の推定値はH0=73.04±1.04であり、これは地球との距離が約326万光年離れるごとに、天体の後退速度が73km/s速くなることを示しています。
この推定結果が誤りである可能性は極めて低く、その確率はたったの100万分の1に過ぎないそうです。
●ハッブル定数の対立
先述のHSTによる超新星を用いた最新のハッブル定数の推定はいわば地球から近傍の宇宙、つまり比較的現代に近い宇宙の情報を反映しています。
一方、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)を用いた推定方法もあります。
CMBは宇宙誕生から約38万年後に起きたとされる「宇宙の晴れ上がり」の瞬間に放たれた、宇宙最古の光です。
CMB以前に放たれた光はこの宇宙に存在していません。
CMBは宇宙のどこでも、全方向からほぼ同じ強度でやってきます。
ただし高性能な観測機器を用いると、わずかな強度の濃淡(ゆらぎ)が観測されます。
このCMBが現在の地球に届いて観測されるまでの過程で、物質の密度が高い場所があればCMBの強度が高まり、逆に密度が低い場所を通過したCMBは強度が下がります。
つまりこのCMBのゆらぎは、主に初期の宇宙における物質の密度の濃淡を反映していると言います。
CMBのゆらぎから初期宇宙の密度の濃淡を推定し、それと合致する濃淡を生み出す宇宙をシミュレーションで作り出すことで、ハッブル定数を含む宇宙論において重要な様々なパラメータを推定することができるそうです。
実はこのCMB推定のように、初期の宇宙の情報を反映したハッブル定数の推定と、最新のHST推定のように現代に近い宇宙の情報を反映したハッブル定数の推定では、その結果に大きな齟齬が存在することが知られています。
上記の図では特に主要なハッブル定数の推定結果が示されていますが、初期宇宙(Early)が67あたり、現代(Late)が73あたりに落ち着いています。先述のHSTの最新推定でも73.04±1.04なので、ドンピシャです。
いずれの観測も精度が高く結果は妥当とされているものの、ハッブル定数の推定結果の齟齬は、線が伸びている誤差の範囲を優に超えてしまっています。
これは現代宇宙論における未解決の大問題の一つです。
推定方法に何らかの不備がある可能性がある一方、この推定値の齟齬が本来の宇宙の姿をそのまま反映したものである可能性もあります。
この推定値の齟齬が正しければ、現代の方が膨張速度が速まっている、あるいは未知の物理法則が働いているなど、現在の宇宙の理解が大幅に書き換わるきっかけとなる可能性もあります。
いずれにせよハッブル定数は非常に重要な概念なので、今後も世界中で研究が進められ、そのより正確な性質が解明されていくことでしょう。