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自壊する商店街 ~ 相次ぐ不正発覚が告げること

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
(ペイレスイメージズ/アフロ)

・次々と明らかになる不正

 今年6月、愛知県と東京都で、相次いで商店街組合の補助金不正受給が明らかになった。

 一つは、愛知県豊田市の商店街組合が、経費を水増しし、市と県から返還請求を受けた。愛知県は、2012年度から2017年度の補助金全額約445万円に加えて加算金約104万円を合わせて請求した。一方、豊田市は同じ6年間分の補助金約2076万円のうちの約1407万円の返還を請求した。この組合では夏祭りなどの事業実施に対して、事業経費の40から80%に相当する補助金を受けていた。水増しの手口は、取引のある業者に経費を前払いした後で、過払い分を返金させるといういわゆるキックバック方式を行っていた。返金された余剰金は、本来は目的外のため、県と市に返金する必要があったが、別のイベントの運営費などに充てていた。

 もう一つは、東京都町田市の商店街組合で、やはり市と都からの補助金を不正受給していたものである。こちらは、事業実施に対して補助金の精算において、領収書を偽造しており、市と都からの補助金全額合計約559万円に加算金約178万円を商店街組合は返還した。

 4月には千葉県木更津市の商店街組合で、経済産業省の地域商業自立促進事業で補助金交付決定が取り消された。補助金額は約3158万円であり、加えて木更津市の補助金100万円も取り消された。組合側が、事実と異なった総会の議事録を提出したことが明らかになったものであり、すでに補助金を見込んで、歴史的建造物の改築が進んでいた。

 これら以外にも、ここ数年、各地で商店街組合の補助金不正受給事件が発覚している。中には事務局長や幹部による横領が指摘され、刑事事件に発展している事例もある。

・氷山の一角か

 こうした「不正」に対しては、商店街側の反論もある。関東地方の商店主は、自身も商店街組合の幹部を務めた経験から、次のように話す。「多くの商店街で、商店街活動を行っている商店主は、身銭を切って活動しており、今まで補助金の不正だと言われてきたものも、個人が着服したわけではなく、別の活動費に流用していただけだ」と言う。続けて、「しかし、領収書を偽造したり、キックバックを業者に頼んだり、架空取引などという不正行為は、悪質だと追及されれば、その通りだ」とも指摘する。

 

 この商店主は、「様々な事業が補助金収入があって当たり前になってしまったことが、だんだんと感覚をマヒさせ、自分たちの金をどう使おうがかまわないのだとなっているのは、猛反省すべき点だと思う」とも言う。

 一方で関西地方のある自治体職員は、「こうした不正受給は、氷山の一角。もし、行政が厳しく監査を行えば、もっと多くの不正が発覚するはず」と言う。

・漫然と続けられてきた理由

 

 商店街への補助金は、大型店の出店による地元中小商業者への支援という名目から、1980年代以降、充実され長年、継続してきた。近年では、中心市街地の活性化やまちづくり、観光振興、さらには地域コミュニティの再構築などを名目を変えながら実施されてきた。

 「行政からすると、アーケードの改築とか、カラー舗装とか、市民からも目に見えるかたちで理解を得やすいし、大売り出しや祭りなどというイベントの補助というと反対する人も少ないという理由から、商店街に補助金を出すのは当たり前と漫然と続けられてきた。マスコミや大学の研究者も、商店街擁護派が多く、補助金で事業をする時には派手に取り上げてくれる。しかし、その後の評価や批判などは少ないために、費用対効果が低くとも、今までは市民に知られることも少なかった。」と関東地方の自治体職員は、そう指摘する。

 商店街組合は自治体の議員からすると大票田であるし、ポスターを貼ってもらうなど支援を受ける重要な団体である。「議員たちにとっても、支援者であったり、友人、知人だったりという関係もあって、どうしても追及の手が甘くなってしまう」と、関西地方のある議員は言う。さらに「補助金の見直しや、改廃などの話になると、商店街組合の幹部やあるいはそこから依頼を受けた議員などが抗議に来ることがあり、結局、毎年、同じような金額の補助金が、名目を変えながら続けられてきた」と先の自治体職員は言う。しかし、これも皮肉なことに商店街の衰退と、個人商店の減少が進む中で、「支持者の中心がサラリーマンだったり、ママさん世代の人たちだったりと、様々な支援母体の議員が出てくることで、商店街組合に定例のように支給される補助金に批判を言う議員も増えてきている」(関東地方の議員)と変化しつつある。

・「ちゃん付けの会議」

 関西地方のある商店経営者は、「補助金をもらって、大売り出しだの福引大会だのをやっても、売り上げが上がる効果は薄い。会議に出ても、自分たちの金もうけなのに、補助金もらえるなら、やろう、ないなら止めようという姿勢の商店主が多い。自分たちが税金を使っているとか、効果はどうなのかという意識が希薄だ」と批判する。

 こうした批判的な意見は、経営者の中にも広がっている。関東地方の商店街の幹事を行う商店主は、「少し前まで、商店街組合の会議に出ると、70歳代、60歳代のおっさんたちが、お互いをちゃん付けで呼び合っていた。その結果、年長者の意見に反対できず、問題があると思っていても、なあなあで済まされてしまう雰囲気が続いてきていた」と言う。さらに続けて、次のようにも言う。「こうした雰囲気を変えられた組合と、そうではない組合とで、これからが決まる。補助金の使い方に関しても、身勝手なことを続けていれば、顧客である市民たちから批判を浴びて、自滅する。自分の金もうけをするのに、補助金がないと動かないという姿勢の商店主は、もう時代遅れだ。」

・平成が終わり、昭和が遠くなる時期に

 不正受給問題が発覚しているのは、行政側の姿勢に変化がみられることや、さらには地方財政の悪化などからこうした補助金に対する市民や地方議員の関心の高まりが背景にある。

 「民間企業であれば、こうした不正があれば、補助金を返還して終わりなんてことはない。指名停止処分や場合によっては、詐欺罪などで刑事告発を受けることもある。同じ経営者としては、納得いかない。」商店街による不正事件を聞いた製造業の中小企業経営者はそう話す。

 昭和が終わってから、すでに30年が過ぎた。商店街支援の必要性が訴えられ、手厚い補助が実施されてきて40年近くが経過してきたわけだ。その間に、社会を取り巻く環境も大きく変化してきた。その変化を自覚せずに、旧態依然の体制と姿勢で望めば、自壊の道しかない。

 商店街に対する補助金制度は、過去の効果や実績を評価し、効果がないものは打ち切るなど、年限を区切った支給に変更するべきだろう。また、適正に経理処理がなされているのかをチェックし、不正が行われていた場合は、返還を請求するのは当然ながら、その後の申請の停止処分などペナルティをしっかりと課すこと、さらに悪質な場合は刑事告発を行うべきである。商店街組合側も、「税金」を使った事業を行っているのだという自覚を強く再認識する必要がある。

 不正受給の発覚が続いているのは、良い意味では商店街も変わろうとしていることの現れだと言える。「いったん膿を出し切って、もう一度、商業者としての在り方を考え直す良いチャンス」(先述の関東地方の商店主)だと考えるべきだ。不正受給の解消は、商売人として、本気で商売をしようとする人たちを中心とした商店街を再構築するには、よい区切りではないだろうか。

 

神戸国際大学経済学部教授

1964年生。上智大学卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、京都府の公設試の在り方検討委員会委員、東京都北区産業活性化ビジョン策定委員会委員、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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