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ハーデン獲得失敗が76ersに与えた影響とは 上位進出へのカギを握る「2選手」

杉浦大介スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 トレードでの戦力補強はかなわず

 1月27日、フィラデルフィアで行われるロサンジェルス・レイカーズ対フィラデルフィア・76ers戦は東西の最高勝率チーム同士の対戦となった。 昨季王者レイカーズがウェスタン・カンファレンスの頂点に君臨しているのは順当な結果としても、76ersがこの位置にいるのはサプライズと感じるファンもいるかもしれない。

 ジョエル・エンビード、ベン・シモンズという2大ヤングスターを看板に据えたシクサーズだが、昨季プレーオフでは第1ラウンドでボストン・セルティックスに0勝4敗で惨敗。この時点で、原型ロースターの継続に疑問を呈する声も少なくなかった。

 実際にオフにはヒューストン・ロケッツから移籍マーケットに出たジェームズ・ハーデンの獲得候補にも挙がり、当初は期待の大きかったエンビード&シモンズが軸のチーム構成はもう秒読みかと思われた。ところが14日、ご存知の通り、ハーデンは地区ライバルのブルックリン・ネッツに移籍が決定してしまう。

 「私の情報源によると、76ersはハーデンを獲得できると思っていた。シモンズ、サイブルには代理人を通じて移籍を予期しておくように告げられていたという」

 フィラデルフィア・インクワイヤーのキース・ポンペイ記者がそう述べていた通り、76ersとロケッツの交渉がかなり具体化していたのは事実のようだ。

 シモンズ、マティス・サイブル、タイリース・マキシー、2つのドラフト指名権を交換要員に提示したという76ersは、本当に最終候補だったのか、それともロケッツがネッツからの交換要員を引き上げるために利用されたのか。その答えははっきりしないが、ともあれハーデン争奪戦は決着。シクサーズがもうしばらく現在の体制で戦い続けることは間違いなさそうである。

ネッツに移籍したハーデン(左)。76ersとロケッツの交渉はリーグ史に残る「What if」として記憶されていくのかもしれない。
ネッツに移籍したハーデン(左)。76ersとロケッツの交渉はリーグ史に残る「What if」として記憶されていくのかもしれない。写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 こうして戦力補強が不発に終われば士気は下がりそうなものだが、少なくともこれまでのところ、シクサーズに悪影響は及ぼされていないようだ。

 ハーデンのネッツ行きが決まった直後、14日のマイアミ・ヒート戦ではイースタンの昨季王者に圧勝。その日からの5戦中4勝と以降も勢いを保った。ヒート、セルティックスといった強豪を蹴散らす姿を見て、勇気づけられたシクサーズファンは多かったに違いない。

MVP候補の呼び声高いエンビード

 好調の立役者になっているのは主砲エンビードだ。序盤戦は平均27.7得点、11.5リバウンドと好成績で、エンビードがプレーした日のシクサーズは12勝2敗。1月12日のヒート戦では45得点、16リバウンド、20、22日のセルティックス戦では2試合で合計80得点を挙げて連勝に導くなど、重要なゲームでの大爆発も少なくない。

 「彼の才能は私が考えていた以上だった。素晴らしいタレントであることは分かっていたが、本当に多くのものを備えている。オフ・ザ・ドリブルで打てるし、様々な場所から得点できる。ポストからのパス出しが弱点かと思っていたが、今季はその面でも素晴らしい。彼のような選手をガードするのは難しいよ」

 今季からシクサーズのHCに就任したドック・リバースがそう述べている通り、巨漢センターは改めてその希有な能力を印象付けていると言えよう。

 これまではムラッ毛が大ブレイクを妨げてきたエンビードだが、今季は心身の充実が感じられる。デビュー当初から将来を嘱望されてきた26歳がついに完全開花すれば、その意味は計り知れない。エンビードがこのままMVPレベルのプレーを続け、シクサーズを上位に引き上げても驚くべきではないのだろう。

シモンズの停滞は不安材料だが

 もっとも、好スタートを切ったからといって、シクサーズがこのまま順風満帆に突っ走るとは限らない。序盤戦はスケジュールに恵まれた感があり、最初の12勝のうち勝ち越しチームから挙げた勝利はジェイソン・テイタムが不在だったセルティックス相手の2勝だけ。エンビード不在時には0勝4敗という脆さも少々気になる。

 また、実働4年目を迎えたシモンズには成長が見られないという意見もある。実際に平均得点は昨季比で3点以上も低下。苦手のジャンプシュートを打つ機会を敬遠する傾向に拍車がかかった印象もある。このままシモンズが停滞を続ければ、「やはりハーデンを獲得できていれば」という声が徐々に増える可能性は否定できまい。

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 ただ、すべてのあとで、ベストメンバーで臨んだ日のシクサーズには昨季のチームにはなかった好リズムが備わっているようにも見える。2019~20シーズンのチームにはサイズはあってもスペースがなかったが、セス・カリー、ダニー・グリーンというシューターの加入でその欠点は解消された。特にカリーはここまで3P成功率53.7%と絶好調で、自軍のプレーメイカーたちを大いに助けている。

 「パスの喜びを思い出しているよ。去年はダブルチームされてパスを出しても、その後のシュートが決まらずに憤りを感じることがあった。そうなると、“すべて自分でやらないと”などと思ってしまうもの。ポストのスペース自体は変わらないけど、今ではシューターがいるから、パスを積極的に出そうという気になる」 

 エンビードのそんな言葉を聞けば、シューターの加入が好循環を生み出していることが伝わってくる。

今年こそ上位進出なるか

 頼れる第3スターのトバイアス・ハリスは1月に入って全試合で17得点以上と今季も安定している。ディフェンシブ・レイティングでリーグ3位という堅守も心強く、大崩れはないはず。昨季まではブレット・ブラウンHCがスター選手に忖度しすぎているという話があったが、リバースHCの手綱捌きに対する評判もここまでは上々だ。

 総合的に見て、完全開花が待たれてきたシクサーズは、今季いよいよ爆発しても何ら不思議はないように思える。あとはシモンズの積極性が増せば、チームの周囲に「今年こそ」という雰囲気が濃厚に漂い始めるかもしれない。

 ハーデンの移籍劇の結果が今後、どう影響していくかはわからない。ブロックバスタートレードに関わったロケッツ、ネッツ、76ers、インディアナ・ペイサーズ、クリーブランド・キャバリアーズに“最後の審判”が下されるのはまだかなり先になるのだろう。

 ただ、継続性とケミストリーの利点を考慮すれば、シクサーズにとって、今回のトレードは後に「成立しなくて良かった」と振り返られることになる可能性は少なからずあるのではないか。そんな結果を導き出すために、すべての鍵は昨季までと同様、エンビードとシモンズが握っていることは間違いない。

必ずしもベストフレンド同士ではないとされるシモンズ(左)とエンビードだが、今季はコミュニケーションがより円滑になったと両者が強調している。
必ずしもベストフレンド同士ではないとされるシモンズ(左)とエンビードだが、今季はコミュニケーションがより円滑になったと両者が強調している。写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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