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「政務三役」は、一体全体何をしているのか?

鈴木崇弘政策研究者、PHP総研特任フェロー
内閣における大臣をはじめとした政務の仕事は国民から見えにくい(写真:イメージマート)

 最近ほとんど使われることのなくなった「政務三役」という言葉がある。読者の皆さんは、この言葉を聞いたことがあるだろうか。さらにその意味が分かるだろうか。

 「政務三役」とは、内閣が任命する「大臣、副大臣、政務官の総称」のことで、「2009年8月の衆議院総選挙で政権交代を果たした、民主党を中心とする鳩山由紀夫内閣は、政治主導を掲げて長年の自民党政権の事務次官をトップとする官僚依存政治からの脱却を提唱、政治家による政務三役を中心とした行政の推進を政権課題としてい」(出典:「政務三役」(百科事典マイペディア(平凡社)))たが、それに固執したがために逆に政権運営を混乱させ、結果として、民主党政権は短命に終わり、失敗した政権運営の象徴とされ、悪名ともなったのである。そのために、「政務三役」という言葉は、近年では使われることはあまりなくなってしまった。

内閣とは
内閣とは提供:イメージマート

 しかしながら、日本の国会は、内閣は議会に対して責任を負い、その存立は議会の信任に依存する制度である議院内閣制を採用している。このため、国会、特に衆議院で多数を占める(そのために総選挙で多数を占める必要がある)政党・政治グループ等が、内閣を組閣し、行政府をコントロールし、政策形成における主導権を握ることになる。

 このように、内閣の立場は、政治的に勝利した政党・政治グループが握ることになる特典ともいうべきものであり、その内閣の長である総理大臣は一般的にはその政党等(要は与党)内において多数を得た者が選出される(注1)。その総理大臣が、主に与党内の議員のなかから大臣(注2)を含む内閣のポストを当てていくことになる(つまり組閣のことである)(注3)。

 このようなことから、少なくとも現在の日本の国会では、三権分立の建前上は立法府と行政府の間には上下関係がない(日本国憲法第41条は、『国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である』と規定している)と考えられるが、行政府の上に立つ内閣の方が立法府よりも重要視されているのである。

 その結果、国政では、内閣でポジションを得ることが、単に国会議員であることよりも上位性、優位性があるという風潮がある。実際、与党自民党における議員のキャリアのルートやチャンネルをみると、初めは党内や国会での経験や役職を経験し、議員の当選回数を重ね、その後並行して内閣のポジションを上げていくことが定式化されている。そして、議員としてのある意味の目標というか上がりのポジションが大臣(職)なのである。

国会とは。国会議員とは
国会とは。国会議員とは提供:イメージマート

 その大臣ポストに至るプロセスのポジションとして、政務官や副大臣があるのだ。副大臣や政務官は、次のような役職である。

 「1999年1月の自民・自由連立政権協議を受けて、2001年1月から従来の政務次官制度を廃止し、各省庁に副大臣と大臣政務官が置かれた。副大臣は、大臣の命を受けて政務を処理する。また大臣の不在時には職務を代行する。大臣政務官は、特定の政策・企画に参加し、政務を処理する。」(出典:「副大臣」新藤宗幸、「知恵蔵」(朝日新聞出版)、2007年)

 また大臣は、一般に行政権の主体たる内閣の構成員で、通常は政府行政各部門の長として国政事務を分担する。しかし、行政機関の長ではないが特定の任務を担う無任所大臣が置かれることもある。

 以上の説明からもわかるように、大臣は特定の行政府の担当あるいは特定の任務があてがわれており、やるべきことは決まっている。そして大臣は、国会で、政府答弁などをしているので、国民は大臣が何をしているかの一端を知ることもできる。

 しかしながら、メディアなどでも報じられているように、大臣職は、一部の有力議員を除く多くの与党議員(特に自民党議員)にとり、当選回数をある程度重ねられた場合の上がりポストなのである。しかも、その大臣のポストの担当分野は、自身の議員としての専門性や関心分野とは関係ない分野であることも多いのだ。さらに派閥の順番で思い出づくりに大臣に就任させてもらっている人もいる(あるいは多い)のが現実なのである。

 この結果、たとえ大臣職についても、大臣として十分な職責・役割を果たす場合が多いとはいえないのが現実なのである。むしろ官僚が振る役割などを演じて、何らかの役割を果たしているかのようにみせているだけのことも多いのだ。

 他方で、筆者は、サポートとする立場で大臣の真近で仕事をさせていただいた経験があるので、官僚のあげてくる政策案などに対抗し、大臣が自身の考えやアイデアを実現することの大変さは実体験している(注4)。

 そのために、多くの議員は、大臣に就任しても、官僚のシナリオ、神輿にのって、「大臣」を演じることになるのだ。

 そのような状況が問題だという問題意識などもあり、1990年代以降の改革で、その状況を改善するべく政治主導のための改革が行われてきた。しかし、政治・議員の側が、その改革に見合った人材の育成等が十分になされてきていないがために、政治の実態としては今も、その改革以前と同じ状況が継続しており、政治主導に向けた改革で克服されることが期待された政策形成における官僚主導は、残念ながら今も変わっていないのだ。

省庁の上に立つ大臣とは何か
省庁の上に立つ大臣とは何か写真:イメージマート

 それでは、副大臣や政務官は、一体何をしているのだろうか。上述したように、民主党政権ができた際には、政務三役は、チームとして機能し、行政・官僚組織をコントロールすることが声高に叫ばれ、それを実行しようとした。だが、経験不足の中、それを強行しようとしたがゆえに、空回りし、官僚との溝を生み、結果として政権運営の失敗に至ったのである。

 そして、その後の2012年末には、自民党・公明党は、政権の再交代を実現した。その政権においては、政務三役の選任の仕方が、三役ともチームとしての選任でなく、個々の議員経歴などに基づき選任される以前の自民党のやり方に戻った。このため、大臣毎の政務三役は、チームとしての一体感は生まれるような環境にはないということができる。

 また上述した、その定義や説明からもわかるように、「副大臣」「政務官」のやるべきことは、「大臣」の小間使い的な側面もあり、それらの大臣との関係によって大きく異なるというか決まってくるのである。その意味では、大臣が、政府三役をチームとして意識し、それらに役割や業務を割り当てていれば、「副大臣」や「政務官」はそれなりの仕事をすることもあるし、できることもあるのである。

 だが、多くの大臣は、そのような対応をとることはないし、上述のような役割をしているのみなのである。そして「副大臣」や「政務官」は、重要な役を果たしているとはいえず、議員の政治活動において「箔」をつける役職名を与えられているだけの面が強いのである(注5)。

大臣の仕事とは
大臣の仕事とは提供:イメージマート

 これまで、「政務三役」という視点から、政治の現実について論じてきた。しかしながら、その内実は必ずしもそうなってはいないが、社会が大きく変化する現在、政治が、前例踏襲やや縦割り中心の行政を主導できる体制は、今後ますます必要であり重要になっていくであろう。

 その際には、行政を適切にコントロールし、運用していく立場にある「政務三役」の役割は当然に重要になる。そして、「政務官」や「副大臣」は、本来はより上のポジションをこなせるようになるための実践的な訓練・経験の機会であるはずだ。

 そのように考えていくと、民主主義的視点からすると、現状はまったくそうなっていないが、議員が「大臣」「副大臣」「政務官」として、どんなことをし、どのような成果や結果を生んでいるのかということに関するデータや情報が、国民に見えるようになっていることが必要なのではないかと思う(注6)。

 政策づくりは、個人プレイではなく、チームプレイあるいは集団プレイであるので、政務三役の役割や活動における透明性や見える化をするのは容易ではないかもしれないが、そのような見える化等の対応や努力をすることは、民主主義社会における政治の役割であるといえるだろう。

 ぜひ本記事を読まれた方々からも、どのようにすれば、その見える化が図れるかの提案をいただきたいと考えている。

(注1)現在の与党である自民党の場合、総裁選で多数を得て選出された者(総裁)が総理大臣になる。

(注2)日本国憲法上は、次の規定からもわかるように、大臣を民間などから任用することも可能である。

 「日本国憲法 第5章内閣 第68条【国務大臣の任命及び罷免】

第1項 内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。 但し、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。」

(注3)総理大臣と大臣の関係は、次の参考からもわかるように、総理大臣は、大臣任免権があり、その権限は以前より強化されてきているが、内閣府を除く別の省庁の主任の長は飽くまで各大臣なのである。

(参考)「首相(総理大臣)の権限」は、「首相は内閣の長として内閣の構成員である国務大臣の任免権を持つ。また閣議を主宰し,閣議にかけて決定した方針に基づいて行政各部を指揮監督する権限が与えられている。国会に対しては内閣を代表して議案を提出し,一般国務や外交案件について国会に報告する。首相はさらに,主任の大臣として内閣府の所掌事務を統括するほか,内閣を代表して自衛隊の最高の指揮監督権を持ち,外国からの武力攻撃などに際して自衛隊の出動を命じることができる。憲法や法律に定められた首相の権限は,第2次世界大戦前のそれに比べると格段に強化された。しかしそれをどの程度まで活用しうるかは,個々の首相がよって立つ与党における権力基盤や,政治指導のスタイルにより決定されることが大きい。」(出典:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)

(注4)この点については、次の資料を参照のこと。

「(必読!)この本を読めば、日本における政策形成の問題と課題の本質がわかる」(鈴木崇弘、Yahoo!ニュース、2020年7月30日)

『「真に」子どもにやさしい国をめざして』(塩崎恭久、未来叢書(メタブレーン)、2020年7月5日)

(注5)政治の世界では、肩書や役職がある面で重要な意味をもっている。政党内の活動や役割でも何でも、実際にはほとんど何の役割を果たしていなくても、肩書や役職が与えられる文化、風土がある。そして、本文でも述べたように、行政(政府)がより重要な意味を有するので、政府のポストは、その内実はどうであれ、政治の世界では、それなりの意味や役割をもっているということができるだろう。

(注6)不十分ではあるが、国会議員の活動の評価に関しては、万年野党が、議員の議会活動を可視化するために、「質問主意書の数」「国会質問の数・時間」「議員立法の数」および「委員長・大臣などを務めた議員」の観点から、独自に「議員ランキング」を公表している。

 これなどを参考にしながら、「政務三役」のパフォーマンスの評価やランキングなどを作成できないだろうか。

政策研究者、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。経済安全保障経営センター研究主幹等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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