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【渡邊雄太&パトリシオ・ガリーノ】大学時代に思い描いた夢が準々決勝進出をかけた一戦で実現

青木崇Basketball Writer
写真提供/George Washington Athletics

 2016年1月、筆者はJ SPORTSが制作した「ドキュメンタリー The REAL バスケットボール 未来を拓く世代 NCAAへの挑戦」用の取材で、渡邊雄太がプレーしていたジョージ・ワシントン大を訪問。渡邊との対談形式でインタビューした時、アルゼンチン出身で2学年上だったパトリシオ・ガリーノは「2020年に東京五輪で対戦できたら最高だね」と話していた。

 2年前の夏、日本はFIBAワールドカップ前に行われた強化試合でアルゼンチンとの対戦が実現。速攻で渡邊がガリーノをかわしてレイアップを決めるなど、2人がマッチアップするシーンは試合中に何度か見られた。試合終了後に2人がハグをするシーンを見た時、筆者はこれが最初で最後の直接対決になると思っていた。

 新型コロナウィルスの感染拡大によって、開催が1年延期になった東京五輪。2月2日に行われた組み合わせ抽選、日本とアルゼンチンは同じグループという結果が出る。五輪代表に選ばれた後に行われた7月6日の記者会見でガリーノと対戦できることについて質問すると、渡邊は素直に喜びの言葉を口にした。

「大学時代からこのことについてずっと話をしていました。“自分たちの国を背負ってプレーできたらいいな”と言っていたので、本当にこの東京オリンピックで叶うというのはすごくうれしいです。組み合わせが決まった時に連絡をとったのと、僕が(NBAの)本契約をしたときに“おめでとう”という連絡を彼がくれました。最近連絡をとっていないですけど、彼とまた東京で会えるのはすごく楽しみです」

 8月1日の試合は、日本もアルゼンチンもグループ戦で2連敗という状態で臨む。1勝すれば他力本願でも準々決勝進出の可能性があるだけに、40分間に渡って激しい攻防が展開されるはずだ。日本のキャプテンとして攻防両面で奮闘し続けている渡邊はスロベニア戦後、「アルゼンチンに勝てば、もちろん他のグループ次第ではありますが、次のラウンドに進むチャンスはまだゼロではないです。そこに向けて、どう戦っていくかを考えながら準備したいです」と話す。

 一方のガリーノは、2019年のワールドカップでアルゼンチンの銀メダル獲得に貢献したものの、ここ2年ひざの故障や新型コロナウィルス感染で長期離脱を強いられた。アメリカのラスベガスで行われたアルゼンチン代表の合宿に参加するまで、ここ2年間でプレーできたのはわずか18試合。今も決して万全なコンディションと言えないかもしれないが、大学時代から定評のあったディフェンス力はアルゼンチンにとって欠かせない。セルヒオ・エルナンデスコーチが信頼する戦力だからこそ、ガリーノはリオ五輪に続いての代表入りを果たしたのだ。

 東京五輪での2試合はいずれも先発したものの、スロベニア戦が2点、スペイン戦はわずか4分18秒しかプレーできなかった。しかし、大学時代に渡邊と語り合った夢の一戦、勝てば準々決勝進出の可能性があることからすれば、過去の2試合と見違えるようなパフォーマンスを見せたとしても不思議ではない。

 そんな2人にとって強い縁のある人物として、ジョージ・ワシントン大の元ヘッドコーチとしてリクルートし、選手としての成長に貢献したマイク・ロナガンの名前をあげることができる。東京五輪で2人が国を代表して対戦することについて質問したところ、次のようなコメントを残してくれた。

「パトリシオと雄太がオリンピックで対戦することにワクワクしています。彼らをリクルートしたとき、2人ともNBAでプレーすることを夢見ていましたが、もっと大きな夢は国を代表してオリンピックに出場することです。それは彼らにかけがえのないものであり、私は彼らの夢を共有していました。 日本とアルゼンチンはバスケットボールが大好きな国であり、2人はコートの内外を問わず、常に自国を代表しています。私はこの特別な若者2人をとても誇りに思います」

 国のプライドを背負った40分間の戦いは、日本かアルゼンチンのどちらかが勝利を手にすることになる。負けたほうは当然悔しい思いをしなければならないが、渡邊とガリーノにとってこの試合は、バスケットボール人生における最高レベルのハイライトとして、一生忘れることのない思い出となるに違いない…。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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