旧統一教会をめぐる問題 「政治と旧統一教会との関係」「解散命令と財産保全」等 課題は山積み
7月7日、全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)は、司法記者クラブにて会見を行いました。「全国弁連」は35年の長きにわたって旧統一教会による被害救済の第一線にたって戦っており、この問題について、誰よりも深くかかわってきています。
5つの事項
昨年に発生した安倍元首相の銃撃事件から1年を迎えましたが、全国弁連は声明のなかで、五つの事項を出しました。
木村壮弁護士は「いまだ、この問題は終わっていません」といい、声明でも「今、改めて考えることは、今後、旧統一教会による種々の被害を再び生み出さないためにはどうするべきか、既に生じた被害をいかに救済していくかということです」と話します。
被勧誘者の信教の自由、自己決定権を侵害しない
声明の一つ目は「旧統一教会に対して」です。
「今後の伝道活動においては、被勧誘者に対し、あらかじめ、勧誘の主体が旧統一教会である事実、及び勧誘目的が同教団への伝道であることを明らかにするとともに、入信後の献金及び伝道等宗教的実践活動の中核部分を明らかにし、被勧誘者の信教の自由及び自己決定権を侵害しないように求める」としています。
この点は非常に重要で、旧統一教会は2009年にコンプライアンス宣言を出して、教団名を隠すという正体を隠しの伝道をしないように徹底させてきたといいますが、実際には、その後も正体を隠しての教義を教え込むビデオセンターに勧誘していた実態や、献金被害もあったことが明らかになっています。
現在、全国統一教会(世界平和統一家庭連合)被害対策弁護団は、第一次~第四次の集団交渉を行っていますが、旧統一教会は各地の信徒会なる団体と個別交渉をするように回答しており、真摯な態度で対応しているとはいえない状況があります。その点にも触れて「個々の信者らに責任を押し付けることなく、自身が生み出した過去の被害・被害者に真摯に向き合い、謝罪の上で、損害の一切を賠償する」ように教団へ求めます。
「旧統一教会との関係断絶」を強く求める
二つ目は「政治と旧統一教会との関係」です。
「各政党並びに国会及び地方自治体に対して、第三者委員会等のしかるべき機関を立ち上げて、その所属する国会議員、地方議会議員全員について、旧統一教会とこれまでの関係について調査し、メディアへの公表を通じて調査結果を有権者に公表する」ことを求めます。
自民党は旧統一教会との関係を絶つことを徹底させるといい、全国弁連の声明でも、政治家には「旧統一教会との関係断絶」を強く求めていますが、吉田正穂弁護士は「旧統一教会と政治の癒着をくつがえすことが本当にできるのか、自民党とはじめとした政党が旧統一教会と決別してもらえるのか」と、この点を非常に憂慮します。
解散命令後に向けての財産保全についての立法の必要性
三つ目は「解散命令と財産保全」についてです。
文化庁には「すみやかなる、宗教法人法第81条1項に基づく旧統一教会の解散命令請求の準備を整えて、裁判所に申し立てを行うように求める」とともに「宗教法人法の解散命令請求がなされた場合に、裁判所が対象宗教法人の財産を管理し、保全を可能にする特別措置法の成立」の必要性を訴えます。
高等裁判所での判決にて解散命令が確定しても、その間に財産の隠匿を通じて、教団の手元に資産がなくなれば、今、損害賠償等の請求をしている被害者への救済ができないことになります。
旧統一教会による財産被害が深刻であり、その救済が本当に必要であると思うのであるならば、すみやかに特別立法措置の検討に向けて動き出さなければなりません。
被害実態に即した不当寄附勧誘防止法の執行の強化と見直し
四つ目として「不当寄附勧誘防止法の見直し」等も求めます。
「政府内または、国会内に検討会等を設置して、被害者・家族の生の声を聞く場を設けて、その声を聞いた上で、被害実態に即した不当寄附勧誘防止法の執行の強化と同法の見直しを行い、新たな法制度の創設」を求めます。
木村弁護士も「(信者である親や)家族がどんどん献金してしまう状況に対して、どうやってそのもとで生活する子供たちを守るのかについても、解決されたといえる状況ではありません」と話すように、見直しに向けた議論を早急に行う必要があります。
第三者虐待防止等の新法の制定、児童虐待防止法の改正
五つ目は「宗教虐待等に対応するための法整備」についてです。
政府・国会に対して「宗教等2世が受けた宗教の信仰等を理由とする虐待を念頭に、第三者虐待防止等の新法の制定または、児童虐待防止法の改正により、第三者による宗教虐待等の禁止を法律上明記するとともに、宗教団体による組織的な宗教虐待等に対処するために国・自治体の権限明確化を図る等の法整備、体制の強化」を求めます。
ここでは、宗教を名乗らない、スピリチュアル・疑似医療・心理セラピー等でも同じような問題が生じる得ることから「等」をつけて、「宗教等2世」にしています。
久保内浩嗣弁護士は「宗教2世の方々が声をあげてくれたことで一気に動きました。しかしこれから長い社会的支援がなければ2世を救うことはできません」として「児童相談所も現状、手一杯なところがある。国としても拡充をして多くの子供を救ってほしい」と話します。
既成宗教団体への強い思い
山口広弁護士は「2005年頃に(旧統一教会の教祖である)文鮮明を訴えるべきではないかという議論が全国弁連のなかでありました。しかし仮に日本で裁判を起こして判決を取ってどうなるんだ。韓国に行って裁判を起こす場合、韓国に協力してくれる弁護士はいるか等、様々な議論をした結果、実行できないまま終わってしまいました。しかしあの時、もし訴えていたら、昨年の(安倍元首相の銃撃)事件が起こらなかったかもしれない」と責任の一端を感じていると話して、悔しさをにじませます。
さらに、既成宗教団体への強い思いも述べました。
「あの事件が起こって、既成宗教団体としてどう思っているのですか?と強く申し上げたい。今、若者の(パワースポット等の)スピリチュアルへの関心が強いものがあ70歳、80歳の高齢者が一人で暮らしている時に、寂しい気持ちを抱えて、自分の人生をどう終わらせていこうかについて、宗教の果たす役割はかかせないものがあると考えます。既成宗教団体としてどうするんですか?」と問いかけます。
「4万5千もある、お寺さんのうち100分の1でもいいから『人生なんでも相談』という看板を出してやったらいいんじゃないですか」と、山口弁護士は様々な会合で訴えてきたといいます。
「関心のある若い僧侶の方に取り組みをしていただいていますが、まだまだ進んでいない残念な状況です。既成宗教団体もこの事件を我がこととして捉えて、これからの日本社会をどうするかを考えてほしい」と強く訴えます。
山上被告の銃撃の動機が旧統一教会への恨みにあったとされるなか、事件が起きたのは、その恨みを誰も聞き出すこともできず、それを解くことができなかったところにあります。
世の中には様々な情報が氾濫しており、それを得ることは簡単ですが、それをどのように解釈して扱えばよいのかが難しい時代です。そこでは、より豊富な人生経験を持った人たちの導きが必要になります。そうした意味においては、既成宗教団体にその役割が大きく求められているといえます。
教団の表と裏の顔に騙されずに、一つ一つの問題解決を
さて旧統一教会のトップである、韓鶴子総裁が6月末、韓部らを前に「日本の政治は滅びるしかないだろう」「岸田を呼びつけて教育を受けさせなさい」などと発言した内容は、大きな波紋を広げています。
しかし元信者の目線からいえば、ようやく隠していた裏の顔を出してきたかとの思いです。というのも、教団は表では柔和な表情をして接してきますが、教義上、この世をサタン世界と見ていますので、自分たちの教団の意向に沿わない者を敵視します。
これまで隠してきた本音の部分を、日本国に対して剥き出しにしてきたといえます。信者にとっては、神様の代身であるとされる、救世主からこれを言われたわけですから、応じるより他はなく、より激しさを増した信者の動きになる可能性もあります。
それだけに、旧統一教会の問題は今後、さらなる被害が起こることも考えられますので、今回、全国弁連から出された声明に危機感をもって耳を傾けて、問題を一つ一つ解決していく必要があります。