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『ONE PIECE』の海軍大将・藤虎は、重力を操って隕石を落とした! そんなことが可能なのか?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。

マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。

さて、今回の研究レポートは……。

NASAが探査衛星をぶつけて、小惑星の軌道を変える実験に成功したが、それで思い出したのが、マンガや特撮の世界で「隕石を操る」人々である。

『仮面ライダー』ではイカデビルが、『NARUTO』ではマダラが、そして『ONE PIECE』では海軍大将・藤虎が隕石を操っていた。

地上で戦っている者が、相手を倒すために隕石を落下させる……というのは、あまりにも壮大である。

ここでは藤虎を例に、どうすればそんなコトができるのか、それをやったらどうなるのかを考えてみたい。

◆どんな隕石を落としたか?

藤虎は、盲目の海軍本部大将で、悪魔の実を食べた「能力者」だ。

彼は、ドレスローザでドンキホーテ・ドフラミンゴと手を組み、トラファルガー・ローと戦ったとき、刀を抜いて瞬時に鞘に納める「居合」の技を見せた。

すると、頭上から巨大な隕石が落ちてくる……!

隕石とは、宇宙を飛び交う岩の塊で、大きなものは小惑星と呼ばれる。

隕石も小惑星も、地球と同じように太陽の周りを回っているが、地球の軌道を斜めに横切るものがあるため、ごくたまに地球にぶつかることがある。

いま確認されている小惑星は80万個。

そのうち地球のすぐそばを通るものは1万個ほどあるといわれ、それらはNEO(地球近傍天体)と呼ばれている。

6600万年前に恐竜を滅亡させたのは、直径15kmのNEOの衝突だった。

また2013年には、直径20mのNEOがロシアに落下し、1491人が負傷した。

小さな天体がこれほどの破壊力を持つのは、落下スピードが驚異的に速いからだ。

藤虎の落とした隕石は、マンガのコマで計ると直径150mほどもあったから、地上には甚大な被害が出るだろう。

◆「重力を操る」とは?

藤虎が隕石を落とせるのは、悪魔の実の力で、重力を操ることができるからだという。

重力は「天体の質量」によって発生する。

たとえば、地球とまったく同じ大きさの天体があって、それが発泡スチロールでできていた場合、その星の地表に立ったときに生じる重力は、地球の280分の1でしかない。

大きな重力を発生させるには、大きな質量なのだ。

ボタンを押せば重力が発生するような機械は、まだ開発されていない。

では藤虎は、どうやって隕石を引き寄せたのか?

前述のとおり、強い重力を発生させるには、自分の体を重くすればよい。

ただ、隕石の軌道に影響を与えるには、地球と同じくらいの重さまで増量する必要があるだろう。

上空1万kmにある隕石を引き寄せるとしたら、必要な体重は

6000000000000000000000t。

そんな体重になったら、隕石も降ってくるだろうが、その前に、すぐ近くにいるローやドフラミンゴが、マッハ17で藤虎にぶつかってくる!

作中でそんなコトは起こらなかったから、藤虎は自分の重力を大きくしたのではなく、地球の重力を強くしたのではないだろうか。

地上1万kmを通過する隕石を地上に落とすには、地球の重力を7.34倍以上にする必要がある。

ここではキリよく、重力を8倍にしたと考えよう。

悪魔の実の力でそれを実行すると、地上ではすべての物体の重さが8倍になる。

体重60kgの人は480kgになってしまうわけで、地球はもう大混乱だ。

◆地上はどうなるか!?

地球は大変なことになるが、これを実現する藤虎もかなり大変である。

マンガでは、藤虎が「では」と言って刀を抜くと、隕石はたちまち迫ってきた。

しかし地上1万kmを通過する隕石が、現在の地球の8倍の重力に引かれた場合、地上に落下するまで53分かかる。

しかも、隕石は地球を回りながら、少しずつ地球に近づいてくるので、真下には落ちない。落下地点は、落下開始地点の真下から1万4600kmも離れた場所である。

さらに、地球は西から東へ自転しているから、落ちてくるまでに地面も動く。ドレスローザが赤道上にあったとすると、藤虎たちがいる場所は53分後には東へ1500kmも動くのだ。

これらをすべて計算していなければ、隕石は見当違いの地点に、ハズれたタイミングで落ちてしまう。

藤虎というのは昭和の時代劇みたいなヒトだが、実はとても緻密だったに違いない。

ところで、こんな隕石が落ちてきて、藤虎たちはどうなったのか?

前述のとおり、隕石の直径が150mだとしたら、その重量は530万t。

これが地面にマッハ78で激突したはずで、その場合、地上には直径2.3kmものクレーターが生じる。

東京駅が中心なら、北は秋葉原、南は浜松町、東は深川、西は霞が関に達する巨大なクレーターだ。

地上にはめちゃくちゃな被害が出るだろうが、誰よりも先にこの3人が死んでしまうのでは……!?

ところが、彼らはそれぞれの技で防御して、無傷だった。

ローは刀で隕石を真っ二つに斬り、ドフラミンゴはその破片の一つを手から出す糸でバラバラに切り刻み、藤虎は、おそらく重力を利用すると思われるバリアのようなもので受け止めたのだ。

その結果、3人が立っていた場所だけが岩の柱のように残り、地面には深いクレーターができていた……!

マッハ78で落下する530万tものモノを、切ったり受け止めたりしたとはモノスゴイ。

でも、そんな能力のない人々にとっては迷惑でしかありませんので、隕石を落とすのは絶対にやめてほしいです。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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