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「5月の長雨」と「五月雨(さみだれ)」は違うが、警戒は同じ

饒村曜気象予報士
雨の茅葺き屋(写真:アフロ)

本州から九州にかけてに前線が停滞しています。梅雨入りをしていませんので、この前線は梅雨前線とはいいません。そして、前線上を小さな低気圧が通過するタイミングで非常に強い雨が降り、熊本県と鹿児島県では土砂災害警戒情報が発表となっています。

図1 地上天気図(平成28年5月10日15時、気象庁HPより)
図1 地上天気図(平成28年5月10日15時、気象庁HPより)

梅雨入り前の5月の雨なので「走り梅雨」と呼ぶ現象で、梅雨の雨である「五月雨(さみだれ)」とは違います。しかし、停滞する前線は梅雨前線に似ていますし、雨の降り方も梅雨時の豪雨に似ています。熊本地震で地盤が緩んいる地方では、大雨警報や土砂災害警戒情報の発表基準が引き下げられ、早めに発表するようになっていますが、雨の降り方には厳重な警戒が必要ですし、強い雨が止んだからといっても、しばらくは土砂災害等に警戒が必要です。

図2は熊本県の土砂災害警戒情報第1号の発表市町村の図です。10日の17時15分に熊本地方気象台と熊本県が共同発表したもので、図の点線の表示は熊本地震の影響域です。この段階での土砂災害警戒情報の対象市町村は、天草市東部だけですが、今後増える可能性もあり、今夜は情報入手に務めて警戒する必要があります。

図2 土砂災害警戒情報(気象庁HPより)
図2 土砂災害警戒情報(気象庁HPより)

以上、5月10日18時に追記

本州から九州の南岸に前線が停滞し、今週の前半は東日本から西日本で梅雨のような天気となります。走り梅雨です。

梅雨という言葉

晩春から夏にかけて雨や曇りの日が多く現れる期間が「梅雨」ですが、降雨や曇天が続くと、梅雨と似ているということから、語尾に「梅雨」をつけた言葉が使われます。菜種の花が咲く頃(3月~4月)にかけての連続した降雨を「菜種梅雨」(なたねつゆ)といいます。沖縄では5月上旬に梅雨入りですが、本州・四国・九州の梅雨入りは6月前半ですので、5月のぐずついた天気は「先駆け」の意味から走りをついた「走り梅雨」となります。「前梅雨」、「迎え梅雨」ということもあります。ちょうど、その時期が卯の花が咲くころにあたり、卯の花を腐らせるような雨ということから、卯の花腐し(くたし)とも呼ぶことがあります。また、筍が旬であることから「筍梅雨」と呼ぶ地方もあります。

また、一般的には、北海道には梅雨はありませんが、年によっては本州と同じ時期に2週間くらい、リラ冷えと呼ばれる肌寒い天気が続くことがあり、「蝦夷梅雨」と呼ばれます。

梅雨末期にはそろそろ梅雨が明けるということで「送り梅雨」、梅雨明け後に現れる持続的な悪天が「戻り梅雨」です。

初秋の長雨は「すすき梅雨」、晩秋から初冬の長雨は「さざんか梅雨」です。

このように、ほぼ一年にわたって「梅雨」という言葉があるのは、日本人にとって梅雨が非常に大きな関心事であることの反映と考えられます。

5月の雨と五月雨

旧暦では、現在の暦より約一ヶ月遅れていますので、「五月雨(さみだれ)」は6月の梅雨の雨をさし、「五月雨をあつめて早し最上川(芭蕉)」は梅雨時の歌です。

また、五月晴(さつきばれ)は梅雨時の貴重な晴れ間のことであり、現在広く使われている「5月の晴天」の意味ではありません。

ちなみに、気象庁の情報などで使う気象用語集では、「さつき晴れ」を5月の晴天として解説用語(広く使う予報用語ではなく、報道発表資料や予報解説資料に用いる用語)に、「さみだれ」は梅雨期の雨とし、使用を控える用語となっています。

平成16年の「走り梅雨」

平成16年の5月は、東京で9日から24日まで連続して雨が降るなど、本州付近に前線が停滞した影響で雨や曇りの日が多くなり、南から暖湿気流が入った場所では大気が不安定となって大雨となりました。5月16日~17日にかけては、西日本を中心とした強い雨で、土砂崩れや浸水被害が発生し、交通機関に影響がでました。

また、静岡県ではモトクロス大会参加者67人が増水した天竜川の中州に取り残され、ヘリコプターが出動する騒ぎになりました。また、5月19~21日に台風2号が本州の南岸を東進したため、再び前線活動が活発となりました。

このときの前線は、梅雨前線と同じ性質ですが、梅雨入り前(この年の中国・四国・九州の梅雨入りが5月29日)なので梅雨前線とは呼びません。

「走り梅雨」でも警戒を

近年の梅雨は、前半はシトシト降り、強い雨は後半というパターンが崩れているようにも思います。また、2月下旬から3月上旬に「走り菜種梅雨」があったり、走り梅雨や梅雨前半に強い雨が降る傾向もあり、気候の変動との関係が議論されたりしています。走り梅雨といっても、梅雨期なみに(五月雨なみに)警戒しておいたほうが良い時代に入っているかもしれません。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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