コロナ死で訴訟、従業員遺族が世界最大小売ウォルマート相手に(専門家はどう見る?)
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)危機が世界中で深刻化する中、多くの州で自宅待機令が出ているアメリカ。こんな状況でも通常通り働いてくれるエッセンシャルワーカーへの感謝と労いの気持ちは日に日に強くなる。
エッセンシャルワーカーとは医療従事者や救急隊員を思いがちだが、それらフロントライン(最前線)の人々に加え、スーパーや薬局、クリーニング、郵便局、銀行、電気、水道、ガソリンスタンド、警察、ゴミ収集業などさまざまな業種も含まれる。つまり外出制限中でも最低限の生活を維持するために働いてくれているすべての人を指す。
巨大スーパーの店員がコロナ死
米シカゴ市では3月、ウォルマート(Walmart)の店舗で働く店員2人(48歳、52歳、共に男性)が新型コロナウイルスに感染し死亡した。遺族が4月6日、ウォルマートを相手取り訴訟を起こしたことが明らかになった。
ウォルマートといえば、国内の小売最大手で売上高が世界最大の巨大スーパー&リテール店である。ここで何が起こったのか?
遺族の弁護士によると、3月中旬、店員の1人に感染の兆候が見られマネージャーに相談したが、真剣に取り扱ってもらえなかった。23日になって帰宅を指示されたが、2日後に自宅で死亡しているのが見つかった。またその4日後、同じ店舗の別の店員もコロナにより死亡した。
今後の訴訟の行方を握る鍵は、雇用主側が責任ある企業市民として、エッセンシャルワーカー(従業員)のために感染防止や安全の確保に努めようと行動したか否かだろう。
「3密」の条件がそろうウォルマートのような店舗の場合、感染のリスクが非常に高い。にもかかわらず、同社は店員同士や客との距離を2メートル以上離す指導をせず、マスクなど防護具の提供をしなかった。また従業員のウイルス感染の兆候が確認された後もその事実をほかの従業員に知らせることも怠った。これらは従業員のみならず顧客の安全性も軽視した重大な過失として捉えられている。
実はケンタッキー州の別のウォルマートでも、緊急病気休暇法(2020年のみ有効)による特別休暇を感染の疑いがある従業員に与えていなかったこともわかり、同社の企業体制のボロが次々に明るみになっている。
米専門家はどう見る?
訴訟大国アメリカでは、このまま新型コロナ危機が長引けば、今後も同様の裁判が増えるかもしれない。会社法や雇用法の専門家はどう見るか?
米バーンズ&ソーンバーグ法律事務所の山本真理弁護士とテリー・ドーソン弁護士が、先日ジェトロ(JETRO)により開催されたウェビナー「新型コロナ感染拡大下での事業運営とは」を通して、この問題についても触れた。
同事務所には、「従業員が感染を恐れ出社を拒否するケースが増えているが、どうするべきか?」という質問が先週あたりから多く寄せられるようになったという。店舗に加え工場や倉庫でも従業員が出社を拒否したり、安全性が守られていないことで訴訟問題に発展している。
例えばアマゾンでも倉庫で働く従業員にウイルスの陽性判定が出た後、従業員がストライキを起こすケースが発生している。従業員らは2週間の倉庫閉鎖、念入りな消毒などの安全対策、有給の医療休暇を求めているという。
「会社は社員の安全と健康を守る義務がある。また、このような事態において社員側には出社を拒否する権利があります」とドーソン弁護士(解説:山本弁護士)。会社は従業員の休暇を無給扱いにはできても「出社拒否を理由に解雇することはできないと法律で定められています」。
会社が従業員をどのように守るかについては、具体的に以下のことが提案された。
- 体温測定
- 従業員に症状がないか尋ねる
- シフトをずらす
- 従業員間の距離を確保する
- マスクなどの適切な保護用具を提供する
- 清掃や消毒を行う
- (自宅待機令を破ると罰せられる州では)エッセンシャルビジネスであることを証明するレターを発行し、従業員に携帯させる
以上、あくまでもアメリカでの事例だが、似たような問題がこれから日本でも起こってくることは十分考えられる。日本とアメリカでは法律が違うが、従業員側の安全が守られて当然なのは両国共通だろう。
また顧客目線としても(たまにニュースで見るような)品切れなどを理由に日々のストレスを店員に当たり散らす自分勝手な理由はどこにもないことを申し添えておく。
ウォルマート関連の過去記事:
(Text and some photos by Kasumi Abe) 無断転載禁止