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高齢化する親の家に同居する中年世代の子どもとの“親子共倒れ”危機

池上正樹心と街を追うジャーナリスト
地方で開催する「ひきこもり」家族会の講演会には遠くからも当事者や家族が詰めかける

8月30日に、<老人漂流社会「親子共倒れを防げ」>というNHKスペシャルが放送された。

年老いた親の家に、働き盛りの中年世代の子どもが親の年金などの収入を頼りに同居する。そんな世帯が増えているという内容だ。

筆者はこれまでも、高年齢化する子どもの側からの目線で、「ダイヤモンド・オンライン」http://diamond.jp/category/s-hikikomoriなどのメディアで報告してきた話でもあり、とくに目新しさがあったわけではない。ただ、このように年老いた親側の目線からアプローチしてみても、行き着く先は、やはり同じ課題につながっていくのだということを、改めて痛感させられる。

筆者の読者用アドレスに毎日寄せられてくるメールの多くは、様々な理由から社会を離脱して戻ることができずにいる「ひきこもり」系の当事者や、先行きが不安定で見えないままギリギリの生活を強いられている非正規や派遣といった、30代以上の中年世代からの相談や訴えなどだ。

そんな彼らは、年老いた親の体調を気遣い、十分な収入を得られないなどの経済的な理由などもあって、実家で親と同居し続ける傾向がある。

番組でも、失業をきっかけに親を介護するため、都会から40代の息子が戻ってきたという80歳代の父親の家庭が紹介されていた。

年金は10万円弱。受給日前になると、お金は底をつく。通帳に記載された貯金は、わずか312円。

「老後は、子どもがいれば、心配ないと思っていた。本当は破産。厳しいな、現実は」

父親は、そう言って、ため息をつく。

筆者が取材した中にも、困窮高齢者の家庭訪問先で、30~50歳代の引きこもり当事者がいたという話を数多く聞いた。

ある介護者が、年老いた女性の自宅を訪ねると、女性の年金収入を頼りに、50代の息子夫婦も3人の孫たちもずっと家の中にいて仕事に就かず、引きこもっていたという。このように、地域の中で、3世代の一家が丸ごと“引きこもり”状態になっている世帯もあるのだ。

98歳の母親が亡くなり、姉妹が転居して行った住宅を解体していたところ、当時48歳の息子のミイラ遺体が布団や埋もれたゴミの中から発見されたという話も、最近紹介した。男性の遺体は、すでに死後数年が経過していたという。

民家の2階の部屋から58歳の無職の息子とみられる白骨化した遺体が発見されたケースでも、両親と同居していたが、82歳の父親は足が不自由、78歳の母親は認知症で、年老いた両親は長い間、息子が亡くなっていることに気づかなかったらしい。

親が借金を背負ったことによって、同居する子どもをも巻き込んで、家族で身動きが取れなくなっているケースも少なくない。

親の年代が、これまでのように退職金や年金といった安定した収入を得られる見込みが小さくなり、家庭を支えきれなくなってきているという時代的背景もある。

長年、同居していた中高年の子どもが親元から自立しようとして不動産屋で部屋を探しても、「無職」を理由になかなかアパートを借りられない。

真面目な親子ほど、生活保護などの福祉に頼ることに対し、「社会には迷惑をかけられないから」といった後ろめたさや抵抗感もある。

そんな現実を行政や関係機関に訴えて、打開策を一緒に考えてもらわなければいけない。しかし、地域に知られることを恥と感じて、相談に動こうとしない親もいる。

深刻なのは、親子の高齢化が進んで、家族内でもコミュニケーションが取れずに、それぞれが孤立していることだ。

筆者が地方の講演会などのイベントに呼ばれて行くと、どこへ行っても「自分が亡くなったら、残された子どもはどうなるのか?」「いまのままでは死んでも死にきれない」などと、親にすがりつかれる。そうした親たちは、15年、20年と“”答え“を探してきたけど見つからず、親亡き後”の将来を心配しているのだ。

筆者の元には、こうした「どこにも相談できない」とか「どこに行けばいいのかわからない」といった窮状や嘆きの綴られたメールも、全国から数多く届く。

番組では、親と同居する35歳~44歳の未婚者は305万人に上り、失業率は1割を超えるという総務省のデータを紹介していた。

また、ある住宅地で、地域の民生委員の協議会とNHKが共同で行った調査によると、高齢世帯のうち、子供と同居するのは5世帯に1世帯以上。そのうち主な収入が親の年金と回答した世帯は、4割に上ったという。

親に万一のことがあれば、「親子共倒れ」になる。

若年者やシルバー世代に対しては、手厚い支援制度がある。しかし、そんな世代の合間の中高年層には、働き盛りという観点からか、サポートを受けられる仕組みがあまりない。そのことにうすうす気づいていながら、中高年層に対しては、実態調査もヒアリングも行うことなく放置しているのだとしたら、明らかな行政の不備といえる。

そもそも、年老いた親と一緒に暮らす子どもが世帯分離をしなければ、生活保護などのセーフティネットも受けることができない制度であることが前提になっているように番組からは受け取れた。

実際、やっとの思いで決心して世帯分離しようにも、転居するにはお金がかかるし、携帯や交通費なども必要になる。何か新しいことを始めるときには、それなりの経費がかかる故に身動きが取れなくなって貧困化する。

家族というセーフティネットが消耗してしまったとき、親と同居していても生活保護は受けられるはずなのに、現実はハードルが高い。現場では「世帯分離」が“水際作戦”の理由づけにされているのではないかと思える。そうした視点からの検証も欲しかった。

今回は、とても大事な目線からの番組だった。ただ、もう少し補足が必要だったように思う。

心と街を追うジャーナリスト

通信社などの勤務を経てジャーナリスト。約30年前にわたって「ひきこもり」関係の取材を続けている。兄弟姉妹オンライン支部長。「ひきこもりフューチャーセッション庵-IORI-」設立メンバー。岐阜市ひきこもり支援連携会議座長、江戸川区ひきこもりサポート協議会副座長、港区ひきこもり支援調整会議委員、厚労省ひきこもり広報事業企画検討委員会委員等。著書『ルポ「8050問題」』『ルポひきこもり未満』『ふたたび、ここから~東日本大震災・石巻の人たちの50日間』等多数。『ひきこもり先生』や『こもりびと』などのNHKドラマの監修も務める。テレビやラジオにも多数出演。全国各地の行政機関などで講演

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