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アルゼンチンからやって来た、哀しき咬ませ犬

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
Mikey Williams/Top Rank

 17戦全勝16KOの24歳、セバスチャン・ヘルナンデスの相手に抜擢されたのは、14勝(3KO)4敗のアルゼンチン人、セルヒオ・マーティン・ソーサ(30)だった。

 「3つのノックアウト勝ちなら、恐れることはない。簡単に料理できる」とでも言いた気な24歳のメキシカンは、自身たっぷりにゴングを聞いた。

 スーパーバンタム級10回戦。オープニングベルを聞くと、負け知らずのヘルナンデスはジワジワとプレッシャーをかけ、咬ませ犬を追い込んで行った。ソーサは苦し紛れにクリンチし、ジャブを放つが弱々しい。ヘルナンデスはボディへのジャブを再三繰り出す。両者は、パンチ力に大きな差があった。

Mikey Williams/Top Rank
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 2回に入ると、ロープに詰めたヘルナンデスがコンビネーションを見せた。ショートの左フックが効果的だ。ソーサも打ち返すが、いかんせん破壊力が無い。両腕の細さがパワーに比例しているかに映る。

 ラウンドを重ねるに連れ、ソーサの弱々しさに拍車がかかる。アルゼンチンの首都、ブエノスアイレスからやってきたソーサだが、どう冷静に見ても一矢報いるだけの技量は持ち合わせていない。体を折り畳み、ヘルナンデスのパンチに耐えながらタイミングを図里、自身のパンチを振るうのだが、24歳にはまったく効いていなかった。

Mikey Williams/Top Rank
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 5回終盤、ラッシュを浴びて防戦一方になるソーサはゴングに救われる。翌6ラウンド、唸り声を上げながらトリプルのワンツーを放つ。同ラウンドに、3度そんなシーンを作ったが展開を変えることは出来なかった。

 そして迎えた第7ラウンド。残り30秒になろうとした折、滅多打ちにされるアルゼンチン人ファイターを見かねたコーナーからタオルが投入された。この回、レフェリーがソーサ減点を告げていた点が解せない。何度映像を見返しても、特に理由は見当たらない。

Mikey Williams/Top Rank
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 昨今のアルゼンチン国民は、高インフレに苦しめられてきた。ご存知のようにサッカー王国だが、1部リーグのクラブに所属する選手でも給与の未払いに泣かされるケースが珍しくない。

 ボクサーたちも「米ドルを得られるのなら」と、斬られ役を宛てがわれても受け入れる傾向にある。ヘルナンデスに肩を抱かれるソーサの姿を目に、何ともやるせない気持ちになった。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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