プロ転向後12連勝中の東京オリンピック銀メダリストだが…
2021年の東京五輪で銀メダルを獲得した身長188センチ、リーチ193センチのヘビー級サウスポー、リチャード・トーレズ・ジュニア。
プロ転向後も11戦全勝10KOと順調に歩を進めてきた。祖父、父、トーレズと3代にわたってボクサーという家系だ。25歳の彼は、父の指導でオリンピアンとなった。そして今尚、その父親がチーフセコンドに付いている。
トーレズは9月20日以来のリングに上がった。前回の相手はマウスピースを6度も吐き出すという醜態を晒した咬ませ犬。12戦目の相手は、18勝(15KO)1敗1分のメキシカン、イサック・ムニョスだった。32歳のムニョスは身長185センチ、リーチ191センチと、数字では見劣りしなかった。
今年5月にNABFチャンピオンとなったトーレズは、2度目の防衛戦としてムニョスを迎えた。
ゴングと同時に両者はハイテンポでステップを踏み、前の手で互いのグローブを叩き合う。この時に目立ったのは、ベルトラインからはみ出たムニョスの贅肉であった。
トーレズは間断なくジャブを放ち、時にボディへのストレート、右フックをムニョスに浴びせる。ほどなく下唇から出血した32歳は、クリンチ以外にディフェンスを知らない。ほんの数秒だが、銀メダリストに背を向ける形で顔面をヒットされる。
2ラウンドに入ってからも、ムニョスはトーレズのパンチを躱し切れない。劣勢になると真っ直ぐにロープまで下がる。この男もまた、Top Rankが探し出した<斬られ役>であることが分かった。同ラウンド終盤にトリプルの左ショートを喰らうと、縋るような弱々しい表情を浮かべた。もはや、戦意を喪失していたのかもしれなかった。
第3ラウンドのゴング直後、トーレズのワンツーがヒット。ムニョスはロープを背負い、打たれるだけとなる。
58秒、トーレズの左が顔面を捉えた折、レフェリーが試合を止めた。力士のような腹をしたムニョスは、青いシャツを着たレフェリーに抱き抱えられると、ホッとしたような顔になった。
デビュー以来12連勝中のトーレズだが、まだアマチュアスタイルが抜けない。今の力量でこれだけの勝ち星を重ねられるのは、ボブ・アラムの庇護があるからだ。銀メダリストは真の実力者となれるだろうか。