「大坂選手のつぶやきが炎上」米紙が伝えた日本の人種差別
無抵抗の黒人男性を白人警官が暴行死させた米国の事件をきっかけに人種差別に抗議するデモが世界中に広がる中、米有力紙のワシントン・ポストは、プロテニスの大坂なおみ選手の発言が日本国内で炎上していることを取り上げ、日本の内なる人種差別問題を世界に発信した。
ツイートに批判の嵐
米国在住の大坂選手は、ミネソタ州で起きた黒人男性の暴行死事件の直後から、ツイッター上で「あなたの身に起きていなくても、それは何も起きていないということを意味しない」と事件に関心を持つよう呼びかけたり、人種差別を批判してアメリカンフットボールのプロリーグを事実上、追放された黒人選手の写真を載せたりして、人種差別に強く抗議してきた。
そうした中、激しい炎上を招いたのは、大阪市内で7日に開催された人種差別反対デモに関する4日のリツイート。大坂選手は日本語で「お願いしいます」(原文ママ)と書き込み、デモへの参加を呼び掛けた。
ところが、直後から、「怒りに満ちたコメントが洪水のように押し寄せた」(ワシントン・ポスト紙)。デモの告知チラシでは、新型コロナウイルスの感染拡大防止のためマスクや手袋の着用を呼び掛けていたが、「新型コロナの感染拡大を招く」としてデモの開催を非難する投稿が相次いだほか、中には「日本には人種差別問題は存在しない」「デモは左翼の活動家によって計画されたものだ」といった投稿もあった、と同紙は伝えた。
多くは大坂選手に賛同
怒りは大坂選手本人にも向けられ、ある投稿者は「ナオミ・オオサカは日本の誇りには見えない。あくまで個人的な意見だが、私は彼女のことをテロリストと認識しており、今後は紳士のスポーツであるテニスにはかかわって欲しくない」と書き込んだ。(注:投稿の原文は日本語だが、ワシントン・ポスト紙がどう伝えたかが本稿の趣旨であるため、ここでは敢えて、同紙が英語に訳したものを筆者が日本語に訳し直した。このため、原文と一言一句同じではない)
同紙は、「人種差別反対デモは日本国内の人種差別に関する議論の扉を開いたが、右翼の国粋主義者からの反発を招いている」と指摘した。
一方で、同紙は、新型コロナで国内外の注目を浴びた岩田健太郎・神戸大学教授が「けっして沈黙しないで。私たちはいつもあなたと一緒です。どんな形の人種差別にもノーと言いましょう」(原文は英語)とコメントを寄せたことを紹介しながら、多くの日本人が大坂選手に賛同し、また、大坂選手への攻撃を非難していると伝えた。
日本でも「息ができない」
同紙はさらに同じ記事の中で、日本の定住者ビザを得て飲食店で働いているクルド人男性が、東京都内の路上で突然、職務質問を受け、警官2人に抑え込まれて全治1カ月のけがをした事件を取り上げた。
事件は、警官が「なめんなよ」などと声を荒げながら、ほぼ無抵抗の男性の足を蹴るなどして地面に引き倒す様子を撮影した動画が、拡散。5月30日には、警視庁渋谷署前に約200人が集まり、抗議デモが開かれた。取材した毎日新聞によると、男性は警官に首を絞められて「息ができない」と訴えたのに、その警官は男性の友人が撮影していることに気付くまで力を緩めなかったという。今月6日にJR渋谷駅前で開かれた米国の事件に対する500人規模の抗議デモでも、参加者はクルド人男性への日本の警察の対応を批判した。
根強い差別意識
ワシントン・ポスト紙は、日本では外国人が日常的に警察の職務質問の対象になっているが白人はめったに職務質問されない、日本では外国人の脅威を強調したり警察の対応を正当化したりするために犯罪統計が悪用されている、日本のメディアは警察の言いなりになっているとの関係者の見方を紹介し、人種差別が日本でも根強いことを示唆した。
ワシントン・ポスト紙は、米国の日刊紙としてはニューヨーク・タイムズ紙と並ぶ影響力を持ち、米国外にも読者は多い。