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日比谷野音100周年。亀田誠治が目指す日比谷音楽祭の「音楽の未来を作る新しい仕組み」とは

柴那典音楽ジャーナリスト
「日比谷音楽祭 2023」出演アーティスト(提供:日比谷音楽祭実行委員会)

6月3日、4日に東京・日比谷公園と周辺エリアにて入場無料の野外音楽イベント「祝・日比谷野音100周年 日比谷音楽祭 2023」が開催される。

音楽プロデューサーの亀田誠治が実行委員長を務める「日比谷音楽祭」は、世代やジャンルを超えた音楽体験を無料で楽しめる場を作ることを目的に2019年にスタートした音楽フェスだ。

これまでに発表されている「祝・日比谷野音100周年 日比谷音楽祭 2023」の主演アーティストは、桜井和寿、石川さゆり、木村カエラ、KREVA、WONK、小山田壮平、Ovall、おお雨(おおはた雄一+坂本美雨)など。今年も豪華なラインナップが実現した。昨年に大ブレイクしたTani Yuuki、湘南出身のシンガーソングライターさらさ、20年に結成されたロックバンド帝国喫茶など、新進気鋭のアーティストも登場する。

ロックやポップスの人気アーティストにとどまらない幅広い音楽ジャンルのライブや、楽器演奏体験など参加型のワークショップのプログラムが行われるのも特徴だ。和楽器グループと矢井田 瞳のスペシャルコラボによる龍声~Ryusei~ with 矢井田 瞳、フラメンコギタリストの沖仁、世界的に活躍する若きヒューマン・ビートボクサーのSO-SO、絵本の読み聞かせを行う《聞かせ屋。けいたろう》など、多彩な面々が集まる。

亀田はイベントについてこう語る。

「今年の日比谷音楽祭は、『明けていく』と『開けていく』の響きを重ね合わせながら、3年にもわたるコロナ禍で制限され、失われてしまったリアル体験の素晴らしさを伝えていきます。親子孫三世代が楽しめる日比谷音楽祭らしさはそのままに、様々な才能あふれるZ世代以降のアーティストが多数出演します。どのアーティストも僕自身がアンテナを張り、実際にライブやコンサートに足を運び、お声がけさせていただいた素晴らしいアーティスト達です。彼らが間違いなくこれからの音楽を切り開いていくでしょう」

亀田誠治(画像提供:日比谷音楽祭実行委員会)
亀田誠治(画像提供:日比谷音楽祭実行委員会)

■クラウドファンディング実施と、広がる「新しい音楽の循環」への共感

初開催からは今年で5年目となる。2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止、2021年は無観客生配信のみの開催となったが、2022年は3年ぶりに有観客とオンラインにて開催され、3日間で延べ10万人が参加、生配信と見逃し配信で20.8万人が視聴した。

これまでの日比谷音楽祭の歩みを、亀田はこう振り返る。

「トップアーティストが都心の公園から、無料で、垣根なく音楽の素晴らしさを伝えていくボーダーレスな野外音楽フェスが誕生し、少しずつ定着していった5年間でした。コロナ禍や社会情勢不安をはじめ、みんなが何かしらの生きづらさを感じる難しい時代の中で、音楽文化を応援し、未来を創成していく新しい仕組みを受け入れて貰えてきたと実感しています」

日比谷音楽祭の最大の特徴は、コンサートやワークショップなどへの参加がすべて無料であることだ。運営資金は、企業からの協賛金、行政の助成金、そして個人からのクラウドファンディングによる支援金によってまかなわれている。

構想の背景には、ニューヨークのセントラルパークで毎年夏に開催される入場無料の「サマーステージ」への憧れがあった。一般的な大型野外フェスではチケットの売上収入で運営経費をまかなっている。チケット収益によらない日比谷音楽祭の運営方式は異例だったが、企業と個人と行政が文化事業を支えることで誰もが自由に音楽に出会える場を作るという「新しい音楽の循環」をコンセプトに掲げるイベントへの共感は、回を重ねるごとに広がってきた。

「多くのプロフェッショナルがお互い協力しながら、未来のエンタテインメントを動かしていくためのエンジンに日比谷音楽祭がハブとして機能し始めています。人々が、企業が、行政が、分野やジャンルを超えて共生する、助け合う、思い合うという、ピースフルでポジティブな循環が日比谷音楽祭から始まっています」と亀田は手応えを語る。

(日比谷音楽祭クラウドファンディングページより 提供:日比谷音楽祭実行委員会)
(日比谷音楽祭クラウドファンディングページより 提供:日比谷音楽祭実行委員会)

昨年にはクラウドファンディングでの目標金額2,000万円を達成。今年も開催に向けたクラウドファンディングがスタートしている。詳細は公式サイトのクラウドファンディングページから確認できる。

「日比谷音楽祭」公式サイト

https://hibiyamusicfes.jp/2023/

■100周年を迎えた“音楽の聖地”

日比谷公園大音楽堂(通称:日比谷野音)は1923年7月の開設から今年で100周年を迎える。

日比谷野音では、これまで、日本のロック黎明期の「10円コンサート」、キャロルの解散コンサート、キャンディーズの解散宣言、尾崎豊のステージ飛び降り事件、女性ミュージシャンのみによるロックフェス「YAONのNAON」など、数々の伝説的なライブが生まれてきた。

100周年を迎えた今年は4月のオープニング・セレモニーから11月のクロージングにかけて「日比谷野音100周年記念事業」として様々なイベントやコンサートが開催される。日比谷音楽祭もその一環だ。「日比谷野音100周年記念事業」の実行委員長も務める亀田はこう語る。

「日比谷野音100周年記念事業では、今年100周年を迎える日比谷野外音楽堂という、愛すべき音楽の聖地の、100年の歴史とこれから100年の未来をつなぐ、希望溢れるライブやイベント、展示などを多数展開していきます。豊かな文化は、心の豊かな人間を育みます。100周年の祝祭をきっかけに、日本の音楽文化の尊い足跡を未来に繋げていきたいと思います。なお日比谷野音を擁する日比谷公園が120周年、そして都立公園は150周年というとても大きな節目になります。周年を通じて音楽文化を愛で、公園という都会の自然を愛で、人々に心の平安が広がっていくことを心から願っています」

野音は老朽化のため2024年度以降の建て替えが決まっている。“音楽の聖地”の今後にも関心が高まりそうだ。

音楽ジャーナリスト

1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。京都大学総合人間学部を卒業、ロッキング・オン社を経て独立。音楽を中心にカルチャーやビジネス分野のインタビューや執筆を手がけ、テレビやラジオへのレギュラー出演など幅広く活動する。著書に『平成のヒット曲』(新潮新書)、『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『ボカロソングガイド名曲100選』(星海社新書)、『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。

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