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海外から病気が持ち込まれる?五輪まで1年、「マスギャザリング」のリスクとは 専門医に聞きました

市川衛医療の「翻訳家」
建設中の新国立競技場(写真:つのだよしお/アフロ)

いよいよ開催まで1年を切った、オリンピック・パラリンピック。世界各国から多数のアスリートや観客が来訪し、チケットの販売数は全体で1,000万枚を超えると見込まれています。

こうした状況の中で心配されているのが「感染症」の流行です。オリンピック・パラリンピックには国際色豊かな人が集まると予測され、日本にはない感染症を抱える人が来る可能性も否定できません。

どのようなリスクが心配されているのか、観戦に行く人がしておいたほうが良い対策はあるのか。日本感染症学会専門医であり、東京都の感染対策部会委員を担当している忽那賢志さんに聞きました。

Q)オリンピック・パラリンピックにおいて、なぜ感染症の流行が心配されているのでしょうか?

(忽那)狭い空間に一度に多くの人が集まるからです。極端な例ですが、満員電車や学校の教室など、多くの人が狭い空間に集まる状況ではインフルエンザなどの感染症がひろがりやすくなりますよね。

オリンピック・パラリンピックでは、会場となる競技場やその周辺に、多数の国から観客やスタッフなどが集まります。ワクチン政策や感染症の流行状況の異なる国々から感染症が持ち込まれ、流行が広がることが懸念されています。

こうした状況は「マスギャザリング(集団形成)」と呼ばれます。日本集団災害医学会の定義によれば「一定期間、限定された地域において、同一目的で集合した多人数の集団」となっています。

マスギャザリングの状況下では、感染症が広がりやすくなる (イメージ画像:Pixabay)
マスギャザリングの状況下では、感染症が広がりやすくなる (イメージ画像:Pixabay)

Q)感染症と言ってもたくさんの種類があります。そのなかでも懸念される病気としてどのようなものがあるのでしょうか?

一言でいうと、「人から人にうつる感染症」です。

インフルエンザや麻疹(はしか)・風疹(ふうしん)・おたふく・水痘(水ぼうそう)などの流行が懸念されています。

オリンピックが開かれるのは夏場なのに、なぜインフルエンザ?と思われるかもしれませんが、同時期にオーストラリアなどの南半球は冬季ですし、また熱帯・亜熱帯地域は年中通してインフルエンザが流行していますので、こうした地域から持ち込まれることが想定されます。

また、まれな感染症にも注意が必要です。例えば、国内で年間に多くても2~30人ほどの発症が報告される程度のまれな感染症に「髄膜炎菌感染症」というものがありますが、2015年に山口県で行われたボーイスカウトの国際的なイベント(世界スカウトジャンボリー)では複数の感染者が現れました。

その他、これまでには感染性腸炎もオリンピック・パラリンピックなどの国際的なイベントでたびたび流行しています。

Q)海外から持ち込まれる感染症があるということですね。それが広がるリスクを抑えるために、どのような対策が予定されているのでしょうか?

たとえば、東京都は感染症が疑われる外国人が医療機関を受診するための多言語対応ガイドブックを観光情報センター、宿泊施設等に配布しています。

また、大会期間中は、感染症が流行していないかを調べる調査(サーベイランス)の体制が強化されます。そうすることで、万が一感染症の流行が起きても、早期に対応することで広がりを防ごうとしています。

もし原因不明の発熱疾患が流行しているという場合にも、専門機関で原因を特定することができるように準備を進めています。

大会期間中は、感染症の調査(サーベイランス)体制の強化が予定されている (イメージ画像:Pixabay))
大会期間中は、感染症の調査(サーベイランス)体制の強化が予定されている (イメージ画像:Pixabay))

Q)オリンピック・パラリンピックを観戦予定の方もいると思います。個人にできる対策として、どのようなことがあるでしょうか?

まずお勧めするのは、「ご自身のワクチン接種歴を見直す」ことです。

麻疹、風疹、おたふく、水痘などが流行る可能性がありますので、これらの接種歴(2回以上)があるか、あるいはかかったことがあるか(罹患歴)をぜひ確認し、必要に応じて大会期間前に接種を受けてください。

なお麻疹、風疹、おたふくについては母子手帳などに罹患歴が記載されていても必ずしも正しい診断ではない可能性がありますので、抗体検査をして免疫があるか確認するのが確実です。

なお風疹やおたふくに関しては、世界の多くの国ではむしろ流行は起きにくい状況になっているにも関わらず、国内ではたびたび流行が起きています。

もしオリンピックの開催前に大流行が発生し、海外で「東京は危険だ」という報道があれば、日本のイメージダウンにもつながってしまうかもしれません。ですので、ワクチン接種歴についてはぜひこの機会に、確認してみてください。

参考記事:「おたふくかぜがハワイで流行」話題のニュースを心配する前に必要なことは(2018年6月)

大会期間中に実際に競技場で観戦を楽しむときにできる対策は、いわゆる冬場の風邪対策と同様と考えていただいて構いません。

帰宅後にはしっかりと手洗いをする、体調が悪いときに無理をして観戦しない、咳エチケットを守るといったことです。

1年後の五輪、観戦をじゅうぶんに楽しむためにも、基本的な対策を少しだけ頭にとどめておいてください。

【取材協力】

忽那賢志(くつな・さとし)さん

国立国際医療研究センター 国際感染症対策室医長/日本感染症学会専門医

忽那賢志さん(本人提供)
忽那賢志さん(本人提供)

2004年山口大学医学部医学科卒。関門医療センター、市立奈良病院などを経て、2012年から国立国際医療研究センター国際感染症センターに勤務。一般感染症、病院内感染症、免疫不全関連感染症、海外渡航後の感染症など幅広く診療している。趣味はお寺巡りとダニ収集。

【参考資料】

マスギャザリング災害への備えを議論 全日病ニュース(2019年4月1日号)

医療の「翻訳家」

(いちかわ・まもる)医療の「翻訳家」/READYFOR(株)基金開発・公共政策責任者/(社)メディカルジャーナリズム勉強会代表/広島大学医学部客員准教授。00年東京大学医学部卒業後、NHK入局。医療・福祉・健康分野をメインに世界各地で取材を行う。16年スタンフォード大学客員研究員。19年Yahoo!ニュース個人オーサーアワード特別賞。21年よりREADYFOR(株)で新型コロナ対策・社会貢献活動の支援などに関わる。主な作品としてNHKスペシャル「睡眠負債が危ない」「医療ビッグデータ」(テレビ番組)、「教養としての健康情報」(書籍)など。

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