「おたふくかぜがハワイで流行」話題のニュースを心配する前に必要なことは
おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)がハワイで流行していると、ツイッターなどで話題になっています。
きっかけは、ハワイ現地のメディア「Hawaii News Now」の記事のようです。
記事によれば通常、ハワイ州でのおたふくかぜの患者数は年に10人程度ですが、2017年3月の流行開始後から現在までの患者は、そのおよそ100倍の1,000人に達したということです。
この情報がツイッターなどで話題となり、ハワイ旅行を計画する人からの不安の声や、ハワイから日本への流行の広がりを危惧する声があがっています。
おたふくかぜ(流行性耳下腺炎・ムンプス)はムンプスウイルスによる感染症で、おもに唾液を介して感染が広がります。
発症すると発熱やのどの痛みなどが起きるほか、耳の下にある「耳下腺」がはれることがあり、その様子が「おたふく」に似ていることからその名前が付けられています(はれないこともあります)。
ほとんどの場合は数週間で治りますが、まれに(約0.01~0.5%)、後遺症として難聴(耳が聞こえなくなる)を引き起こすことがあります。
いま放送中のNHKの連続テレビ小説「半分、青い。」のヒロイン・鈴愛の難聴の原因とされていますので、ご存知の方も多いかもしれません(※1)。
このおたふくかぜが通常の「100倍」に増えていると聞くと、夏休みにハワイ旅行なんてとんでもないと思えてきます。流行がおさまるまで、ハワイに行くのは避けておいたほうが良いのでしょうか?
しかし実際のデータを見てみると、話はそんな単純なものではないことがわかります。
実はそもそも、日本は世界で有数の「おたふくかぜ大国」だからです。
日本は世界有数の「おたふくかぜ大国」
WHO(世界保健機関)が公開しているデータベース(※2)から、おたふくかぜの報告数の最新データを見てみます。
例えばアメリカの場合、年間の報告数は1,308人です。ほかの先進国では、例えばイギリスでは974人、カナダはちょっと多くて2,157人となっています。
では日本は、というと。。。15万9,301人(2016年)です。アメリカ(1,308人)と比較すると、日本は人口は半分以下にもかかわらず、報告数が100倍以上にのぼっています。グラフにしてみると、日本がいかに多いかがわかります(注)。
2016年に、日本でとんでもない大流行が起きたのでしょうか?
前述のWHOのデータでは、日本の2015年の報告数は8万1,046人となっています。確かに2016年は多めの年ではあったようですが、しかし2015年を前提としても、他の先進国と比べて数が圧倒的に多いのは驚きですよね。
日本における、ここ数十年の報告数の変化(※3)を見ると、数年ごとに「大流行」が起きていることがわかります。このように定期的な流行が繰り返されているのは、日本を含む東アジア地域の一部の国と、アフリカ諸国(エジプト・リビア以外)とに限られています(※4)。
ワクチンが定期接種化していない日本
なぜ、日本は「おたふくかぜ大国」なのでしょうか?その原因は、ワクチンの接種率の低さにあると考えられています。
以前、おたふくかぜは世界中で見られる病気でした。しかしワクチンが開発され、2015年には世界121カ国でMMRワクチンなどの定期接種が行われるようになり、世界的におたふくかぜの発生件数は激減しました。
しかし日本では、おたふくかぜワクチンは任意接種(希望者が各自で受ける)となっており、医療機関によっても異なりますが5000円~8000円程度の費用を自己負担しなければ受けられません(自治体ごとに独自の補助がある場合もあります)。
そのため、接種率は3割程度に留まっているとされています(※5)。
「おたふくかぜ」に興味をもって
今回のハワイのニュースをきっかけに多くの人が「おたくふかぜ」について興味を持ち、ワクチンを接種しようとする人が増えることには意義があります。
しかし一方で、日本がそもそも多いという後ろ向きな理由なのが残念ですが、「おたふくかぜが流行っているからハワイ旅行をやめよう」と気にしすぎたり、「日本でも流行が起きるかも」と心配する意義は、小さいのかもしれません。
(もちろん、現地で発症すると治療などが大変ですので、渡航前にワクチンを接種しておくことには意義があります)
日本では、おたふくかぜの重症化によって年間で5000人ほどが入院している(※5)とする調査もあります。その中心は、5歳前後の幼児です。「半分、青い。」の鈴愛のように、聴力を失うなどの後遺症を抱えてしまうケースも少なくありません。
防げるはずの病で苦しむ人を少しでも減らすためにも、この状況について私たち一人ひとりが興味を持ち、ワクチンの接種について考える必要があるのかもしれません。
(注)(※2)は各国がWHOに報告している数です。日本のデータは定点医療機関による報告数ですので、実際の患者数より少ない数になっていると考えられます。
【参考文献】
(※1)NHK連続テレビ小説「半分、青い」公式サイト
(※2)WHO vaccine-preventable diseases: monitoring system. 2018 global summary
(※3)国立感染症研究所 IASR<特集>流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)2016年 9月現在
(※4)国立感染症研究所「おたふくかぜワクチンについて」(2018年6月26日閲覧)
(※5)国立感染症研究所 おたふくかぜワクチンに関するファクトシート(平成22年7月7日版)