わが国のチャイルドシートの課題-2024年 #こどもをまもる
2000年4月、6歳未満のこどもを自動車に乗せる場合にはチャイルドシート( CRS : Child Restraint System、以下、CRS)の使用が義務付けられた。毎年、警察庁とJAF(日本自動車連盟)が合同で「チャイルドシート使用状況調査」を実施し、CRSの使用率、取り付け状況、および着座状況の調査が行われている。使用率は徐々に上昇している傾向ではあるが、年齢が上がるにつれて使用率は低くなり、5歳では使用率が60%以下となっている(2024年のCRS使用状況全国調査では、1歳未満のCRS使用率は91.7%に対して、5歳でのCRS使用率は57.9%)。また、取り付け状況、および着座状況の調査では、ミスユースの割合は毎年ほとんど変化していない。
2024年8月には、シートベルトの不適切な使用により腹部を強く圧迫された2人のこどもの死亡事故が発生した。
福岡 幼い姉妹死亡の事故 “シートベルトで腹部を強く圧迫か”
NHK NEWS WEB 2024年8月21日 16時13分 配信
CRS法制化後、25年が経過しようとしている。現時点でのCRSの問題点とその解決法について指摘してみたい。
1.「6歳未満」の義務付けを外し、全年齢での義務化とする
6歳になったらCRSを使用しなくてよいわけではない。自動車に乗るすべての人がチャイルドシート、シートベルトを使用する必要があり、義務化して法律で明記する。身長が150cmになる頃、おおよそ12歳ころまではジュニアシート(ブースターシート)を使用する必要がある。
2.警察による取締りを強化する
CRSの使用率は年々上昇しているが、5歳では約4割が未使用となっており、これは大きな課題である。警察庁交通局の「交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」(2023年)の中から、道路交通法違反取締りの「行政処分の点数告知件数」をみると、座席ベルト装着義務違反は31万4727件、幼児補助装置(チャイルドシート)使用義務違反は2万2757件であった。
警察庁とJAFによる「シートベルト着用状況全国調査」(2023年)によると、一般道路での運転者の使用率は99.1%、一方、6歳未満では76.0%の使用率と報告されている。いろいろな状況があるので単純な比較はできないが、CRS未使用の取締り件数が2万件たらずという数値には違和感がある。
警察は、法律がきちんと執行されているかどうかをチェックして、それが行われていない場合は罰則を与える権限がある。私は、CRSに関する取締まりは不十分ではないかと考えている。
3.チャイルドシート使用率を上げるために反則金の制度を検討する
他にもCRSの使用率を上げる方策を考えなければならない。欧米では、CRSの未使用に対して反則金が課せられている国もある。たとえばアメリカのカリフォルニア州の場合、CRSが使用されていない場合、500ドル以上の反則金が課せられることがある。わが国でも使用率をモニターしながら反則金の導入を検討する必要がある。
4.園バスにもCRSの設置を義務化する
幼稚園や保育園など、保育の場へのこどもの送迎に園バスが使用されている場合がある。園バスの衝突事故も発生しており、園バスについてもCRSの設置を義務付ける、もしくは、園バスの車両シート安全基準を設定する必要がある。すでに、園バスへの後付けのCRSも発売されている。
5.タクシーなどでのCRSの使用を促進する
タクシーにこどもを乗せる場合にもCRSの使用が必要である。タクシーでのCRSの使用を促進し、義務化する必要がある。最近では、幼児向けではあるが、持ち運びができる軽量タイプのCRSも販売されている。
参照:NOMAD PLUS MAXI-COSI
6.CRSレンタル制度を充実させる
帰省の際のこどもの送迎時など、使用頻度が低い場合に使用できるCRSレンタル制度の充実が望まれる。現在、民間事業者によるレンタルの他、市町村や交通安全協会、社会福祉協議会等でのCRS貸出が行われている。今後は補助金の活用なども視野に入れたレンタル制度の拡充を期待したい。
7.ISOFIXの使用を促進する
わが国では、2012年7月以降に販売されたすべての車両はISOFIX対応車種となっている。ISOFIXを使用すれば、CRSの設置の課題は大きく改善される。CRSの設置が必要な期間に、ISOFIX対応の車両を使用する場合は何らかの特典が得られる仕組みを作るなど、ISOFIXの使用率を上げる方策を考える必要がある。
8.車両シート、およびシートベルトの使用開始は身長150cm以上という啓発を行う
シートベルトの不適切な使用によって、こどもの死亡事故が発生している。これは、現行の道路交通法の「6歳未満の乳幼児にはチャイルドシートを使用する」という表現に問題があるのではないか。シートベルトの使用は、年齢ではなく身長(150cm以上)で判断することを周知する必要がある。
9.こどもが乗車中の自動車事故の報道では、CRSの使用状況を詳しく伝える
最近、水難事故の報道では、ライフジャケットを着用していたかどうかを伝えることが増えてきた。自動車事故も同様に、CRSを使用していたか、シートベルトを使用していたか、適正に使用されていたか、あるいは使用していなかったかについて言及すべきである。CRSを使用していない場合の危険性を広く伝えることが不可欠である。
さらに、自動車事故に遭うと、その後、どういうことになるかという事実を、半年後、1年後、3年後、5年後と追って報道することが望ましい。
10.ジュニアシートの重要性を広く伝える
ジュニアシートの使用については道路交通法に明記されていないが、ジュニアシートは、シートの座面を上げることによって、おとな用のシートベルトがこどもの身体に合うように調節するためのものである。具体的には、こどもの鎖骨と両方の腰骨の上をシートベルトが通過するようにして、身体をシートに確実に固定するためのものだ。乳幼児向けのCRSを卒業したら、必ずジュニアシートを使用する必要がある。製品によって対象身長が異なっているので、ウェブサイトや店頭などで製品情報を確認し、こどもの身体に合ったジュニアシートを選択していただきたい。
ジュニアシートの重要性について、そして、なぜ、大人用のシートベルトがこどもの死亡につながるのかについて、本記事の冒頭で紹介した事故が起きた後、小学6年生との対話の中で説明したので、そちらも参照されたい。
おわりに
自動車乗車中のこどものケガを予防するにはCRSの確実な使用が不可欠である。使用率を上げ、さらに適切な使用を推進するためには、現在行われている保護者への啓発だけでは不十分で、社会全体で具体的な対策に取り組むことが望まれる。自動車の構造やCRSなど製品の改善、交通環境の改良、CRSの必要性や正しい使用法に関する効果的な啓発、法的な義務付けを強化してCRSの使用率を上げるなどの幅広い活動が必要である。すなわち、保護者だけでなく、社会でこどもの安全を守るという考えで取り組む必要があると言えよう。
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