【政策会議日記8】法人減税論議の焦点は(税制調査会)
2月13日に、私も一委員として出席した税制調査会第5回総会で、法人課税ディスカッション・グループ(DG)の設置を決め、今後税制調査会の場で法人税について本格的に議論することとなりました。
税制調査会の位置づけや法人税の見方などについては、拙稿「【政策会議日記4】法人税の減税は必要か(税制調査会)」をご覧下さい。
税制調査会で、法人税の議論をする経緯をたどると、今年に入ってから、1月20日に開催された産業競争力会議で、「成長戦略進化のための今後の検討方針」で、
と示されました。さらに、1月31日の衆議院予算委員会で、安倍晋三首相は、
と答弁されました。こうした流れを受けて、税制調査会でも2月13日に総会を開催して、今後の議論の場を設定しました。そして、今年6月に内閣として取りまとめられる予定の「基本方針2014」(いわゆる骨太の方針)をにらんで、法人課税の在り方についてどう取りまとめるかを議論してゆくことになります。
法人減税の焦点
第2次安倍内閣は、成長戦略の一環として法人実効税率の引下げができるかどうか、模索している状況といえます。法人減税が容易にできないのは、わが国の財政で税収が足らず巨額の財政赤字を出している状況で、単純に法人税収だけを減らすことができないからです。
それでも、「損して得取れ」というか、法人減税を行い企業の活力を刺激すれば、設備投資が増えたり雇用が増えたりして、経済を好転させることができ、そうすれば法人税率を下げても、(他の税目も含め)税収が増えると期待できる、という見方もあります。ただ、捕らぬ狸の皮算用になってはいけませんから、法人減税をめぐり堅実に財源確保を図る必要があります。
2014年度予算案ベースで見れば、法人実効税率1%当たり約4700億円の税収が上がると見込まれます。2014年度からわが国の法人実効税率が約35%となることから、経済界の一部が求めるようにアジア諸国並みの25%程度まで法人実効税率を引き下げようとするなら、約5兆円の減収が(少なくとも短期的には)生じることが予想されます。
もし法人減税を行っても、財政収支に大きな悪影響を及ぼさないようにするには、国民にも納得できるような財源確保策とその大義名分が必要です。まさに、法人減税の焦点を一言で集約すれば、「法人減税をどの程度行い、その(少なくとも短期的に生じる)減収に伴う代替財源をどこに求めるか」、ということです。減収額の大きさ次第で代替財源として影響が及ぶ範囲も決まってきます。ここには、法人税制全体の設計として課税ベースをどうするかという議論も含まれますし、もっと大局的に、わが国の税制として法人課税をどう位置付けるかという議論も含まれるのです。
そもそも、なぜ法人減税が必要かについては、拙稿「【政策会議日記4】法人税の減税は必要か(税制調査会)」で詳述したのでそちらに譲るとして、さらに追加すれば、図1に示されているように、わが国の税制が他の先進国と比べても法人所得課税に税収を多く依存していることを克服する必要があります。
出典:土居丈朗編著『日本の税をどう見直すか』日本経済新聞出版社
経済活動はますますグローバル化し、各国政府は、法人所得課税を重くかけようとしても、企業はその負担から免れようと低税率の別の国に営業拠点を移そうとし、それに対抗して法人税率を下げようとする状況があります。わが国だけが税率を下げずに法人所得課税に依存し続けようとしても、課税ベースはじり貧で、わが国の税収がやがて減ってゆくことになります。これは、わが国の財政健全化にも支障をきたします。したがって、法人課税ばかりでなく、他の税目に課税することでどう税収を安定的に確保してゆくかが求められます。その観点からも、わが国の法人実効税率はいずれ引き下げてゆかなければならないでしょう。
法人実効税率を引き下げる代わりに、どのように財源を確保すればよいでしょうか。主要な方策としては、
- 歳出削減
- 法人税の課税ベースの拡大
- 個人所得課税や消費課税等による財源確保
が考えられます。
歳出削減は、当然ながら、今後も不断の努力として求められます。しかし、今後、高齢化に伴い社会保障費の自然増が毎年1兆円ずつ生じる中で、法人実効税率の引下げによる減収が賄えるほどの歳出削減が容易にできる訳ではありません。ちなみに、税制調査会は、歳出削減について詳しく議論する場として想定されていません。
法人税の課税ベースの拡大は、有力策とされてはいますが、難題もあります。大まかに言えば、法人税収は、税率と課税ベースの積なので、税率を下げても課税ベースを拡大すれば、積である税収があまり減らずに済む、ということです。ところが、税率を下げる代わりに課税ベースを下手に拡大すると、個別の企業では、減税になる企業と増税になる企業が出てきてしまう可能性があります。より具体的に言えば、設備投資やR&D投資を多くする企業は、個別の政策減税によって税負担が軽減されているのですが、税率を下げる代わりに個別の政策減税をやめて課税ベースを広げるならば、差し引きで増税になる可能性があります。差し引きで増税になる企業には、個別の政策減税をやめて法人実効税率を中途半端に引き下げるぐらいなら、税率を引き下げなくてよい、と見る向きもあります。
「課税ベースを拡大しても個々の企業で増税になる企業がほとんど出ない」というような法人減税を実行しようとすれば、法人実効税率を大きく下げる必要があります。そうなると、その分だけ税収が(少なくとも短期的には)大きく減ることが見込まれます。
となると、税収が減る分については、個人所得課税や消費課税等でその代替財源を考える必要があります。ただ、これを何の大義名分もなく行えば、国民の支持は当然得られないでしょう。ただでさえ、「法人減税と消費増税は、企業優遇、消費者冷遇だ」と、経済学的に見て大きな誤解が、巷間では支配的です。この点は、法人減税を実現する上で克服してゆかなければなりません。
もちろん、法人減税は、拙稿「【政策会議日記4】法人税の減税は必要か(税制調査会)」で述べたように、税負担が軽くなる分、労働者の賃金が上がったり、株主の配当が増えたり、消費者に売る品物の値段が下がったり、下請け企業から仕入れる品の値段を上げられたりするという形で、経済全体に恩恵が広がります。この理解を、どう浸透させてゆくかが、法人減税の成否にも関わってきます。
法人減税をしなくても、わが国の財政はやりくりできる、というのは楽観的です。前述したように、グローバル化の中で、法人所得課税に依存し続けては、わが国の税収はじり貧で、財政赤字が拡大する恐れがある上に、国民への行政サービスのための財源の確保がままならなくなります。こうしたわが国の税収構造について、まずは国民の間で理解を共有する必要があります。その上で、所得税か消費税か資産への課税かどれに重点を置くかは議論があるとしても、今後は法人所得課税以外の税目で税収の多くを確保してゆくことを、国民の合意を得て進めてゆくべきでしょう。
今回の法人実効税率引下げの議論は、今後のわが国の税制をどう見直すかを見据えたものになると有意義になると思われます。