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トルコ占領下のシリア北部で自由シリア軍(TFSA)所属組織どうしが激しく交戦

青山弘之東京外国語大学 教授
ANHA、2020年7月3日

トルコによって占領されているシリア北部。アレッポ県北部の「ユーフラテスの盾」地域(2016年占領)、アレッポ県北西部の「オリーブの枝」地域(2018年占領)、「平和の泉」地域(2019年占領)からなる同地で戦闘が絶えない。

戦闘は、トルコの支援を受ける自由シリア軍(Turkish-backed Free Syria Army:TFSA、正式名は国民軍)とシリア軍、あるいはTFSAとクルド民族主義民兵組織の人民防衛隊(YPG)を主体とするシリア民主軍との間で行われているのではない。

むろん、アレッポ市北のタッル・リフアト市一帯地域(いわゆるシャフバー地区)、ラッカ県北部のM4高速道路沿線では、トルコ軍、TFSAとシリア軍、シリア民主軍が散発的に戦火を交えている。だが、トルコ占領地内で戦っているのはTFSAに所属する組織どうしだ。

ラアス・アイン市での衝突

「平和の泉」地域の拠点都市の一つであるハサカ県ラアス・アイン市(クルド語名はスィリー・カーニヤ)では7月3日、TFSAに所属する武装集団どうしが重火器を使って激しく交戦した。

交戦したのは、ハムザート師団とスルターン・ムラード師団。

きっかけは定かではない。だが、英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団は、市内マハッタ地区(アルーク石油ステーション一帯)への生活用の送電が停止したことが発端だと発表、国営のシリア・アラブ通信(SANA)は、略奪品の分配をめぐる口論がきっかけだったと伝えた。

衝突発生を受け、内務治安部隊(いわゆる自由警察)とトルコ軍が介入し、戦闘は一時収束した。

だが、ハムザート師団とスルターン・ムラード師団は再び交戦した。

最終的には国民軍に所属する東部自由人連合がラアス・アイン市に至る街道を封鎖、ハムザート師団とスルターン・ムラード師団の兵力を引き離すことで、事態は収束した。

YPGに近いハーワール・ニュース(ANHA)によると、戦闘はラアス・アイン市郊外にも拡大し、双方合わせて数十人の死傷、シリア人権監視団によると、戦闘員4人が死亡した。

また、戦闘で住宅などにも被害が及び、ANHAやSANAによると、女児1人が巻き添えとなって死亡、女性1人が負傷した。

タッル・アブヤド市での衝突

ラアス・アイン市と並ぶ「平和の泉」地域の拠点都市であるラッカ県タッル・アブヤド市(クルド語名はギレ・スピ)でも7月4日、TFSAに所属する武装集団どうしが激しく交戦した。

交戦したのは、マジド軍団とシャーム戦線。

戦闘は、マジド軍団が本部として使用していた農業銀行をシャーム戦線が制圧したのを受けて発生、重火器での撃ち合いにより7人が負傷した。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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