トルコの給与未払いに抗議する自由シリア軍、M4高速道路への接近・通行を阻止しようとするアル=カーイダ
国民軍がトルコ軍による給与未払いに抗議するデモ
英国に拠点を置く反体制NGOのシリア人権監視団やクルド民族主義組織の民主統一党(PYD)に近いANHAによると、トルコが実質占領するラッカ県タッル・アブヤド市近郊のヤービサ村で16日、国民軍の戦闘員が、トルコ軍による給与未払いに抗議するデモを行った。
給与支払いは2ヶ月にわたって停止しており、デモに参加した戦闘員は発砲したり、タイヤを燃やしたりして道路を封鎖した。
国民軍とは?
国民軍は、2017年12月30日にシリア革命反体制勢力国民連立(シリア革命連合)傘下の暫定内閣国防省がアレッポ県アアザーズ市の参謀委員会本部での会合で結成を宣言した組織。スルターン・ムラード師団、シャームの鷹旅団、ムウタスィム旅団、ハムザ師団、シャーム自由人イスラーム運動、イスラーム軍、東部自由人連合など、自由シリア軍を名乗る諸派の連合組織(「イドリブ進攻:シリア情勢2019(2)」を参照)。
「シリア革命」の成就をめざすと主張しているが、トルコ軍・治安機関の指揮下に置かれ、同国から教練、資金提供を受けている。PYD主導下の諸勢力やシリア政府は、国民軍を「(トルコの)傭兵」と非難、英語メディアでも、しばしばTFSA(Turkey-backed Free Syrian Army)と呼ばれている。
最近では、トルコによって戦闘員多数がリビアに派遣され、国民合意政府(GNA)を支援するため、ハリーファ・ハフタル将軍率いるリビア国民軍と戦っている。シリア人権監視団が3月7日に発表したところによると、リビアに派遣された戦闘員は4,750人、うち117人が戦死、約150人がリビアを脱出し、欧州に不法入国したという。
なお、同様のデモは17日にも、ハサカ県のラアス・アイン市とタッル・アブヤド市で行われ、そこでは、給与支払いだけでなく、国境の開放、戦闘員の交代も合わせて要求された。
若干の停戦違反
シリア人権監視団によると、ロシア・トルコ首脳会談で合意された停戦が発効してから12日目となる3月17日、シリア・ロシア軍、トルコ軍は爆撃を実施しなかったが、イドリブ県でシリア軍、「決戦」作戦司令室による若干の停戦違反が確認された。
「決戦」作戦司令室は、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構とトルコの庇護を受ける国民解放戦線(国民軍)などからなる武装連合体。
同監視団によると、シリア軍は、ファッティーラ村一帯への進軍を試みたが、「決戦」作戦司令室の応戦を受け、兵士4人が死亡、2人が負傷した。「決戦」作戦司令室側も1人が死亡、4人が負傷した。
これに対し、国営のシリア・アラブ通信(SANA)は、シャーム解放機構などからなる反体制武装集団が、カフルナブル市、ハザーリーン村のシリア軍拠点に対して砲撃を行い、シリア軍がただちに応戦したと伝えた。
M4高速道路への接近・通行を阻止しようとするシャーム解放機構
一方、シリア人権監視団は、シャーム解放機構が、ラタキア市とアレッポ市を結ぶM4高速道路でのロシア・トルコ軍の合同パトロールを阻止するため、ナイラブ村からアリーハー市にいたる30キロ強の区間で土嚢を積み上げていると発表した。
また、PYDに近いXeber 24によると、シャーム解放機構はナイラブ村・アリーハー市間のM4高速道路の両側に土嚢を積み上げるとともに、堀を掘削し、道路への接近を阻止しようとしているという。
SANAもまた、シャーム解放機構がナイラブ村近郊のM4高速道路上に巨大な穴を掘り、道路を寸断したと伝えた。
ジェフリー米国務省シリア問題担当特使の発言
ジェームズ・ジェフリー米国務省シリア問題担当特使は16日、M4高速道路でのロシア・トルコ軍の合同パトロールに反対する住民の座り込みデモ(「尊厳の座り込み」)がシャーム解放機構によって組織されたものだとする主張に関して、「ロシアの主張を拒否する」と述べた。
ジェフリー特使は「1年近く前から、アサド政権はロシアとイランの支援を受けて、イドリブ県に対して無慈悲で無差別の軍事攻撃を行い、数千人の民間人を死傷させ、100万人が避難を余儀なくされた」としたうえで、「デモ参加者はロシアがイドリブ県に対する軍事攻撃に関与していることに対して抗議の意思を示したまでだ」と述べた。
(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)