本当に「降圧薬で緑内障リスクは増える」のか?【医学論文を調べてみた】
降圧薬を飲むと緑内障になる?
世の中にはいろいろな医学情報が飛び交っています。医学記事も同じです。とても勉強になる記事もあれば、「?」が頭に浮かんでしまう記事も。最近もひとつ、そんな記事を目にしました。「降圧剤を飲むと緑内障リスクが増える」というような見出しでした(「オチ」は後述)。本当でしょうか?記事で紹介されていた医学論文にあたってみました。
ある種の降圧薬だけが緑内障リスクを上げる
その論文は「米国医師会雑誌・眼科学」という国際学術誌に掲載されていました [文末文献1] 。英国在住の43万人を対象にある時点で「飲んでいた降圧薬」別にその時の「緑内障のあるなし」がどれほど違うかを比較した研究です。
結論から言うと、「カルシウム拮抗薬」と呼ばれる降圧薬でのみ、緑内障である確率は上がっていました。この薬を飲んでいる人たちは、飲まない人に比べ、緑内障にかかっている可能性が約1.4倍高かったのです。
一方、同じ降圧薬でも、カルシウム拮抗薬同様よく使われている「レニン・アンジオテンシン系阻害薬」(アンジオテンシンII受容体拮抗薬 [ARB]やACE阻害薬)と「降圧利尿薬」では、緑内障リスクの上昇は認められませんでした。
確かによく見れば、雑誌の見出しでも「降圧剤」の横に小さく「Ca拮抗剤」と書いてありました。
ただこの「1.4倍」という数字、実際にはどれほどの意味を持つのでしょう?
カルシウム拮抗薬でも緑内障リスクが上がったのは500人に1人
確かに「カルシウム拮抗薬で緑内障リスクが1.4倍」というのは衝撃的な数字に映ります。
しかしこの集団に緑内障の患者さんはどれほど含まれていたのでしょう?
「0.2%」だけでした。
内訳は、カルシウム拮抗薬を飲んでいる人たちで0.4%、飲んでいない人たちで0.2%です。
ここから単純試算すると、500人がカルシウム拮抗薬を飲むと、飲まなかった場合に比べ1人、緑内障の人が多いことになります。
逆に言えばカルシウム拮抗薬を飲んだ500人中499人は、飲まなかった人と緑内障リスクは同じということです。
「カルシウム拮抗薬でリスクが1.4倍」とは、かなり印象が異なりませんか?
東洋人ではカルシウム拮抗薬による緑内障リスク増加は認めず
お隣の韓国からも同じような研究が、同じ時期に報告されています [文末文献2]。
高血圧患者約5000人を観察し、飲んでいた降圧薬別にその後、緑内障となる危険性を比較したものです。同じ東アジア人なので、こちらの方が身近なデータでしょうか。こちらはネイチャーが出している「サイエンス・レポート」という国際学術誌に掲載されました。
するとこの研究では、「カルシウム拮抗薬」による緑内障リスク増加は認められませんでした。「ARB」や「ACE阻害薬」も同様です。
一方、「降圧利尿薬」は長期間服用に伴う緑内障リスクの低下が見られました。
ただし、日本でよく使われている「ARB+カルシウム拮抗薬」の併用は、カルシウム拮抗薬に比べると少しだけですが、緑内障になるリスクが上がっていました。とはいえ「1.05倍」ですが。
まとめ
いかがでしたか?
英国では、カルシウム拮抗薬という降圧薬を飲むと500人で1人、緑内障のリスクが上がるかもしれないけれど、韓国ではカルシウム拮抗薬に伴う緑内障リスクの増加は認めれられなかったという2本の論文でした。
降圧薬については次のような論文紹介記事も書いています。こちらもぜひ、ご覧ください。今回も最後までお読みいただきありがとうございました。ではまた週末に!
今回ご紹介した論文
【注意】本記事は医学論文の紹介です。研究結果の文責は「論文筆者」にあります。また論文の解釈は論者により異なる場合もあります。さらにこの論文の内容を否定する論文が存在する可能性もゼロではありません。あくまでも「参考」としてご覧ください。