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『耳かきをすると咳がでる』のは、なぜですか?

堀向健太医学博士。大学講師。アレルギー学会・小児科学会指導医。
(写真:アフロ)

『耳かきをすると咳がでるのですが、これはなにかの病気でしょうか?』という訴えは、外来でもたまに聞くことがあります。

この反射は、『アーノルド神経反射』としてしられています。

基本的には病気というわけではなく、健康な方でもみられる反射のひとつです。

今回は、この反射に関して簡単に解説しましょう。

『アーノルド神経反射』とは?

イラストACより引用
イラストACより引用

アーノルド神経反射を報告したフィリップ・フリードリッヒ・アーノルドは、19世紀のドイツの解剖学者で「史上最高の解剖学者の一人」と呼ばれており、現在にアーノルド神経節などの名称を残しています[1]。

アーノルド神経は末端の迷走神経(医学的には迷走神経の耳介枝といいます)として、鼓膜の一部、外耳道の皮膚が鼓膜に接しているわずかな部分に分布しています。

迷走神経というのは、さまざまな神経経路を形成してからだのなかのいろいろな臓器に張り巡らされています。その様子から、「迷走」という名前がついています。そして脳からの指令が伝えられる方向と、臓器からの情報を吸い上げていく方向の2方向があります。

アーノルド神経は、からだの表面に接している部分にある唯一の情報を脳に伝える神経迷走と言えます[2]。

そして耳かきをするときに、そのアーノルド神経を刺激すると、咳がでるひとがいる…ということになるのです。

アーノルド神経反射は、どれくらいのひとにあるのでしょうか?

写真:アフロ

さて、『アーノルド神経反射』は成人の2%、小児の3%にみられるという報告があります。

そして最近、咳が長引いている(慢性咳嗽)の成人の患者さんに、アーノルド神経反射が10倍以上も多くみられるという報告がなされました。

そして慢性咳嗽のある男性(12.5%)よりも女性(31.6%)に多くあり、9割の方は片側のみだったそうです[3]。

小児では慢性咳嗽があってもアーノルド神経反射のひとは増えなかったので、別のメカニズム(風邪など)が働いているのではないか…と考えられています[3]。

アーノルド神経反射の治療はありますか?

アーノルド神経反射は正常でもみられますし治療法はとくにないのかもしれません。

ただし、耳あか(耳垢)があるならば取り除き、咳への影響を評価する必要があるとされています。

そして最近、慢性咳嗽の治療が有用『かもしれない』という報告があります[4]。

耳垢の除去や慢性咳嗽に関しては、耳鼻咽喉科や呼吸器内科専門の医師にご相談くださいね。

なお、この時期に増えるちょっとした相談のひとつに、太陽をみるとくしゃみが出る…なんていうのもあります。これも反射のひとつで、こちらはアーノルド神経反射よりもおおく、4人に1人あるそうです[5]。

現在は外来が忙しくなってしまい、なかなか聞きにくいこともあるかもしれません。

このようなちょっとした質問も、なにかのお役に立てばと思い、記事としてみました。

[1]J Laryngol Otol 2003; 117:28-31.

[2]Front Neurosci 2019; 13:854.

[3]Chest 2018; 153:675-9.

[4]Chest 2020; 158:264-71.

[5]PLoS One 2010; 5:e9208.

医学博士。大学講師。アレルギー学会・小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。大学講師。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療研究センターアレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5600人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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