NPBで22年ぶりの”復活”も? 今知っておきたい日米「ダブルヘッダー事情」
昨年のメジャーでは計33回
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、開幕が6月19日にずれ込んだ今シーズンのプロ野球。梅雨時の開幕ということもあって既に9試合が中止もしくはノーゲームになっており、阪神タイガースが9月に23日間で22試合を行うスケジュールを組まれるなど、かなりタイトな日程になっている。
今後も中止が増えて日程がさらに過密になれば、日本では1999年以降、行われていないダブルヘッダーの開催も検討されるようになるかもしれない。もっとも今日(現地時間7月23日)、ようやく今シーズンの開幕を迎えたメジャーリーグでは、ダブルヘッダーもそう珍しいものではない。今年は例年の3分の1強のレギュラーシーズン60試合制になるため、そこまでではないだろうが、昨年を例に取ると計33回も行われていた。
メジャーの場合は基本的にレギュラーシーズン最終日が決まっていて、そこからほとんど間を置かずにポストシーズンに突入するため、雨天などで中止になった試合をシーズン終盤に先送りするのは難しい。だから、たとえば3連戦の中で中止になった試合があれば、翌日もしくは翌々日の試合と併せてダブルヘッダーとして行われることが多い。昨年の33回のダブルヘッダーも大半がこうしたケースだが、一口に「ダブルヘッダー」といっても大きく2種類に分けられる。
ダブルヘッダーには2種類ある
1つは「トラディショナル」(あるいは「ストレート」)と呼ばれる“本来”のダブルヘッダーで、この場合は「ダブルヘッダーの第2試合は、第1試合の終了《30分》後に開始する。ただし、この2試合の間にこれ以上の時間(《45分》を超えないこと)を必要とするときは、第1試合終了時に、球審はその旨を宣告して相手チームの監督に通告しなければならない」と公認野球規則にあるとおり、第1試合が終わると速やかに第2試合が行われる。
たとえば昨シーズンのメジャーで最初にダブルヘッダーとして行われた、4月20日のボルティモア・オリオールズ対ミネソタ・ツインズ戦。これは前日から始まるはずだった3連戦の初戦が雨天中止となったのを受けて組まれたもので、第1試合は午後4時6分に始まり、終了は7時22分(試合時間3時間16分)。第2試合は41分後の8時3分にプレーボールがかかり、10時53分に終わっている(試合時間2時間50分)。
筆者も20年ほど前に、ニューヨークでこのトラディショナル・ダブルヘッダーを観戦したことがある。第1試合が終わってから長蛇の列に並んで“用”を足し、売店で飲み物や食べ物を買っているとその間に第2試合のスタメンが発表され、席に戻るともうプレーボール。そんな慌ただしい印象が残っている。
この手のダブルヘッダーはもともと予定されていた試合との“抱き合わせ”になるため、球団にしてみれば2試合開催しても入場料収入は1試合分にしかならない。前述のオリオールズ対ツインズ戦でいうと、20日の入場券を買っていたファンは期せずして1試合多く見られることになり、19日のチケットを持っていたファンも20日分と交換すればダブルヘッダーを2試合とも見ることができるので、見る方とすればお得感がある。だが、球団にしてみれば1試合分、丸々“タダ見”をさせることになる。
現在の主流は観客を入れ替える「スプリット」
だから、現在の主流は第1試合をデーゲーム、第2試合をナイトゲームとして設定し、観客も入れ替える「スプリット」(または「デー・ナイト」)と呼ばれるダブルヘッダーである。これなら新たに組み込まれた試合のチケットも単体で販売できるので、中止分の振り替えがあったとしても“タダ見”になることはない。昨年でいえば33回中、21回がこのスプリット・ダブルヘッダーに当たる。
ただし、このあたりの考え方は球団によっても異なる。シカゴ・ホワイトソックスは昨年、ダブルヘッダーを4回主催しているが、うち3回はトラディショナル。唯一、スプリットで行われたのは7月3日のデトロイト・タイガース戦で、この日はもともと予定されていたナイトゲーム(第2試合)で先着2万人のファンに、主砲ホゼ・アブレイユのシルバースラッガー賞受賞記念のボブルヘッド人形がプレゼントされることになっていた。
メジャーもそうだが、日本でもかつては最初から日程にダブルヘッダーが組み込まれていることも少なくなかった。今はどのチームも入場料金が細分化されているが、古の時代は席種ごとに「シングル」と「ダブル」の2本立てというのが一般的だった。ところが、いつしかダブルヘッダーが当初の日程に組み込まれることはなくなり、中止になった試合の消化のために組まれる程度になって、近年ではすっかり姿を消した。NPBでダブルヘッダーが行われたのは、今のところセ・パともに1998年が最後である。
2016年には、千葉ロッテマリーンズと埼玉西武ライオンズのシーズン最終2試合が10月4、5日に追加日程として組み入れられ、4日の試合が中止の場合は5日にダブルヘッダーを行うと発表されたことがあった。屋外のQVCマリンフィールド(現ZOZOマリンスタジアム)だけに可能性はあったが、4日の試合が無事に行われたため“幻”となっている。
今の日本でダブルヘッダーを行うなら…
もし、今シーズンのプロ野球でダブルヘッダーを開催するとしたらトラディショナルかスプリットか? 経営的にベターなのは、間違いなくスプリットだ。日本では基本的に中止となった試合のチケットは払い戻され、振り替えられた試合のチケットはあらためて売り出されることになる。たとえトラディショナルだとしても、最初からダブルヘッダーとして発売することが可能なら、2試合分とはいわないまでも1試合分よりも少し高い「ダブルヘッダー料金」を設定することもできるだろう。
ただ、既にチケットが発売されている試合との”抱き合わせ”となれば、そうはいかない。やはり1試合分、無収入で開催することになる。シーズン終盤のダブルヘッダーが検討される時期に、どの程度まで観客を入れられるようになっているか今の段階ではわからないが、スプリットならば新たに組み入れられた試合のチケットを単体で販売できるので、まったくの無収入にはならない。選手にとっても、第2試合が始まるまでの間、ゆっくりと身体を休めることができるというメリットもある。
とはいえ、大谷翔平が所属するロサンゼルス・エンゼルスのジョー・マドン監督が、シカゴ・カブス監督時代に「文句を言いたいのはスプリット・ダブルヘッダー。好きではないね。選手、監督、コーチ、誰1人として良いアイディアだと思ってはいないよ」と発言したように、下手をすれば早朝から深夜まで拘束されかねないスプリットは、メジャーでは現場から歓迎されていないようだ。
「トラディショナル」にしろ「スプリット」にしろ、日本ではおそらくダブルヘッダーは日程消化のための最後の手段。できることならやりたくないというのが本音だろう。果たして今シーズン、22年ぶりのダブルヘッダー”復活”はあるだろうか?