「根室本線の分断廃止は日本鉄道史に残る愚行」 JR北海道・運賃値上げ公聴会で経営姿勢を問題視
2024年9月3日、JR北海道が来年4月からの実施を予定している平均7.6%の運賃値上げについて、国の運輸審議会が市民から広く意見を聞く公聴会が札幌市内で開かれ、一般の公述人から厳しい意見が相次いだことについては記事(JR北海道「綿貫社長と島田会長は経営能力を欠いている」 運賃値上げ申請公聴会で相次いだ厳しい意見)で触れた。JR北海道の綿貫社長は運賃値上げについて「物価高騰の中で輸送サービスを維持するため必要」と説明したが、この公聴会に参加し運賃値上げに反対の意見を述べた公述人の1人は、1987年の国鉄分割民営化からこれまでのJR北海道の経営姿勢を厳しく指摘した。国土交通省ホームページで公開されている公述書では、以下のように指摘されている。
「駅廃止」「窓口営業時間短縮」「列車の減便」が乗客を遠ざけている
1987年4月1日の国鉄分割民営化を目前にした、1986年11月28日、国鉄改革関連8法案が参議院国鉄改革に関する特別委員会で可決された際の付帯決議では、国とJRグループ各社に対し「経営の安定と活性化に努めることにより、収支の改善を図り、地域鉄道網を健全に保全し、利用サービスの向上、運賃及び料金の適正な水準維持に努めるとともに、輸送の安全確保のための万全を期することが求められていた。
しかし、最近のJR北海道は「経営の安定と活性化」「収支改善」「地域鉄道網の健全な保全」「利用者サービスの向上、運賃及び料金の適正な水準維持」のうち、1つでも達成されたものはあるのか。実際には惨憺たる状況と言わざるを得ない。
駅の廃止はJR北海道の春の恒例行事になっているが、鉄道会社は客商売であり、多くのお客様に鉄道をご利用いただくためには出入り口の数は多いにこしたことはない。例えば、魅力的な商品が棚に陳列あれていても、お客様が店内に入れないのでは売上を上げることはできない。
新型コロナ発生以降、日本の鉄道は新幹線を除いて低調傾向にあるが、そうなったのは「出入口」である駅を粗末に扱ったからで、みどりの窓口の営業時間短縮や列車の減便も相変わらず続いている。
「地域鉄道網の保全」はさらに悲惨でJR北海道は交通事業者失格
1981年の石勝線開通まで、滝川駅から富良野駅と新得駅を経由して、帯広・釧路・根室に向かう根室本線は、札幌と道東各地を結ぶ大動脈路線であった。この北海道の中央部に位置する根室本線・富良野―新得間を2024年3月31日限りで、災害から復旧させないまま廃止し断ち切ったのは、日本鉄道史に残る愚行と言わざるを得ない。
また、北海道新幹線の札幌延伸後に並行在来線としてJR北海道から経営分離される函館本線・小樽―長万部間(通称・山線)のうち小樽―余市間は輸送密度が2000人を超えている。廃止後の転換バスの運行を、人手不足を理由にバス会社が拒否しているにもかかわらず、JR北海道が廃止の既定方針を変えないのは、地域住民の生活の足を守るべき交通事業者として失格だ。
JR北海道の将来展望もビジョンも見えない
今年春のダイヤ改正から、札幌―旭川間を結ぶ特急カムイ・ライラック号を除く多くの路線の特急列車で自由席車がなくなり全席指定席化された。自由席往復割引きっぷ(Sきっぷ)が廃止となった列車では運賃・料金が2倍近くに跳ね上がったケースもある。JR北海道は、事前予約すれば割引になる「えきねっとトクだ値」サービスの利用を盛んに呼びかけているが、出張では行の時間は予測できても帰りの時間は予測できないことが多く、またお葬式など急な利用が必要になることもあることから、JR北海道はお客様のニーズをまったく把握できていないと言わざるを得ない。
駅の窓口だけでなく駅そのものも、列車も、自由席も、割引制度も、ローカル線もすべて減らす。このような不便をお客様に強いた上で、なぜ値上げでさらなる負担をお客様に求めなければならないのか。
綿貫泰之社長は、特急すずらん号がガラガラの状態で運行されていることに対して、定例記者会見の場で記者から質問が出ると、全車指定席化からまだ半年であるにもかかわらず「安くご利用というニーズが強いのであれば、特急でなくてもいい」と発言し、快速格下げを示唆している。
すべてが行き当たりばったりのその場しのぎで、JR北海道が鉄道会社として、自分たちの鉄道事業をどうしたいのかという将来展望もビジョンもまったく見えず、これでは会社の将来を悲観して多くの社員が辞めていくのももっともだと思う。2022年6月17日の綿貫社長就任からわずか2年で、これだけ短期間に失態が続いているのは、島田会長―綿貫社長体制が経営能力を欠いていることの最も象徴的な表れだ。
そして、この意見を表明した公述人は、サービス低下と負担を一方的に押し付けられる全道民・利用者を代表して、島田会長と綿貫社長に対し、今すぐこの場で出処進退を明らかにするように望むとした。
(了)