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JR北海道「綿貫社長と島田会長は経営能力を欠いている」 運賃値上げ申請公聴会で相次いだ厳しい意見

鉄道乗蔵鉄道ライター
(写真:武田泉)

 2024年9月3日、JR北海道が来年4月からの実施を予定している平均7.6%の運賃値上げについて、国の運輸審議会が市民から広く意見を聞く公聴会が札幌市内で開かれ、一般の公述人4人が意見を述べた。JR北海道の綿貫社長は運賃値上げについて「物価高騰の中で輸送サービスを維持するため必要」と説明したが、弁護士や大学教員、市民団体代表などからなる公述人4人のうち3人が運賃値上げには反対したものの、賛成した1人もJR北海道の経営姿勢については厳しい注文を付けた。なお、今回の公聴会では島田会長は欠席した。

 反対意見は、値上げにより定期運賃の割引率が縮小されることにより学生の通学に大きな影響がでること、JR北海道の経営姿勢の問題、さらに国の運輸政策の問題に集約された一方で、賛成意見は「一部の安すぎた料金については一定の是正は必要」としたもののJR北海道の経営姿勢については割引切符の窓口販売と自由席の廃止により乗客数が大幅に減少したと指摘されている特急すずらん号について早急なてこ入れが必要などと述べた。

綿貫社長は「行き当たりばったりでその場しのぎ」厳しく問われた経営姿勢

今年のダイヤ改正後に乗客減少を招いた特急すずらん号は批判にさらされている(写真AC)
今年のダイヤ改正後に乗客減少を招いた特急すずらん号は批判にさらされている(写真AC)

 定期運賃の割引率の縮小については、特に通学定期運賃の1割近い大幅な引き上げは、学校の統廃合が進み、子供たちの通学時間が延びる中で、地域にとって大きな痛手となる。通勤定期の値上げも痛手ではあるが、多くの企業が通勤手当を支給している一方で、通学定期については子供たちが値上げの影響を直接受けることになることから、社会的に弱い層により大きな負担を強いる意味で認められないというものだ。5年前の運賃値上げ時の公聴会では、当時の島田社長は「通勤通学のお客様への定期運賃の割引率は、従来通り維持するので、運賃値上げを認めてほしい」と公述していることから、今回の定期運賃の割引率の縮小はこの時の公聴会の場での約束を覆すものだと指摘された。

 JR北海道の経営姿勢については、特に札幌―室蘭間を結ぶ特急すずらん号の窓口での割引切符の販売と自由席の廃止により客離れを招いたことについて「JR北海道はお客様のニーズをまったく把握できていない」と言わざるを得ない。駅の窓口だけではなく駅そのものも、列車も、自由席も、割引制度も、ローカル線も全て減らす。このような不便をお客様に強いたうえで、なぜ値上げでさらなる負担をお客様に求めなくてはならないのか。

 さらに、綿貫社長は特急すずらん号がガラガラ状態であることに対して、記者会見の場で質問が出ると、全車指定席化からまだ半年であるにもかかわらず「安くご利用というニーズが強いのであれば、特急でなくてもいい」と発言するなど、すべてが行き当たりばったりでその場しのぎ。綿貫社長の就任からわずか2年の短期間で失態が続いているのは島田会長―綿貫社長体制が経営能力を欠いていることの表れという厳しい指摘も飛んだ。

 また、JR北海道が経営危機に陥った原因の本質が、国の運輸政策の不作為にあるといった指摘もなされた。JR北海道は、そもそもは年間の赤字額が約500億円となることを前提として発足。その赤字を穴埋めするために国鉄分割民営化当時の長期金利7.3%から逆算した6822億円を経営安定基金が設けられたが、バブル経済が崩壊した1990年代半ばから国の低金利政策によってJR北海道の経営安定基金運用益は急激に減少した。

山線に優等列車を走らせるべき

例年9月の週末を中心に、山線経由で札幌ー函館間を運行する特急ニセコ号にはキハ261系はまなす編成が使用される(写真AC)
例年9月の週末を中心に、山線経由で札幌ー函館間を運行する特急ニセコ号にはキハ261系はまなす編成が使用される(写真AC)

 運賃値上げに賛成した公述人もJR北海道の経営には厳しい注文を付けた。特急すずらん号の客離れについては、早急なてこ入れが必要。函館本線の小樽―長万部間(通称・山線)については、特に小樽―余市間は輸送密度が2000人であり、鉄道を廃止するのが現実的なのか改めて考え直してみる必要がある。ニセコのインバウンド需要については、バスよりも鉄道のほうがよりアクセスや認知度が高く、予約などもしやすいこともあり、北海道新幹線の開業延期が決まった今、もう少し特急列車など優等列車を走らせるなどの施策を考えてもいいのではないかと述べたほか、富良野線の優等列車の定期化の検討についても触れられた。

 さらにJR北海道の自助努力は必要としながらも、北海道や国の役割は重要。広域自治体としての北海道の役割は大変重要に感じるが、現在の北海道政については、公共交通インフラに対しての支援について、若干冷たい印象がある。YouTube上でも、JR北海道の運営について、懸念を表明されている方が多数おられることから、こうした意見についてもJR北海道や国土交通省、北海道、関係自治体の皆さまにも耳を傾けて欲しいと指摘した。

 今回の公聴会で公述人らが提出した公述書は、下記国土交通省ホームページより閲覧できる。

https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/unyu00_sg_000397.html

公聴会の様子(写真:武田泉)
公聴会の様子(写真:武田泉)

(了)

鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。ステッカーやTシャツなど鉄道乗蔵グッズを作りました。

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