アップルがエンタメ分野に本気の投資、自社制作の映画を劇場公開したい事情
米アップルが自社制作映画の劇場上映を計画中だと、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が報じた。大手映画館チェーンなどの幹部らと協議しているという。
大物クリエーターを引き込む
同社は11月1日にサブスクリプション形式(定額制)の動画配信サービス「Apple TV+」を始めた。今後は同サービスで新作を公開する数週間前に映画館で作品を上映したいと考えている。
事情に詳しい関係者によると、2020年半ばに劇場公開を予定している作品の中には、ソフィア・コッポラ監督(写真)の「オン・ザ・ロックス」がある。
iPhoneメーカーのアップルがなぜ、このような段階を経てまでして、自社ネットサービスで映画を配信するのか。
それはコッポラ監督のような著名監督や大物プロデューサーを引き込みたいからだという。
ウォール・ストリート・ジャーナルによると、著名クリエーターは自身を映画人として扱ってもらいたく、その作品は劇場公開されるべきだと考えている。
ロイターによると、アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーは、映画芸術の観点から選考基準の1つに、劇場公開作品という条件を設けている。
また、スティーブン・スピルバーグ監督はかねて、「小さなスクリーンで提供される作品は、エミー賞のようなテレビ作品の賞で競うべきだ」と述べていた。
強みは低料金とユーザー基盤
アップが始めた動画配信サービスについては先ごろ、オリジナルのテレビ番組や映画の制作に60億ドル(約6500億円)超の費用を投じていると報じられた。
同社は2017年に米ソニー・ピクチャーズのテレビ番組制作会社ソニー・ピクチャーズテレビジョンで共同社長を務めてきたジェイミー・エーリクト氏とザック・バン・アンバーグ氏を雇った。
両氏指揮による新体制の下、カリフォルニア州カルバーシティーにあるオフィスで専門家を集めてチームを作り、映像制作事業を推進している。
その後は、米国の大物タレントで実業家のオプラ・ウィンフリー氏や女優で映画プロデューサーのリース・ウィザースプーン氏、女優・コメディアンのクリステン・ウィグ氏などと契約を結んだ。
アップルの強みは、4.99ドルという他社サービスを下回る月額料金と、世界で14億台に上る同社製機器のユーザー基盤。
しかし、米ネットフリックスや米フールー、米アマゾン・ドット・コムなどの先行するライバルはすでに膨大な数のオリジナルコンテンツを配信している。
11月12日には米娯楽大手のウォルト・ディズニーが「Disney+」を始めた。
ネットフリックスの世界有料会員数は1億5000万人以上(図1)。アップルがこの規模にまで事業を拡大するには、相当の時間がかかるだろうと指摘されている。
- 図1 ネットフリックスの会員数推移(インフォグラフィックス出典:ドイツ・スタティスタ)
- (このコラムは「JBpress」2019年10月1日号に掲載された記事をもとに、その後の最新情報を加えて再編集したものです)