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実際に排尿を記録することで気づいた3つのこと(総尿量、健康時の値、膀胱感覚)

加藤篤特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事
(写真:PantherMedia/イメージマート)

記録するということ

食事で摂取したカロリー量を測る、体重を測る、歩数を測るなど、私たちは自分の身体の健康を保つために「記録」という手法でコントロールします。

とくにレコーディングダイエットが分かりやすいですね。食べたものや体重を記録することで、自分の行動の振り返りにつながり自分をコントロールしやすくなります。

ところで、「出すこと」についてはどうでしょうか?

排泄は食事の回数よりもかなり多いにもかかわらず、多くの人は無関心です。

排便に関しては便秘や下痢、排尿に関しては膀胱炎や頻尿、尿失禁など、悩みごとも多いのではないでしょうか。さらには、排泄は日常の話題にのぼることもほとんどないので、正しい情報(回数、量、状態など)を知らない可能性もあります。

そこで、今回は「排尿」に着目し、自分の尿量を記録することで得られる気づきについて考えてみたいと思います。得られたデータをどのように読み解いたらよいのかについても簡単に説明します。

この記事の医学的な部分については、泌尿器科医の松下千枝さんからお聞きしたことをまとめました。

膀胱はゴム風船のような臓器

記録に入る前に、まずは、排尿の仕組みについて簡単に説明します。

膀胱はゴム風船のような臓器で、そこに尿を溜めていきます。私たちが何かをしているときも膀胱はせっせと仕事をしてくれています。このとき膀胱の風船部分は緩んでいて膀胱の出口はキュッと締まっています。膀胱に適量の尿が溜まると尿意をもよおすので、今度は、膀胱の出口を緩め、膀胱自体を縮めることで尿を押し出します。

排尿は膀胱に適量を溜めて、出し切ることが大事です。膀胱に溜める量が少なすぎると、しっかり出し切るのが難しくなります。ちょっとした尿意ですぐにトイレに行くと、あまり出ませんし、またすぐにトイレに行きたくなります。

膀胱に尿が残った状態で、新たに尿が溜められ、また少し残すというのを繰り返すと、残った尿は徐々に混濁します。ここに細菌が入ってくると増殖しやすいので膀胱炎になりやすくなります。

ということで、繰り返しになりますが、しっかり溜めてすっきり出すことが大事です。

尿の記録

ここからは、尿の記録方法について説明します。

私は時間、尿量、回数を記録することにしました。

自宅にあった透明のプラスチックカップにマジックで50mlごとに印をつけました。最も大きい数値は250mlです。

このカップをトイレに置いておいて、排尿ごとに記録しました。

起床時が最初の記録になります。ここでいきなり大きな気づきがありました。

1回の排尿量は150~200ml以上が正常と言われているにも関わらず、なぜか自分の1回あたりの尿量は200mlぐらいと思い込んでいました。そうであればもちろん250mlのプラスチックカップであれば余裕のはずです。

でも、実際は違ったのです。

起床時の1回排尿量は、なんと450mlでした。

そのため、プラスチックカップが満杯になった時点で、一旦中断してカップの尿を捨ててから再開する必要がありました。これは想定外ですし、まあまあ不快でしたが、やむを得ず、これを繰り返して記録をとりました。

その結果、回数は計6回で、総尿量1920mlでした(以下、参照)。

排尿記録

1回目 06:40 450ml(起床時)

2回目 08:50 120ml(排便時)

3回目 11:50 380ml

4回目 15:50 370ml

5回目 19:20 270ml(外出前)

6回目 22:20 330ml(就寝時)

総尿量 1920ml

(参考:翌朝の起床時 340ml)

参考:洋式トイレに取りつけられる採尿容器

適正な総尿量を体重から算出する

では、総尿量から説明します。ここでいう総尿量というのは、1日のうちに出た尿量の合計です。一般的には、「体重(kg)」×「尿量(20ml~40ml)」の範囲内におさまっているのがよいと言われています。

私の場合だと、60kg×(20ml~40ml)=1200ml~2400mlとなります。

記録によって得られた総尿量は1920mlなので、範囲内ということになります。よかったです。

ちなみに、私の場合は2400mlを超えると多尿と診断されます。多尿自体は、病気ではないのですが、頻繁にトイレに行かなければならなくなるので、望ましくはありません。回数に関しては次項で説明します。

さらに、1回あたりの尿量が多すぎる(500~600mlぐらい)と膀胱が広がりすぎてしまい、膀胱の血管が圧迫されて血流が悪くなるので好ましくありません。目安としては、200~400mlが適正と言われています。

逆に、私の場合において総尿量が1200ml以下になると水分が不足気味となります。水分が不足するという状態は、腎臓が少ない水分で尿を生成しないといけないということです。つまり、濃縮した尿を一生懸命つくることになるので、腎臓に負担がかかるということです。腎臓は血液をろ過してくれているので、その機能が低下してしまうと、慢性的な腎障害になり、ひどい場合は透析が必要になることもあります。腎臓の血液をろ過する機能が下がってしまった場合、それを元に戻す治療法はないようです。ということで、腎臓に出来るだけ負荷をかけないように水分を摂取することが大切です。

排尿回数から頻尿かどうかチェックする

1日のうちにトイレに行く回数も重要です。個人差がありますが、1日の排尿回数が8回以上だと頻尿となっています(日本泌尿器科学会)。私の場合、1日の排尿回数は6回でしたので、範囲内ということになります。

夜間多尿(夜間の尿量が多いこと)になってしまうと、夜間に何度も起きてトイレに行くことになるので、眠りが浅くなってしまいます。寝ぼけてトイレに行くときに転んだりしても大変です。膀胱容量が減少して夜間に何度もトイレに行くのは、過活動膀胱や膀胱炎なども心配されるので要注意です。

夜間多尿かどうかをチェックするための目安は、夜間の排尿と起床時の尿量の合計が、1日の総尿量の3分の1を超えるかどうかです。超えていると夜間多尿と診断されます。夜間多尿となっていて、尿意で頻繁に目を覚ましてしまうのであれば、就寝前は水分を控え目にする、昼間に運動をする、塩分を控えるなどの生活改善をするのがよさそうです。

私の場合は、起床時の尿量が450mlなので、450ml÷1920ml=0.23(23%)となり、総尿量の3分の1以下になっています。今のところ、夜間多尿とはなっていないようでした。

参考:頻尿とは

「尿が近い、尿の回数が多い」という症状を頻尿といいます。 一般的には、朝起きてから就寝までの排尿回数が8回以上の場合を頻尿といいます。 しかし、1日の排尿回数は人によって様々ですので、一概に1日に何回以上の排尿回数が異常とはいえず、8回以下の排尿回数でも、自身で排尿回数が多いと感じる場合には頻尿といえます。」(出典:日本泌尿器科学会)

排尿日誌で得られた気づき

排尿日誌を記録することで得られた気づきをまとめると、以下のようになります。

1.思い込みと実際の尿量は異なる

今回、記録するまでは自分の尿量は200mlぐらいと思っていました。というのも、以前に自分の排尿回数のみを数えたら約7回でしたので、一般的に言われている1日の排尿量1000~1500mlから割り出すと、1回あたりは200mlぐらいになるのだろうと予測していたからです。でも、私の場合、平均300mlぐらい(起床時除く)ということが分かりました。これにはかなりビックリです。何事も思い込みではなく、きっちり調べて自分を知ることの大切さを痛感しました。

2.自分の正常値を知ることで、早めのケアにつながる

私の排尿は正常範囲に入っていたので一安心でしたが、もしそうでなかったとしたら恐らく何らかのケアをしようとしていたはずです。曖昧な感覚ではなく、具体的な数値が分かると次のアクションを起こしやすいのではないかと感じています。

また、自分の正常値(健康時の値)を知っておくことはとても大事です。専門機関が示す正常値と比較することも必要ですが、それ以上に自分の正常値が大きく変化することを素早くキャッチすることが重要です。身体の変化を早期に把握することは、よりよい生活を送るための基本だと思います。

3.膀胱感覚が研ぎ澄まされる

松下千枝さんは「いい感じに溜めて一気に出すには“膀胱との対話”が大切」と言います。この言葉を聞いたときは、イマイチこの意味が分かりませんでした。

ですが、排尿日誌を記録してみて、ちょっとだけわかったような気がします。今までは、尿意を感じたらわりと早めにトイレに行っていたのですが、記録することを意識すると、もうちょっと溜めた方が(我慢した方が)しっかり出せるかな、なんて感覚になります。これ、本当です。自分が思っている以上に不快になることなく溜めることができますし、その方がすっきり出せるような気もしました。

今回は量と回数について記録しましたが、残尿感や勢い、排尿後のおなかの張りがあるかないかも重要な記録事項です。

松下医師からのコメント

松下千枝さんからコメントを頂きましたので、紹介します。

「今回は、加藤さんに排尿日誌をつけてもらいました。排尿日誌から読み取れる情報は以上のように多く、泌尿器科を受診するときは事前につけて持っていくだけで、診察の進み方も違います。100円均一で500mlの計量カップを購入してもよし、ペットボトルに目盛りをつけてもよし、とにかく自分の1回尿量、1日尿量を知ってみる。200ml以上を膀胱に溜められるかどうかを調べてみてください。調べてみて、ちょっとおかしいかな?と思ったら泌尿器科を気軽に受診してみてください。さぁ、皆さん、加藤さんに続きましょう。」

まとめ

今回は1日だけの排尿日誌でしたが、3日ほど記録した排尿日誌を専門医が見れば、膀胱が小さくなっている、尿を適切に濃縮できていない、睡眠が浅いなど、様々なことが分かるので、とても役立ちます。

私たちは食べることには大いに関心を持ちます。一方で、出すことには無頓着です。ですが、食べることと出すことの両方が上手くいってこそ、本当に食べたことになるのではないでしょうか。どんなによいものを食べたとしても、上手く排泄出来ていなければ、それは身体が喜ぶ摂取になっていないと考えます。

私たちはもっと自分の身体の声を聞くことを意識する必要があります。まずは、排尿の記録を試みてください。お勧めします。

何を聞いてもいつも丁寧に教えてくれる泌尿器科医の松下さんには、本当に感謝しています。これからも聞き続けたいと思います。

特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事

災害時のトイレ・衛生調査の実施、小学校のトイレ空間改善、小学校教諭等を対象にした研修会、トイレやうんちの大切さを伝える出前授業、子どもの排便に詳しい病院リストの作成などを実施。災害時トイレ衛生管理講習会を開催し、人材育成に取り組む。TOILET MAGAZINE(http://toilet-magazine.jp/)を運営。〈委員〉避難所の確保と質の向上に関する検討会・質の向上ワーキンググループ委員(内閣府)、循環のみち下水道賞選定委員(国土交通省)など。書籍:『トイレからはじめる防災ハンドブック』(学芸出版社)、『もしもトイレがなかったら』(少年写真新聞社)など

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