引きこもりと上京女子のラップグループ~MIC RAW RUGA(laboratory)初インタビュー
吉田凜音の「りんねラップ」などのプロデュースで知られるE TICKET PRODUCTION。彼が2018年にメンバーを募集し、新たに結成したラップ・グループがMIC RAW RUGA(laboratory)だ。メンバーは18歳のREIと17歳のHINASE。2019年1月26日(土)に初の自主企画となる「MIC RAW RUGA(laboratory)定期公演 HIGH-HO vol.1」をひかえているふたりに話を聞いた。
早く「laboratory」が取れるように頑張りたい
――今「MIC RAW RUGA(laboratory)」って、研究生扱いになってるじゃないですか。ぶっちゃけ研究生扱いされているの、ムカつきません? 「私たちが恋愛スキャンダルでも起こすと思ってんのか」みたいな。大人はすぐリスクヘッジを考えますからね(『MIC RAW RUGA(laboratory)』は研究生期間中の名称で、正式メンバーになると『MIC RAW RUGA』のみとなる)。
HINASE 私は「メンバーが増えるかも」って聞いてたし、オーディションのときから「数か月は研究生で」みたいに書いてあったので、そういうもんだと。でも、何か月だろう?
――「何か月で昇格できるんだよ」って感じですよね。それまで最低時給で働かされてるようなもんでしょ。
HINASE そんなことないです(笑)。
REI でも、早く「laboratory」が取れるように頑張ろうって思います。
――まだメンバーを増やそうとしているのもムカつきません? 「私たちふたりでデビューじゃないのかよ、HALCALIみたいなもんだろ」とか。
HINASE オーディションにどれぐらい集まってるのか聞きたくなっちゃいますが。(REIに)ふたりでは話すよね?
――ふたりで「ムカつくよね」みたいな?
REI いえいえ、そんなことなくて(笑)。「何人増えるのかな? どんな子が来るかな?」とか。
HINASE そうそう。どうなるのかな?
デビュー・ライヴ、悔しくて泣いた
――2018年11月26日のデビュー・ライヴも見ました。あのライヴの感触はいかがでしたか?
REI 泣いたよね、ライヴ終わりに。悔しくて。
――何が悔しかったんですか?
REI こんなに緊張すると思ってなくて、もっとできると思ってたんです。でも、やっぱりステージに立ってやってみないとわからないものがあって。それと、あんなに緊張してたのに盛りあがってくださったお客さんに「ありがとうございます」っていう感謝の気持ちで。
HINASE うまくできたと思ってたんですけど、後からライヴ動画を見たら、自分で考えてたのと違っていて。終わった直後は、REIに感化されて、私も泣きそうになったんですけど、「なんでHINASEも泣いてるの?」ってEチケさん(E TICKET PRODUCTION)に言われたので泣かなかったんです(笑)。
弱いと思われるのは嫌なんで
――どういうきっかけでMIC RAW RUGAのオーディションに応募することしたのでしょうか?
REI (吉田)凜音さんのファンで、凜音さんのTwitterでオーディションの告知を見たんです(吉田凜音はオーディションのオフィシャル・サポーター)。4月30日締め切りで、5月2日に凜音さんのワンマンライヴがあって、ちょうど東京に行ってたんです。4月29日に応募しました。
――応募は吉田凜音さんのライヴのついでに?
REI いや、ついでじゃなく(笑)。いろいろ進路や受験を考える時期だったし、学校もあんまり好きじゃなかったんです。ステージに立つ仕事がしたくて、凜音さんを見にいっても、自分が「見にいく側」だと感じて、素直に楽しめなくなってきて。「うらやましいな」っていう思いが大きくなってきて、最終日に申し込みしました。
――吉田凜音さんのどこが好きなんですか?
REI 「関ジャニの仕分け∞」に「歌うまキッズ」として出ているのを見て、歌がうまかったのはもちろん、対決で負けた後に、めっちゃ泣きながら笑ってたんです。「ありがとうございました」って。いい子だなって思って調べて、そっから好きになって。そうしたら、同い年ってわかって。私と真逆っていうか。私はすごいうじうじ悩んだり、踏みだせなかったり、人の目とか余計なことを考えちゃうので、凜音さんみたいに真っすぐ強く生きてる感じ、夢に向かって進んでいってる感じが、すごく憧れでした。
――吉田凜音さんの「りんねラップ」でE TICKET PRODUCTIONを知っていたわけですね。もともとは九州の佐賀ですよね?
REI はい、今は関東で暮らしてます。
――佐賀から東京に出てくるって、すごい決心だと思うんです。「E TICKET PRODUCTIONっていう人のオーディションに応募したんだ」って言っても、親御さんは世代的に「りんねラップ」は知らないだろうし、普通困惑すると思うんですよ。「誰なんだそいつは」って。
REI 親は私がやりたいことに反対はしないので。説得っていうよりは、「こういうの受かったから、次の審査でちょっと東京に行ってくるから」みたいに言って。
――でも、「東京に引っ越す」と言ったときは、親御さんもさすがに心配になりましたよね。
REI いや、反対はされてないです。でも、私が優柔不断なんで、不安もあって、ずっともやもや悩んじゃって。そうしたらお母さんに「悩むぐらいなら行け」って言われて。今は通信制高校に行ってるんですけど、「卒業して大学に行けば学歴は取れるし、そこまで気にしなくていいんじゃない」って兄からも言われてて。
――高校を辞めて上京するのは、すごい決心ですよね。
REI 泣きながら来ました。お母さんと離れるのがつらくて。
――お母さんはなんて言っていたんですか?
REI 「頑張れ」って。「泣くんじゃないよ」って。……泣きそう。
――泣いていいですよ。
REI すいません(涙を流す)。
HINASE (サラダを取りわけながら)生ハムいっぱいあげるからね。
――生ハムを食べると涙が止まりますよ。嘘なんですけど。
REI なんか涙もろいんです。
――今もホームシックになってひとりで泣いたりしますか? 黙ってうなずいていますね。
HINASE (REIに)大丈夫だよ。
――そういうときはお母さんに連絡しているんですか?
REI いや、しないです。弱いと思われるの嫌なんで。寂しくないときに電話します。
自分が好かれる仕事ってなんだろう
――HINASEさんのお住まいは?
HINASE 茨城で、東京まで通ってます。
――これまで芸能活動はしていたんですか?
HINASE 舞台演劇が好きで、地元で演劇をやったり、演劇の企画で募集してるのがあればやってみたりしてました。
――そこからなぜラップをやることに?
HINASE 私は引きこもってたんですけど、その時期に自分の内面を深く掘り下げていって。自分がこれからどういう職に就いて、どうやって生きていこうかって考えたときに、ふたつ必要だと思ったんです。ひとつ目は、自分の好きなお芝居や舞台演劇をすること。もうひとつは、自己承認欲求をどこかで満たすことだって結論にたどり着いたんです。人前に出る仕事で、自分が好かれる仕事ってなんだろうと思って、オーディションのサイトで「アイドル」や「アーティスト」の枠をクリックしたら、募集を見つけて。吉田凜音さんの名前は知ってたので、怪しくないだろうなと思って応募しました。
――まだ若いのにそこまで考えたのがすごいですね。
HINASE 私、中学2年生から引きこもってて、高校1年生のときはちゃんと全日制高校に行ってたけど、高校2年生の春からまた行けなくなって。それで、高校をやめて、東京の通信制高校に転校して、暇な日々を送ってて。
――なんで引きこもりになったんですか?
HINASE 中学2年生のときに、好きだった演劇をやめてからです。
――演劇はいつからやっていたんですか?
HINASE 小学校4年生から中学2年生までしてました。でも、普通の中学生と何か違うって思って。みんなは、部活をやったり、学校の楽しいことを話したりしてるのに、私は普通じゃないかもって思ったのが嫌で、普通の女子中学生みたいなことをしてみようと思ったら失敗したんです。
――でも、その年頃って、特別な人になりたいと思うから、演劇をやっているのはむしろアドバンテージじゃないですか?
HINASE でもその頃は、演劇とか周りに言うのが恥ずかしくて。舞台演劇を好きな人は私の周りにはいなかったので、「からかわれちゃうようなもの」っていう認識があって。それをやってるのが自分の中で嫌だなと思って、好きなものをやめたら、学校だけになったときに適応できなくなっちゃって。
――学校で楽しくやれなかったんですか?
HINASE やれてたんですけど、すごいキャラを作っちゃってて。いじられるキャラで頑張っちゃってたけど、学校に行けなくなった感じです。学校から帰ってきたら、もう脱力して動けなくなっちゃったり。だから、このグループも、素じゃできないと思ってたんです。ライヴも、もっと取り繕っちゃうのかなって思ってたんですけど、ほんとに楽しんでできてる感じです。
――通信制高校からはわざわざ東京に来たんですね。
HINASE せっかくだから東京まで思いきって行くことにしました。最初に学校を選んできたのが母なんです。
――芸事をやると言ったときに、親御さんは大丈夫でしたか?
HINASE ずっと演劇をやってたのもありましたし。ちっちゃい頃から「女優さんになりたい」って言ってたので、芸事に関しては反対は全くなくて。逆に、親は安定した職に就くほうが反対みたいです。両親ともに自営業で、好きなことを仕事にしてるので。
ラップをできているのかがわからない
――MIC RAW RUGA(laboratory)は、ラップをするわけですよね。普通のアイドルだったら歌って踊る。でも、MIC RAW RUGA(laboratory)の場合は、ラップをして踊る。ラップを初めてやってみていかがでしたか?
REI 難しいっていうか、思いどおりにいかないです。今、先に進学で上京していた大学生の兄と一緒に住んでるんですけど、ヒップホップが好きで、すごい今指導してもらってて。知識もいつも教えてもらってて。
HINASE いいな。
REI いろいろ聴いたりして、いざ自分でやってみると、なんか全然違うんです。やっぱり下手で。自分ではのってるつもりなのに、聴いてみたらしっくりこなかったり。あと、自分の声が嫌いなので、レコーディングしたときは、聴きたくなくなりました。
――お兄さんはREIさんのラップを聴いてなんて言ってますか?
REI いや、聴かせてません。もっとうまくなったら。
――HINASEさんは、ラップをやってみていかがでしたか?
HINASE ほぼ同じなんです、できてるのか、できてないのかわかんないんです。ラッパーの方の動画をマネージャーさんが送ってくださって、「こういうふうにやるんだ」とはなるんですが、できてるかがわからないっていう。
昔の曲よりも自分たちの曲で盛りあげたい
――今日は5回目のライヴでしたね(取材は2019年1月6日)。たくさんの人たちがフロアで踊っている光景は、ふたりからどう見えているんですか?
REI 「盛りあがってくださってありがたい、楽しい」みたいな感じです。でも、Eチケさんが昔書いた「MAGIC PARTY」で盛りあがるのは、ちょっと悔しい気持ちもあります。他の曲もすごくいい曲だから、どんどん浸透させていきたいなって。
HINASE 同じこと思ってた。
――悔しいって気持ちがあるんですね。
REI それもあるし、大切にされてきた曲だからこそ、責任を持ってしっかりやらなきゃいけないっていうのもあります。
HINASE 全く同感です。
――ぶっちゃけ「MAGIC PARTY」、もうやりたくないでしょ?
REI いやいや!
HINASE それは思ってないです(笑)。
REI そんなことないです(笑)。これからも、持ち曲の全部の良さをたくさんの人に伝えていきたいなって思ってます。
高校生が聴くラッパーとは
――対バンしたいラッパーはいますか?
REI PUNPEEさんが好きです。凜音さんともいつかできたらすごい嬉しいなって思います。
HINASE ラップを聴くきっかけになったCreepy Nutsさん。あとは唾奇さん。
REI 唾奇さん、「最近高校生の間でも聴いてる子が多いから聴いてみたら」って、私もこの前お兄ちゃんに言われた。
HINASE ラッパーの方はもちろん、私の好きなバンドの方と同じフェスに出たいです。クリープハイプさんやマイヘア(My Hair is Bad)さんとかと。
どこまで行けるんだろう、私たちは
――1年後、2年後にどうなっていると思いますか?
REI 考えるけど、どうなってるんだろう?
HINASE どうなってるんだろう?
REI 「どうなりたい」みたいなのは、ふたりでいっぱい話してます。
――不安もあったりしますか?
REI 不安は常に。やっぱどうなっていくかわからないじゃないですか、この世界。それは楽しみでもあるけど、絶対夢をかなえたいから、ちゃんと結果を残していけるのか。
HINASE どこまで大きくなれるのか。
――HINASEさんは不安になることはありますか?
HINASE 序盤はあったんですけど、最近ライヴが楽しくて、忘れてるときのほうが多くて。でも、ふたりで先のこととか話すと、ちょっと不安にはなります。「どこまで行けるんだろう、私たちは」って。
――目標はありますか?
REI 最初から言ってるのは……。
HINASE ロッキン(『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』)に出たい。
REI サマソニ(『SUMMER SONIC』)も出たい。ロッキンにも出たい。
HINASE サマソニって何?
REI 「ここを目指す」っていうより、もう行けるとこまで行きたいです。大きくなりたい。
HINASE REIと一緒です。もうどこまでも売れたいです。
MIC RAW RUGA(laboratory)のある1本の動画
さて、この記事をまとめている最中に、1本の動画をMIC RAW RUGA(laboratory)がアップロードした。
これは定期公演の告知動画なのだが、肉声のみによるラップで、ゲストのぱいぱいでか美の名前も含めて、実にナチュラルに告知をフロウに乗せていることに驚いた。10代の感性の鋭さを感じるのはこういうときだ。
E TICKET PRODUCTIONはMIC RAW RUGA(laboratory)にヒップホップの歴史も教えているという。気軽に「YO」と言わないように指導しているらしい。地味なようでいて、なかなかの英才教育だ。REIとHINASEがどこまで上にのぼっていくのかを楽しみにしたい。
彼女たちの名前はMIC RAW RUGA(laboratory)。「マイクロウルーガ(ラボラトリー)」と読む。