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高級バッグブランド幹部が語るセルフブランディングのコツ

田代真人編集執筆者
アンバランスではブランディングできない

友人の紹介で、アメリカのブランド『Briggs & Riley(ブリッグス アンド ライリー)』(以下B&R)のディレクターと話をする機会があったので、そのときの話を共有しておきたい。

B&Rは、アメリカのハイクオリティなビジネスバッグやスーツケースなどの旅行カバンを製造しているメーカーで、1993年にニューヨークで生まれたブランドだ。なかでも“Simple as that”という、使用中の事故によるカバンの修理を永久に無料で行なってくれる永久保証制度はよく知られており、アメリカやカナダを中心に世界的に人気を博している。

今回本格的な日本市場への展開を視野に入れて来日したのは、同社のInternational Sales & Business Development部門でディレクターを務めるケビン・E・カー氏。まずは高級ブランドB&Rのディレクターである彼に、私たちが迷いがちなビジネスバッグの選び方を聞いてみた。

ケビン・E・カー氏 (c)naonori kohira
ケビン・E・カー氏 (c)naonori kohira

「ビジネスマンといってもさまざまな職種があります。それらの職種によって選ばれるものは異なるのですが、一般的なビジネスマンがバッグを購入するのには当然目的があるからです。ブリーフバッグは書類を入れたり、ラップトップコンピュータを入れたりして、会議や打ち合わせに持っていきますし、出張などではラゲッジバッグを持って飛行機などで移動することでしょう。

そういったなかで、一般的にまず重視されるのはスタイリングです。その次にその人それぞれに合った機能性と品質。そして保証といったところでしょうか。スタイリングや機能性は個々人の趣味趣向によるものですが、品質の面では、たとえばジッパーはどこのものが使われているかなどです。私たちは日本の製品であるYKKのものを採用していますが、この製品はとても品質が良いですね。世界中で採用されています。こういったパーツを採用しているかどうかで、バッグ自体の品質が変わってきます。

そして、バッグ選びでの重要ポイントが保証です。ビジネスマンは常にビジネスバッグを持ち歩いていますからいつどこが壊れるかわかりません。それをしっかりと保証してくれるかどうかはビジネスバッグを選ぶ大きなポイントになると思います」

とはいえ、ビジネスバッグは普段持ち歩くもの。だからこそ壊れやすいから安いものを購入するという主義の人もいるはずだ、と、ちょっと意地悪な質問をぶつけてみた。

「人によって違いますよね。例えば私の母親。彼女は年に2回くらいしか旅行しないのですが、そんな彼女には700ドルもするラゲッジは必要ないわけです。彼女が気に入ったバッグでOKなんです。でも毎週、毎月といった頻繁にビジネストリップをする人にとっては、それだけでは不十分でしょう。B&Rは世界を飛び回るビジネスマンを対象にしているので耐久性や機能をとても重視していますが、人それぞれでかまわないと思いますよ」

ところで日本でのスーツ販売量は世界的に見ても多い。“スーツの青山”を展開する青山商事は1998年にギネスブックよりスーツ販売着数世界NO.1を認められているほどだ。しかし日本では、量は多くても、個々がバラエティに富んでいるわけではなく、画一的なスーツが氾濫している印象を受ける。ビジネスバッグも同じような気もするが……。

青山商事Webサイトより
青山商事Webサイトより

「たしかに日本は学生のころから制服を着ていることが多く、就活も皆同じようなスーツをまとっていますよね。そして社会人になっても、それは同じ。でも、会社に入って、少しずつ責任を持たされ、タイトルが上がっていくと、多少は着るものや持ち物にも気を使うのではないでしょうか。そうやって、若いころよりも少しだけ良いものを身に着けていくところから始めてもかまいません」

よく欧米のビジネスの場面では、商談相手の時計と靴はチェックされると言われる。高級ホテルにチェックインするときも、ドアマンは一瞬にしてゲストの身なりで顧客を値踏みするとも言う。ビジネスバッグにおいてもそのようなことはあるのだろうか。

「あります。そういった意識は、最近より強くなっている印象ですね。しかも、身に着けている服や時計が良くても、バッグがものすごくボロボロのものだと、そのアンバランスさを訝しがられることになります。昨今は自分をブランディングすることが重要なことだとみんなが認識しているので、皆セルフブランディングを意識しています。ということは、それだけ自分自身も周りから見られていると考えたほうがいいでしょうね」

たしかに皆がセルフブランディングを意識しているのであれば、自分も十分見られていることになる。総体的にアンバランスな一点豪華主義では、すぐに見破られるのだ。しかし、日本では品質よりブランドを重視する傾向もある。であれば、まだブランドが認知されていないB&Rにとって、日本には大きな壁が立ちふさがっているのではなかろうか。

「ブランドにはいろいろあって、なかには品質の伴わないものもあります。消費者もブランドと品質、両方を求める人もいれば、ブランドだけ手に入れればいい人もいます。それはアメリカでも一緒ですね。しかし、ブランドだけにこだわるのは若い人が多いようです。ブランドと品質、両方を求める人は、もう少し歳を重ね、経験を積んだ人たちです。本物志向になっている人たちという傾向がありますね。B&Rの製品は、若い人よりも、そういった本物を知っている、本物志向の人たちに届けばいいと思っています。そういう人にこそマッチしたブランドなのです」

それにしても最近の傾向は良いものを手に入れた人の口コミでそれは伝わり、モノが売れていくという傾向がある。これから日本で展開するにあたっては、まずは使ってもらうことが大事なのではないだろうか。

「そうですよね。私たちは日本でも本格的に展開しようと思っていますが、ほかのブランドが100年近く、またはそれ以上の歴史があるのに、B&Rは創業してまだ21年です。すでにお客様はほかのブランドの製品を持っていることでしょう。しかし彼らは常により良いものを探しているものです。まずは、そういう新しいお客様がB&Rの製品に興味を持っていただくことが必要です。

そのためにはB&Rの製品を使用している周りの人たちからの口コミは重要になってきます。だからこそ私たちはユーザーからの声を非常に大切にしています。そういう声はWebサイトでも紹介しているほどです。しかし、すごく長い時間がかかるでしょうね。ただそれを地道にやっていいくしかないと思っています」

日本では、先日東急ハンズにコーナーを作ったそうだが、そちらのお客様はまだ海外の人たちがほとんどだという。徐々に日本の人たちにも認知されていけばいいという想いなのだとか。これだけモノがあふれた社会において、新たなブランドを浸透させるのは気の長い話でもある。ただ、ケビン氏が語ったように、我々がより良いものを追い求めているのはたしかだ。

今回のインタビューで印象的だったのは、自身の持ち物もセルフブランディングに重要だと言うこと。私自身、ビジネスバッグには機能性だけを求め、安めのものを壊れるまで使用するほうだったのだが、そろそろ品質の良いものも持ったほうがいいのかもしれない。それらがバランスの取れたセルフブランディングには欠かせないものだと気付かされた時間であった。

編集執筆者

1963年福岡県出身。86年九州大学工学部卒業後、朝日新聞社入社。その後、学習研究社にてファッション女性誌編集者、ダイヤモンド社にて初代Webマスター、雑誌編集長、書籍編集などを経て、2007年メディア・ナレッジ設立。代表に就任。出版&電子出版、Webプロデューサー、PRコンサルタントとして活動。現在は、駒沢女子大学教授、桜美林大学非常勤講師を務める。専門は「コミュニケーション」「編集論」。

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