「W杯視聴はABEMA」を決定づけた舞台裏のワールドカップ物語。本田圭佑氏は準決勝・決勝も解説
変わる日本人のワールドカップ視聴。ABEMA TVの試合配信では想定していた視聴数をはるかに超過
FIFAワールドカップ・カタール2022、ついにベスト8の戦いに突入した。
日本では深夜や早朝の放送時間となるが、今、日本人のワールドカップ視聴が大きく変わろうとしている。
そういっても過言ではない数値がある。株式会社サイバーエージェントが運営するインターネットTV「ABEMA(アベマ)」は今回のサッカー・FIFAワールドカップ2022(以下、W杯)の全64試合を無料で生配信している。その日本戦の生中継のたった1日の視聴者数と伸び方が驚異的である。
・ドイツ戦が開催された11/23 約1000万人
・コスタリカ戦が開催された11/27 約1400万人
・スペイン戦が開催された12/2 約1700万人
*注)数値はABEMA全体の1日の視聴数/DAU
そして遂にクロアチア戦では深夜の配信にもかかわらず、システムへの負荷を抑えるため初めての視聴制限がかかる事態となった。日本戦の解説ではサッカー元日本代表の本田圭佑氏を起用、これが成功の要因になった。
「(対戦相手の)◯◯選手は穴」と言えば実際に狙った攻撃が大きなチャンスとなったり、スペイン戦の後半3分で堂安律選手のゴールで同点に追いつくと「あるぞ!」と次の得点の機会を言い放ち、わずか3分後に田中碧選手の逆転ゴールで現実のものになったりした。また「三笘さんはW杯後にビッグクラブへ移籍ですね」など的確かつ歯に衣着せぬ表現で、サッカーファンはもちろんだがファン以外の心もしっかりと掴んだ。
3度W杯のピッチで実際に戦った経験と、優れたビジネスマンとしての嗅覚が相まったものとなっている。
さらにスマホなどのデバイスで視聴可能なため、外出先や移動中、友人や恋人の部屋、またベッドに寝転びながらの視聴などモビリティの高さも支持を得た理由の一つだろう。
「W杯を視聴するならABEMA」という言葉がファン・サポーターの間でも広まっている。あらためて全試合の放映権獲得を決定した藤田晋代表はじめ経営陣の英断は、時間が経つにつれ評価が高まっている。
初めての中東、そして秋開催となった今大会。ジャイアントキリングを繰り返した日本代表は世界から注目されることになったが、視聴方法も含めて様々な視点で歴史が大きく塗り変わる大会となった。
格闘技大会の中継や独自のバラエティ・討論番組などZ世代など含めた20代30代を中心に人気を獲得してきたABEMA。だが、W杯配信を機会にさらに大きく飛躍しようとしている。
大会前は藤田代表や統括責任者のインタビューなどが多くの媒体で扱われてきたが、Yahoo!では最前線で戦っているディレクターや配信の責任者にインタビューを試みた。
サイバーエージェントから塚本泰隆氏、長瀬慶重氏、テレビ朝日から長畑洋太氏に話を伺った。ドイツ戦前後からの舞台裏の物語はメディアでは初めての登場となる。
日本代表の今大会の戦いは終わったが、彼らは現在も配信という舞台裏で戦っている。それは「もうひとつのワールドカップ物語」とも表現できるかもしれない。この戦いは決勝戦まで続いていく。
*日本戦で好評だった本田圭佑氏の解説は、準決勝の1試合と決勝戦でも予定されている。詳細は特設サイトへ。
知られざるW杯配信という舞台裏の戦い
ー初めてのFIFA W杯の配信、日本代表のドイツ戦の現場作業は直前まで大変だったのではないでしょうか。
塚本 ABEMA(アベマ)として初挑戦となる「FIFA ワールドカップ カタール 2022」の全64試合無料生中継で、今まで経験したことがないことが多々ありましたね。
しかし、過去数々のグローバルな大会やスポーツ中継を行ってきたテレビ朝日さんのノウハウや技術力など多方面でお力添えをいただき、「ABEMA」とテレビ朝日の合同チームにより生中継が実現可能となりました。
特にドイツ対日本戦は日本代表にとって記念すべき1戦目。世間からも注目の集まる試合となったため、安定した中継をお届けできるよう気を引き締めて配信に向けて準備していましたね。
長畑 テレビ朝日でこれまでやってきたサッカー中継の経験を、新しいプラットフォームで活かす機会をいただきました。本田圭佑さんの存在はもちろん、インターネットベースならではの拡張性の高さを生かした「マルチアングル」や、その他の機能を活用するなど新たな試みもたくさん行うことができたと思っています。
ABEMAでのサッカー中継、それも世界最高峰のW杯中継を64試合すべてというのは我々テレビ朝日スタッフとしても新たな挑戦となりましたが、我々としても配信する上で発見が非常に多く、スポーツ中継の新たな形に繋げていきたいと考えてます。
ー配信にあたって、他視点カメラやスタッツ機能などさまざまな工夫をされたそうですね。
塚本 今回の試合では、それぞれのチームに特化したカメラと全体を俯瞰できるカメラの2種類を使って配信して、ユーザーが好きなカメラ映像から視聴できる「マルチアングル映像」を用いました。
チーム映像と俯瞰カメラ、そしてメインのカメラを4分割で同時に楽しめる「4分割映像」も配信するなど、様々な視聴方法を用意することでユーザーが自分で楽しみ方を選べる視聴体験をご提供しております。
また、試合をより深く、わかりやすく楽しんでもらうため、試合中に試合や選手などの情報を観戦しながら確認できる「試合データ」機能も提供しています。
その他にも「コメント機能」を使って声援を投げかけ合いながら観戦することができたり、「追っかけ再生機能」を使えば試合の途中でも最初から視聴し直すこともでき、放送後でも試合中に投稿されたコメントを楽しむことができる仕様にしました。
世界に衝撃を与えたドイツ戦の歓喜
ー開幕後、波乱の今大会では、サウジアラビアがメッシ擁するアルゼンチンに勝利しました。反響の大きさはいかがでしたか?
塚本 アルゼンチン対サウジアラビア戦はABEMAの独占生中継の試合で、11月21日(月)~11月27日(日)の試合別視聴者数ランキングでも3位にランクインするなど、日本でも注目度の高い試合でした。メッシ選手が登場するハイライト映像も多く見られており、日本での人気を感じる結果となりました。
ーでは、世界に衝撃を与えた日本によるドイツ戦の勝利の際はいかがでしたか?
塚本 私は日本のスタジオにいたのですが、注目の1戦目で日本代表が勝利を収めたことにより、東京のスタジオ現場も歓喜に沸きましたね。
ただ、我々としては時間的に次の試合であるスペイン対コスタリカ戦の中継などもありましたし、初めての日本戦生中継をお届けするということの重責のほうが大きかったため、1戦目終了とともに、2戦目のコスタリカ戦に向けてすぐに準備に向かっており、すぐに通常の現場の雰囲気に戻り緊張感を持って作業にあたっていました。
長畑 私もカタールの現場にはいなかったので、現場の反響や手応えについてはわかりません。本田圭佑さんを解説席に迎え、槙野智章さんをピッチ解説、そしてテレビ朝日の寺川アナウンサーに実況というスタイルで挑みましたが、本田圭佑さんの解説がとにかく面白く、魅力に満ちたものでしたね。
素晴らしい解説者の方々と普段仕事を一緒にしていますが、それとはまた別の魅力があり、さらに視聴者の反響をコメント欄で見られるというABEMAの特徴によって、現場にいなくても、その反応や手応えが感じられました。
W杯全試合を無料放送、経営陣の決断
培ってきた映像技術や配信ノウハウを駆使し、配信の裏方として現場で戦う人々の尽力によって今回のABEMAの大躍進があった。それは日本代表の躍進の姿と重なるようでもある。
その一方で、マネジメントサイドはどのような経営判断によって無料生配信を決断したのだろうか。株式会社AbemaTVの取締役である長瀬氏に話を聞いた。
ー今回のワールドカップの配信、経営判断としてはどのような判断材料からGOサインが出たのでしょうか。
長瀬 放映に至る経緯の詳細については守秘義務があり回答できかねますが、代表の藤田がテレビ朝日さんにお声がけをいただいたこともあり、「ABEMA」としては開局から約6年が経ち、チャレンジする環境とタイミングが重なったことで、メディアとして次のステージへと進む機会だと捉え、中継するに至りました。
また、今大会はABEMAを多くの方々に知っていただく機会でもあると考えており、これをきっかけに他のコンテンツに出会い、時間と場所にとらわれないABEMAならではの視聴習慣を楽しんでいただきたいです。
ーまだ、大会途中ではありますが現状の評価はどのようなお考えをお持ちですか。
長瀬 今回の「FIFA ワールドカップ カタール 2022」の全64試合無料生中継において、テレビ朝日さんとタッグを組み中継を実施しており、過去数々のグローバルな大会の中継経験があるテレビ朝日さんと、インターネット配信においては開局から6年のノウハウがたまったABEMAが一緒に取り組むことで、視聴者のみなさまに生中継をお届けできているのではないかと思っております。
また、「ABEMA FIFA ワールドカップ 2022 プロジェクト」のGMである本田圭佑さんには現地カタールにて解説を務めて頂いており、視聴者の方からも多くの反響をいただき、「ABEMA」としても大変嬉しく思います。
さらに、11月23日(祝・水)のドイツvs日本戦が行われた1日の「ABEMA」視聴者数が1,000万を突破、11月27日(日)の日本のグループステージ第2戦目となる対コスタリカ戦が行われた1日の視聴者数は1,400万を突破、そして日本vsスペイン戦、コスタリカvsドイツ戦などが生中継された2022年12月2日(金)の「ABEMA」の1日の視聴者数が1,700万を突破し、開局史上最高数値となりました。試合を重ねるごとに多くの視聴者の方にご覧いただけていることを有難く思いながらも、閉幕まで万全の体制で安定した配信をお届けできるよう努めてまいります。
ー今後もスポーツの国際大会の配信は考えられていますか。
長瀬 「FIFA ワールドカップ カタール 2022」後には、世界最高峰のサッカーリーグ「プレミアリーグ」2022-23シーズンの生中継が再開します。そのほか現段階で決定していることはございません。スポーツやライブの楽しみ方は多様化してきている中でも、今後も多くの方々が“今見たいもの”や熱狂するコンテンツをお届けしたいと思っています。
今後も様々なスポーツの生中継において「ABEMA」ならではの新しいスポーツ観戦体験を通し、そこから新たなスター選手が誕生するきっかけや、業界のさらなる発展に少しでも寄与することが出来たらと思っています。格闘技や千鳥さんなどが出演するバラエティ番組も好評です。AbemaTVならではの方向性を掴みかけているのではないでしょうか。
ー今後のビジョンなどもお教えいただけますでしょうか。
長瀬 「ABEMA」はテレビのイノベーションを目指し"新しい未来のテレビ"として展開する動画配信事業です。テレビのよさは、生中継、同時性、無料であると考えており、国内唯一の24時間編成のニュース専門チャンネルをはじめ、オリジナルのドラマや恋愛番組、アニメ、将棋・麻雀スポーツ・格闘技の生中継など、多彩なジャンルの約20チャンネルを24時間365日、基本無料でお届けしています。
さらに、テレビ、オンデマンドなど、時間にとらわれることなくいつでも作品をお楽しみいただけるほか、スマートフォンやPC、タブレット、テレビデバイス、Nintendo Switchなどで、場所にとらわれることなく番組を視聴いただけます。
今後も、それぞれのライフスタイルに合わせて「ABEMA」をお楽しみいただく方が増えれば幸いです。
以上、三者三様の言葉は淡々と語られながらも、今大会の配信事業への情熱を感じるものだった。
場所や時間には制約されず、無料かつ生中継でW杯を楽しんでもらいたい。そんな思いが詰まった今回のABEMAの試合配信によって、2022年の日本でのW杯視聴は大きな変化を迎えた。視聴数が想定を超えた場合に配信画面が固まるなどの課題もあるが、ABEMAが「新しいテレビ」として、スポーツ視聴の「新しい景色」を見せてくれたのは間違いない事実だろう。
三笘薫選手や冨安健洋選手などが活躍する英・プレミアリーグの中継など、ABEMAによるスポーツ配信に期待を寄せているスポーツファンは増加している。次回2026年のサッカーW杯放映に関しては未定だが、スポーツ配信と視聴革命の未来を担っているABEMAから今後も目が離せない。取材を続けていきたい。
◯インタビューイ
塚本 泰隆(つかもと・やすたか)
1987年生まれ。大学を卒業後に一般企業に就職後、2016年に株式会社サイバーエージェントへ転職。
2016年、ABEMA「麻雀チャンネル」を立ち上げるため参画、2019年よりABEMAのスポーツ、将棋、麻雀などのジャンルを扱う編成本部スポーツエンタメ局局長に就任。
「FIFA ワールドカップ カタール 2022」のABEMA中継責任者を務める。
長畑 洋太(ながはた・ようた)
2003年に株式会社テレビ朝日に入社。
現在、テレビ朝日スポーツ1部プロデューサーとしてスポーツ中継やスポーツ番組の制作に関わる。「FIFA ワールドカップ カタール 2022」では塚本とともにABEMAの中継、番組制作に従事。
長瀬 慶重(ながせ・のりしげ)
1975年生まれ。大学を卒業後に一般企業に就職後、2005年に株式会社サイバーエージェントへ転職。
2015年に執行役員、2018年に取締役をへて、2020年より常務執行役員。
2022年株式会社AbemaTVの取締役として、ABEMAの事業全体を担当している。
今回の記事内のインタビューなどABEMA広報の方々のご協力なしには実現しませんでした。ここに改めて謝意を表したいと思います。
*すべての画像はABEMAから提供
(了)