なぜ北欧ファッションウィークで差別や偏見が話されるのか、変わる美の認識
北欧各国のファッションウィークを取材していると、現場の「ある」雰囲気に私は疲れることがある。
「白人中心のファッション業界」であることを認識させられるからだ。
政治・音楽・飲食など、さまざまな業界を取材していた私は、ファッションウィークという業界がいかに白人コミュニティかを目の当たりにし、カルチャーショックを受けたものだ。もう10年ほど前のことで、今はモデルの体型や肌の色はより多様性に満ちている。それでもまだまだ白人が多い業界だなとは思うが、変化が起きていることは間違いない。
コペンハーゲン・ファッションウィークでショーが開催されるのを待っていると、隣にはたまたまイタリア出身でデンマークでサステイナブル経済を学びながら、持続可能なテキスタイル販売の企業に勤める女性が座っていた。「北欧は持続可能なファッションに対する意識が非常に高い。イタリアではこれほど進んでいないから」。
確かに「変わろう」とする北欧ファッション業界の意識は強い。H&Mなどのファストファッションも生み出したが、今は「持続可能なブランドでないと生き残れない」という認識とあせりは業界で濃く、「持続可能な素材・テキスタイル」に力を入れたスタートアップと提携する企業も続出している。「持続可能な素材」においては、ファッション業界に北欧は今後良い波を起こす可能性は高い。
北欧の中で最も頑張っているファッションウィークの最先端都市はコペンハーゲンだ。北欧の中でまず最初にどのファッションウィークに行くか迷うなら、コペンハーゲンを選ぶといいだろう。完璧に持続可能なブランドやファッションショーは存在しないが、ここはその矛盾と葛藤を抱えながらも変化しようともがいている場だ。
美の定義や認識はアップデート中
私は8月に開催されたファッションウィークのトークイベント「美の認識を変える」を聞きにきていた。テーマは気候変動と多様性を取り込むことで、「美の認識」はいかに変化しているかだった。
Vogue Businessのシニア・トレンド・エディターであるルーシー・マグワイアさんは、気候変動が今や避けては通れない課題となったことで、誰もが考えや行動を見直す時期にきていると指摘した。
「気候変動に関する目標がイベントや会話に含まれることで、企業であれ個人であれ、この市場を開拓する時に直面する課題とは何かを考えさえれられ、課題の定義を進化させようとする動きが起こります」
非白人で特定の宗教信仰、日々の隠れた偏見
ストックホルム出身でコペンハーゲンに住むインフルエンサー、イマネ・アスリーさんは「非白人」で「特定の信仰を持つ」ことが目に見えてわかりやすいことから、さまざまな課題に日々直面していると明かした。
「政治的にターゲットになりやすいし、ファッション業界の関係者は私のような人と一緒に仕事をするのが慣れていないのだなと感じます。スタイリストも私の担当となると時間がかかりやすくて、10回中9回は私が一番最後に仕上がることになりがちです。私の頭に何を着せれていいか困る人もいます」
「周りを見てみて、みんな同じような顔をしていませんか」
どのように美の定義を変え、型にはまることをなくすことができるかと問われたアスリーさんは、「何が美しいかを決めるのは以前は伝統的なメディアだったけれども、コンピューターやインフルエンサーの存在がその定義を変えることに貢献した」と話す。
「キャスティングたけに捉われずに、まずはリーダーシップを多様化させること。チームを見てみてください。みんな、同じような顔をしていませんか?それとも違いがありますか?」
「すべての肌タイプというときは、大抵は私のような肌のことを指すのではない」
スキンケアブランド「Deciem」のサステナビリティ&ソーシャル・インパクト担当兼シニア・ディレクターであるジャッキー・カンカムさんは、「黒人であることがいかに目に見えない存在であるか未だに感じる」と話しながらも、多様性を進めていくために行動をしている。
新商品に関する意見を求められた時は、「すべての肌タイプ」という表現に疑問を呈し、「すべての肌タイプというときは、大抵は私のような肌のことを指すのではない」「だから『すべての肌タイプ』ではなく『特定の肌タイプ』としたほうがいいと」アドバイスした例を話した。
オサマ・アル・ナセルさんはファッション業界で働きながら、若者や政治家にデジタル暴力に関する啓もう活動も行っている。美の認識は世界のどこにいるかによっても異なり、美しいとともに、「とても有害だ」と話し、あるエピソードを話してくれた。
「その名前は変えたほうがいいよ」「もっと女性の体に手をまわして」
「私の名前はオサマなのですが、数年前にモデルの仕事を始めたとき、あまり仕事がなくて、エージェントに名前を変えたほうがいいと言われました。
その国でだれがマイノリティなのか気にかけることも大事だと指摘する。
「ある時、カナダでスカーフをかぶっていた少女との撮影があったんです。そこでチームは『もっと彼女に腕を回して』と言い始めた。私は恥ずかしかったけれど、『こういう時は彼女に許可を得ないとだめだよ』と言わなければいけなかった。それでも彼らは『もっと近づいて』と指示し続けました」
気候・環境以外のサステナブルの話題も話そう
北欧のファッションウィークの現場にいくと、他の業界より明らかに肌の色の多様性が少ないことからも、マイノリティに属する関係者は日々感じるマイクロアグレッションを声にはしにくいだろうなと私は感じる。
だからこそ、このような北欧最大級のファッションウィークでこのようなトークショーが開かれ、日々の隠れた差別体験を聞くことができる機会は重要だ。本来ならばこのような体験は業界に関わる全ての人に届くべきエピソードだろう。そしてこのような体験をオープンに話す人の勇気にも感謝をしたい。
北欧のファッション業界はサステナブルというと、「気候・環境」にフォーカスしがちだ。しかし、多くの課題を抱える業界だからこそ、グリーンウォッシュにも聞こえやすく、綺麗な言葉を聞いても、もやもやしやすい。
それでも、多様性、人種、宗教、差別など、他の課題についても話し合い、考えようという流れが生まれてきていることは前進だとも思う。
Photo&Text: Asaki Abumi
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