危険な南北のチキンレース! エスカレートする韓国軍と北朝鮮軍の「威嚇戦闘飛行」と「砲撃合戦」
韓国と北朝鮮との間でやったらやり返す、「目には目を」の軍事面での応酬が続いている。危険なのは日増しにエスカレートしていることである。
北朝鮮の一連のミサイル発射と核実験を牽制するため米韓連合軍が9月26日から29日まで米原子力空母「ロナルド・レーガン」を投入し、海上合同演習を実施すると、北朝鮮は演習終了後に短距離弾道ミサイルを2発発射した。韓国の飛行場を無力化する目的で模擬の戦術核弾頭を使用した発射訓練であったことを北朝鮮は隠さなかった。
(参考資料:ゴングが鳴った朝鮮半島の危険な「ウォーゲーム」 米韓合同軍事演習VS北朝鮮の核・ミサイル)
すると、その日のうちに韓国は米韓の特殊部隊が合同で畿道平沢市にある米軍基地の飛行場で「チークナイフ」訓練を行ったとして、訓練写真を公開し、北朝鮮を威嚇してみせた。「チークナイフ」は特殊部隊が緊急時に北朝鮮の内陸部に深く浸透し、要人の拉致、暗殺のほか、主要施設を破壊し、連合軍の爆撃を精密に誘導する訓練を指す。
斬首作戦の一環である「チークナイフ」訓練を行ったことに反発した北朝鮮は同じ日に再度、短距離弾道ミサイルを2発発射し、後に「韓国内の飛行場を無力化する目的で模擬の戦術核弾頭を使用した発射訓練であった」と発表した。
韓国は翌30日に日米と共に対潜水艦戦演習を実施する一方で、脱北団体「自由北韓運動連合」が金総書記の妹・金与正(キム・ヨジョン)党副部長の警告を無視し、南北境界地域から北朝鮮に向けて金正恩体制を批判するビラを散布した。金与正副部長は韓国の対北宣伝ビラ散布に対して「南側の嫌悪すべき者らを同族であるとの時代錯誤的考えを持つようならばそれ以上の恐ろしい自殺行為はない」と述べ、「これからもウイルス流入などの危険な悪ふざけを継続するならば我々は南朝鮮(韓国)当局を破滅させることで応える」と警告していた。
北朝鮮は言葉だけでなく、行動でも怒りを示していた。日米韓の対潜水艦戦演習が終了した翌日(10月1日)、短距離ミサイルを2発発射した。上空爆発と直接精密攻撃及び散布弾打撃の配合で命中させることを狙った発射であった。
絶え間ない北朝鮮のミサイル発射に業を煮やした尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は折しも10月1日の「国軍の日」の演説で「北朝鮮が核兵器の使用を企てるならば、韓米同盟と我が軍の圧倒的な対応に直面することになる」と牽制してみせたが、金総書記が委員長を兼ねている党軍事委員会は「敵により強力で明白な警告を発する」ことを決定し、10月4日に強気にも中距離弾道ミサイル「火星12」の発射ボタンを押した。
北朝鮮のミサイルが5年ぶりに日本列島を飛び越え、太平洋に着弾したことに激怒した米韓両国は直ちに戦闘機による爆弾投下訓練を行い、それぞれ2発の地対地弾道ミサイルを日本海上の訓練用の標的に向け発射し、北朝鮮の挑発の原点を無力化できる能力と態勢が整っていることをまざまざと見せつけた。
ところが、これに対して北朝鮮も6日に短距離弾道ミサイルを2発発射したほか、戦闘機8機と爆撃機4機による航空攻撃訓練を行ったことから韓国もやむを得ず、これに対抗して戦闘機40機を緊急出撃させた。韓国はまた、午前から午後にかけて日米と共に弾道ミサイルの発射を想定した訓練を日本周辺海域で実施した。
日米韓の3か国による弾道ミサイルの発射を想定した共同訓練は今年8月以来のことで、この訓練とは別にこの日、日本海では3隻の日米韓のイージス艦が共同で航行する訓練も行われた。
尹大統領はこの日、「(国民は)心配していると思うが、状況が尋常ではなかったため、韓米合同訓練を終えて次の任地に向かっていた『ロナルド・レーガン』が昨夜8時ごろ、我々の水域に入った」ことを明らかにし、7日から8日までUターンした原子力空母を動員し、再度海上連合機動訓練を行った。
「ロナルド・レーガン」を再投入し、米韓海上連合機動訓練が行われたことに猛反発した北朝鮮は8日に約150機の各種戦闘機を出撃させ、人民軍空軍の史上初の大規模航空攻撃総合訓練を行った。また9日には北朝鮮は「敵の主要港を打撃する模擬の超大口径放射砲射撃訓練」と称して大口径放射砲を2発発射してみせた。
北朝鮮は4月16日の短距離ミサイル発射以降、ミサイルの発射事実を公表しなかったが、10日になって9月25日から10月9日まで金総書記の立ち会いの下、ミサイルの発射演習を行った事実を写真付きで公開した。
金総書記は米韓に向けて「持続的で意図的で無責任な情勢激化行動は止むを得ぬ我々の大きな反応を誘発するだけであり、我々は情勢危機を常時厳格に注視している」と述べ、「朝鮮半島の不安定な安全環境と看過できない軍事的動きを漏れなく鋭意注視しており、必要な場合相応のあらゆる軍事的対応措置を強力に実行していく」と強調した。
金総書記の発言に対して韓国大統領室高官は11日、「『声東撃西(声を発して東に誘い西を攻撃する陽動作戦)』のような挑発も真剣に念頭に置いている」と述べ、韓国軍が北朝鮮の局地的な軍事挑発の可能性にも備えていることを明らかにした。
北朝鮮は金総書記の警告が決してハッタリでないことを示すため12日に長距離戦略巡航ミサイルを2発発射した。金総書記は「今日のミサイルの爆音は再度、敵らに送った明白な警告である」と発言していた。
これに対して駐韓米軍はこの日、午前8時から午後6時まで10時間にかけて江原道・鉄原で多連装ロケットの発射訓練を実施した。軍事境界線から5キロメートル以内では訓練ができないので、射撃地点は5キロメートルから以南、それも南に向け演習弾を発射していた。韓国軍に代わって米軍が対抗措置として砲撃訓練を行ったことになる。
すると、北朝鮮は「韓国軍が前日に北朝鮮第5軍団が駐屯している前方地域で10数回砲撃した」として翌日の13日、午前10時から12時20分まで軍用機10機を出撃させた。飛行禁止地域北方5km(軍事境界線北方25km)まで接近したことから韓国は「F-35A」戦闘機を40機緊急発進させた。
北朝鮮はまた、14日には午前1時20分から25分まで黄海道馬場洞から西海に向け130発、2時57分から3時7分まで江原道九邑里から日本海に向け40発、午後5時から6時半の間に江原道長田一帯から日本海に約90発、午後5時20分から7時まで西海海州港一帯から90発、西海・長山岬一帯から210発の砲撃を行った。韓国の領海には着弾しなかったが、東と西海落弾地点は「9.19合意」のNLL北方海上緩衝区域内に入る。北朝鮮はこの日、弾道ミサイルも1発発射した。
韓国合同参謀本部と国防部は北朝鮮の「9.19合意」違反に警告を発すると同時に韓国政府は5年ぶりに独自対北制裁を発令し、核・ミサイル開発や対北朝鮮制裁の回避に関与した北朝鮮の個人15人と16団体を独自に制裁対象に指定したが、翌15日には今度は人民軍が報道官声明を出して、韓国に対して「今後も我が軍は敵の挑発が朝鮮半島の軍事的緊張を高めることを決して容認せず、圧倒的な軍事対応措置を講じる」と警告を発していた。
韓国は一昨日(17日)、「22護国訓練」と称する陸海空の合同野外機動訓練をスタートさせたが、米軍戦力も一部加わった訓練には前線地域での砲撃訓練も含まれることもあって北朝鮮は昨日(18日)午後10時に西部の黄海道の長山岬一帯から黄海に向けて約100発、同11時ごろ東部の江原道・長田から日本海に向けて約150発の計250発の砲弾射撃を行った。
人民軍参謀部は「(韓国に)重大な警告を発するため18日に我が軍は東部と西部の前線部隊が軍事的対応措置として東・西海上で警告射撃を行った。我々は(韓国の今回の挑発策動を特に重視している」と警告を発していたが、韓国軍は米軍と共に今月31日から11月8日まで「2022年戦闘準備態勢総合訓練」として韓国から「F-35A」、F-15K」,「KF-16」など140機、米軍から「F-35B」,「F-16」など100機が参加する米韓大規模空中連合訓練を行うことにしている。今年7月にもアラスカ州から「F-35B」を6機朝鮮半島に展開させ、米韓合わせて30機が訓練を行ったことがあるが、今回は大規模訓練である。
北朝鮮は何らかの対抗手段、それもより強硬な措置を取る公算が高く、それが7度目の核実験となった場合、米韓は「B-1」戦略爆撃機など戦略兵器を投入し、北朝鮮への軍事プレッシャーを一層強めることなり、朝鮮半島情勢は一気に一触即発の状況に陥ることになるであろう。