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「ナス」と「アフリカゾウ」の関係とは

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:アフロ)

 ナスが美味しい季節だが、ナス(Solanum melongena)の祖先については、アフリカ原産ということしかまだあまりよくわかっていない。今回、ナスの野生種の多様性が、アフリカゾウ密猟の影響を受けているという論文が出た。原種の遺伝子プールは商品作物の品種改良に欠かせないが、思わぬところに関係があるかもしれないというわけだ。

大集団のナス科の野菜

 よく「秋茄子は嫁に食わすな」などといわれ、その意味は一般的には嫁イジメだが正反対の意味で使われることもある。それほど美味い野菜がナスだが、我々がよく見かけるナスは一般的にエッグプラント(Eggplant、Solanum melongena)と呼ばれ、日本以外でも欧米など世界各国で栽培されている。

 だが、世界には2300種以上のナスの仲間(ナス科、Solanaceae)があり、ナス科の植物は多種多様でジャガイモやトマト、トウガラシ、タバコ、コショウなどもこの2300種のナス科に入る。ナス科の約半分がナス属(Solanum)の野菜だが、このナス属にもジャガイモやトマトが入ってくるのでややこしい。

 ジャガイモやトマト、タバコは南米(新大陸)が原産だが、我々が一般的にナスと認識するようなナスは旧大陸が原産で、それぞれの祖先がかなり昔に分化した。ゴンドワナ大陸が分かれる前に共通祖先が現れ、その後、ナス科の植物が新大陸で多様化する(※1)。

 ナス科の植物は、まずトウガラシと分かれ、その後にナスとトマトの祖先が分岐し、トマトの祖先がジャガイモに分かれたと考えられている(※2)。

 ナスは各国各地域で独自に品種改良され、日本には180種以上あるようだ。遺伝子を調べたところ、日本のナスはインド原産で、中国から日本へ入ってきた(※3)。ただ、インドのナスも元をたどれば、アフリカの野生種から来たようだ(※4)。

 今回、ナスの原産地であるアフリカの生態系が環境変化や開発、密猟などで破壊されつつあり、野生種のナスに少なからぬ影響を与え、遺伝子の多様性が脅かされているのではないかという論文が出た(※5)。これは英国の自然史博物館などの研究グループによるもので、アフリカの野生種ナスの分布と生態系における生物の関与の関係を調べたという。

 気候変動や環境破壊により野生の原種が絶滅すれば、種子が得られず遺伝資源の多様性も保つことができない。そのため、品種改良や栄養成分の質的担保に悪影響が出てくる。

大型草食動物が野生のナスに関与

 ナスという商品作物は世界中の食料で大きな存在感を示しているが、その種類も地域によって多種多様で栽培された歴史も長いため、その遺伝子はかなり変異している。ナスの野生種の遺伝資源の重要性はいうまでもないが、この研究グループが調べたところによれば、アフリカ原産のナスの野生種はマダガスカル島を含む南アフリカで多様性を持ち、生育域を広げたという。

 植物の多くは、昆虫や鳥類、爬虫類、哺乳類などに受粉させたり果実を食べさせることで花粉や種子を広範囲にばらまき、生育域を広げていく。ナスの野生種は、アフリカゾウとインパラなどの大型草食動物に食べさせることで多様性と分布を広げていったと考えられる。

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黒い円がアフリカゾウ、黄色い円がインパラ、青いドットがナスの野生種の分布。Via:Xavier Aubriot, et al., "Shedding new light on the origin and spread of the brinjal eggplant (Solanum melongena L.) and its wild relatives." American Journal of Botany, 2018

 だが、環境破壊や開発、密猟などにより、これらの大型草食動物の生息域は狭まり、数も減っている。研究グループによれば、こうした生態系の変化がナスの野生種の多様性や生育域に関与し、ナスの栽培にも影響を与えかねないと警告する。

 米国のマシュー・ペリー提督が江戸幕府に開国を迫った際、植物採集の専門家が乗船し、日本の植物や種子を持ち帰ったことはよく知られている。その動植物が絶滅すれば、遺伝資源を再び手に入れることは難しい。

 生態系の変化で野生種が絶滅の危機に瀕しているのはナスに限らない。アフリカゾウが減ることで、人類の将来の食糧事情が大きく変わるかもしれないのだ。

※1-1:Sami Doganlar, et al., "A Comparative Genetic Linkage Map of Eggplant (Solanum melongena) and Its Implications for Genome Evolution in the Solanaceae." Genetics, Vol.161, 1697-1711, 2002

※1-2:Peter Wilf, et al., "Eocene lantern fruits from Gondwanan Patagonia and the early origins of Solanaceae." Science, Vol.355, Issue6320, 71-75, 2017

※2:Agnieszka Sekura, et al., "Cultivated eggplants- origin, breeding objectives and genetic resources, a review." Folia Horticulturae, Vol.19(1), 97-114, 2007

※3:Shiro Isshiki, et al., "Isozyme Variation in Eggplant (Solanum melongena L.)." Journal of the Japanese Society for Horticultural Science, Vol.63, No.1, 115-120, 1994

※4:Terri L. Weese, et al., " Eggplant origins: Out of Africa, into the Orient." Taxon, Vol.59(1), 49-56, 2010

※5:Xavier Aubriot, et al., "Shedding new light on the origin and spread of the brinjal eggplant (Solanum melongena L.) and its wild relatives." American Journal of Botany, Vol.105, Issue7, 1175-1187, 2018

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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