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【走っていて呼吸が苦しくなるのは、もしかしたら病気?】運動誘発性喘息について、経験した医師が書く

たくや/ランナー医師、ランナー、ランニングコーチ

ランニングをしていると息があがってきます。特にペースが速いと、息は苦しくなり、心臓がバクバクして、足は重だるくなってきます。それは走っていれば当然なのですが、特にこの寒い時期に、いつもと比べて肺が変だな?呼吸がしづらいな?と感じたことはありませんか?もしかしたらそれは、運動誘発性喘息なのかもしれません。

1.運動誘発性喘息とは?

運動誘発性喘息とは、運動によって大量の吸気が気管支を刺激することで、気管支の筋肉が収縮して狭くなってしまうことでおこります。特に冬の寒くて乾燥した環境で起こりやすく、もともと喘息の持病のない人にも多くみられます。そして運動中に運動誘発性喘息が発症すると、競技のパフォーマンスが低下してしまう可能性があります。

運動誘発性喘息は、冷たくて乾燥した吸気が気管支を刺激して、狭くなってしまう現象です。
運動誘発性喘息は、冷たくて乾燥した吸気が気管支を刺激して、狭くなってしまう現象です。

運動誘発性喘息は結構多くの人にみられ、文献にもよりますが運動をしない人も含めた一般人の有病率は7-10%ですが、競技力の高い有酸素運動系競技のアスリートの有病率は20-50%とされています。

一般の市民ランナーに関する文献でみていくと、フルマラソン・ハーフマラソンに出場した79人のランナーについて調べたところ、運動誘発性喘息が疑われるのは約3割弱の23人であったとの報告があります(レース後にFEV1.0%が10%以上低下したランナーを喘息の疑いとしています)。特に年配者で多かったとのことです。

また別の報告では、フルマラソン34人とハーフマラソン36人のランナーについて、レース前とレース後とレースから2-7日後の呼吸機能を調べたものがあります。

フルマラソンとハーフマラソンの、レース前・レース後・レース2-7日後の呼吸機能の変化:Christine Bekos et al.Sci Rep. 2019より改
フルマラソンとハーフマラソンの、レース前・レース後・レース2-7日後の呼吸機能の変化:Christine Bekos et al.Sci Rep. 2019より改

その文献によると気道が狭くなると低下するFEV1.0%という数値が、フルマラソン後には約10%、ハーフマラソン後には約6%低下していました。ここで特筆すべきなのは、レース後数日経ってもそれが戻り切っていないということです。また肺活量もレース後に低下していたとの結果でした。マラソンのような長時間の過酷な競技では、一時的な気管支の収縮だけでなくて、それ以上の肺へのダメージが考えられるということです。

2.運動誘発性喘息の症状~自分の経験も含めて

運動を開始すると気管支が刺激され、少し時間がたってから発症します。マラソンの場合は走り始めて10~20分たつと、呼吸苦や咳といった症状がでます。
自分の場合は10年ほど前の、とある冬のレースで発症しました。思えば寒さや乾燥は勿論、砂ぼこりが舞うような大会でした。そしてスタートから15~20分走ったところで、胸の圧迫されて呼吸がしづらく感じました。通常のランニングの吸っても吐いても苦しい感じと異なります。特に息を勢いよく吐くことができず、咳払いしたくなるのですが、咳払いしても楽になりません。結局それ以降は減速せざるを得なくなりました。それ以降は別のレースでも、繰り返し症状が出るようになりました。さらには運動とは関係なく、夜中から明け方に喘鳴が出るようになりました。

もともと喘息の持病のない自分が、運動誘発性喘息を繰り返し起こしているうちに、本当の気管支喘息も発症したのです。ですがその後、気管支喘息の治療をしながら運動誘発性喘息の対策をすることで、以降は症状もおさまりました。現在も運動誘発性喘息も気管支喘息も、症状は出ていません。

3.運動誘発性喘息の治療

薬を使わない治療としては、日頃からしっかりトレーニングをすることと、ウォーミングアップをして気管支を慣らしておくことと言われています。ですが普段からしっかりトレーニングをしてウォーミングアップもするエリートアスリートの方が有病率が高いと言われていますので、多くの人がこれだけでは不十分です。
自分の場合、まずは一番効果があったのはスタート前の吸入薬です。スタート前に「サルタノールインヘラー」を2吸入すると、レース中の喘息はおきませんでした。そして普段の喘息の予防に「シムビコートタービュヘイラー」を朝夕吸入することで、気管支喘息の発作も消失しました。

気管支の一時的な狭窄による運動誘発性喘息であれば、運動前の吸入薬だけでよいかもしれません。ですが前述した通り、気管支や肺に、複合的なダメージを及ぼす可能性があるのがマラソンです。そして一般的な気管支喘息との合併も多いとされています。繰り返しおこるようであったり、気管支喘息の症状もあるようであれば、気管支喘息の定期的な吸入や内服も併用するのがよいと思われます。

4.治療することで、競技力が向上する?

呼吸器官を酷使する持久系アスリートにおいて、喘息は罹患率の高い疾患です。喘息は競技力の低下ばかりでなく、時に致命的になる可能性もあるため、多くの薬剤は適正使用すればドーピングになりません

そして夏のシドニーオリンピックと冬のバンクーバーオリンピックにおいて、喘息の薬を用いている選手は参加選手の4~8%なのに比べ、メダル獲得者は5~16%と高率でした。喘息の治療をしっかり受けることで、高い競技力を発揮できる可能性があります(競技力の高いアスリートの方が喘息の罹患率が高いことや、非喘息者でも治療薬で競技力が向上する可能性もありますが)。そのような事を述べる一方で、この文献では一時的な競技前の吸入薬に頼り過ぎな競技者の問題を指摘し、普段からしっかり喘息の治療をすることをすすめています。

特にサブフォーやサブスリーを達成したような競技力の高い市民ランナーは、一般の人に比べて運動誘発性喘息を持っている方が多くいます。ランニングをしてしばらくすると「胸が圧迫される」「呼吸がしづらい」「咳がでる」などの症状があれば医療機関で相談し、しっかりと治療することをおすすめします。競技力が向上するかもしれません。

医師、ランナー、ランニングコーチ

41歳まで某大学病院の消化器肝臓内科で勤務、以後は都内の一般病院で内科医をしています。また、中学でランニングを始めて走歴40年、その経験を活かしてランニングステーションでコーチもしています。内科専門医・消化器病専門医・肝臓専門医・抗加齢医学会専門医、JMJA公認ランニングドクター他、資格は多数。フルマラソンのベストは2時間50分31秒(2019湘南)。ランナーからよく聞かれることやランナーに伝えたい事を、科学的なエビデンスと経験をもとに記事を書いています。

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