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戦術の駆け引きで敗れたメキシコ戦

清水英斗サッカーライター

コンフェデレーションズカップ2013、ザックジャパンは強豪国を相手に3連敗を喫し、大会を後にした。

メキシコ戦、立ち上がりは日本が優勢だった。4-4-2を敷くメキシコは、スタートポジションのままでは日本のボランチを空けてしまう。そのため、まずはダブルボランチの一角である17番サバラが前に出て、日本のボランチにプレスをかけ、6番トラードが下がり目でバランスを取った。

日本はボランチの片方がフリーになりやすい状態だったため、遠藤保仁を中心としながらパスワークを機能させる。細貝萌、栗原勇蔵、酒井宏樹と、初先発が集う右サイド側では状況判断のノッキングが多く見られたものの、全体を見れば惜しいチャンスを何度も作り出した。

それだけに、オンサイドにも見えた岡崎慎司のヒールシュートでゴールネットを揺らした場面、あるいは長友佑都のクロスにフリーで合わせようとした本田圭佑の場面など、この時間帯までに1点も決められないのは痛手だった。

すると徐々に日本は前線のプレスが弱くなり、簡単にボールを運ばれるようになる。39分には左サイドバックのトーレス・ニロのクロスからフリーのグアルダードがヘディングシュート。これはポストに当たって難を逃れた。42分には香川真司がシュートを打たなかった場面からカウンターを食らい、ドス・サントスがクロスなど、前半の終盤はメキシコに多くのチャンスを作られた。

メキシコの試合運びは日本とは正反対だ。最初は17番の若いサバラのみが前へ出ていたが、次第にベテランの6番トラードも前に出てプレスをはめるようになり、プレッシングの強度を増していく。徐々に弱まった日本のプレスとは対照的なペース配分だった。

0-0で後半に突入すると、試合の流れは一気にメキシコへ。サイドバックがよく上がるようになり、ドス・サントスのプレーにも変化が見られるようになる。サイドプレーヤーとして外に開いてドリブルの仕掛けを行った前半は、対峙する長友に完全に抑えられてしまった。そこでドス・サントスは長友を嫌って中央へ入ったり、代わりに190センチの長身サバラが長友の前へ出て行くなど、駆け引きを仕掛けていく。ボランチのプレスのかけ方といい、この辺りの戦術はさすがメキシコだ。

圧倒的に押された日本は後半9分、左サイドのグアルダードのピンポイントクロスにチチャリートが走り込み、ヘディングシュートでゴール。このときグアルダードに対峙した酒井宏樹は13分、内田篤人と交代でベンチに下がる。

さらに14分頃から日本のベンチは慌ただしくなってきた。ザッケローニ監督とコーチ陣の話し合い、吉田麻也への長めの伝達が終わると、20分には前田遼一を下げて吉田を投入。3-4-3への変形が伝えられる。

メキシコに主導権を握られ、ボールの奪いどころも、ボールの落ち着きどころもなくなっていた日本だったが、3-4-3へのシステム変形により両ウイングハーフの内田篤人と長友佑都がフリーになる。サイドの数的優位を生かして基点を作り、流れを取り戻そうとした。

3-4-3に変えたアイデアには正当性がある。事実、内田と長友の両ウイングハーフが高い位置でフリーでボールを持つ場面は増えた。

しかし、システム変形をした直後のコーナーキック、日本は2失点目を喫してしまう。メキシコはドス・サントスが蹴ったボールをニアサイドでミエルがすらし、流れたボールを内田がマークしていたチチャリートに頭で合わされ、日本は2失点目を喫した。この形はロンドンオリンピック準決勝、U-23メキシコ戦でやられたパターンとまったく同じ。南アフリカワールドカップではブラジルがオランダからこのパターンを食らっており、ピッタリはめられると防ぐのは簡単ではない。さらにその前にボールを跳ね返す選手を置くか、あらかじめ対応を考える必要もある。

そして空中戦を意識してスタメン起用された酒井宏だが、ビルドアップやマークの拙さが目立つ。先制を許したことで、試合の流れを変えるために内田が投入された。しかし直後に、その内田のところから警戒していたセットプレーの空中戦で失点。酒井宏スタメン起用と、内田への交代策、どちらもザッケローニ監督の狙いはわかるが、結果としてはすべてが裏目に出た。

3-4-3の効果も徐々に薄れていく。その要因は二つある。一つは日本の運動量がキープできなかったこと。『運動量』と『かみ合いづらいシステム』は相乗効果を発揮することで威力を増すが、日本は内田、長友がフリーでボールを持ってからの周囲の動き出しが乏しい。内田が何度かサイドを突破してチャンスメークするも、徐々にその効果も薄れていく。中央に攻撃が狭く偏り、せっかくの横幅を生かすことができなかった。

二つ目の要因は、メキシコが3-4-3への手当てを行ったことだ。26分には左サイドハーフのグアルダードに代えて、普段は左サイドバックとボランチで起用される3番サルシドを投入。高い位置へ上がってくる内田への対応として5バック気味にしながら守る。このような対応策に素早く応えてみせる、メキシコ選手の戦術理解度はかなり高い。

さらにここに来て、体に負担をかけ続けた長友佑都が交代を申し出る。メキシコが3-4-3への手当てを行ったこと、長友を下げることなどが総合的に判断され、ザックジャパンは32分に中村憲剛を投入して再び4-2-3-1へ。一方のメキシコはグアルダード、ドス・サントスを下げ、明らかな『守ってカウンター策』にシフト。守るメキシコに対して後半41分の岡崎のゴールは見事だったが、反撃はここまで。日本は1-2で敗北を喫した。

メキシコは試合中にたくさんの戦術変化を行い、ピッチ上のバランスを調整する駆け引きに長けている。そのため1対1でよほどスカッと崩されない限りは、盤上対局のような試合になりやすい。豊富な引き出しと、選手の対応力について、日本はサッカー脳、戦術レベルをさらに高めなければならない。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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