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政治を「保守対リベラル」の図式で見るから劣化が起こる

田中良紹ジャーナリスト

 民進党の新代表に就任した大塚耕平参議院議員が29日に日本記者クラブで記者会見を行った。民進党は先の総選挙で衆議院議員が立憲民主党と希望の党に分かれ、参議院議員全員と無所属で出馬した衆議院議員が民進党籍を有する状態になっている。

 三分裂した勢力をどう立て直すかが会見のポイントだが、大塚代表が会見で語ったのは偶然にもその2日前に私が「田中塾」で話したことと同じだった。一つはメディアは与党圧勝ばかり強調するが選挙結果は民進党にとって悪くない。もう一つは政治を「保守対リベラル」の図式で見るから劣化が起こるということである。

 メディアは先の総選挙を「与党圧勝」、「立民躍進」、「希望惨敗」と報じた。これに対して私は「自民現状維持」、「公明惨敗」、「立民と希望の合計は昨年の参議院選挙から倍増」と主張してきた。

 大塚氏は昨年の参議院選挙の比例票で民進党は1175万票、自民党の2011万票の6割弱だったが、先月の総選挙で立憲民主党と希望の党を合計すれば2076万票になり、自民党の1855万票を221万票も上回ったことを強調した。政権を失ってから低迷を続けた旧民主党が分裂したことで回復の糸口をつかんだのである。

 メディアは立憲民主党と希望の党の誕生を「保守対リベラル」の分裂と見ているが、私も大塚氏もそのようには見ていない。従って大塚氏は立憲民主党と希望の党と民進党を再結集することが必ずしも良いとは考えない立場である。

 私は民進党があのままでいたら政権交代が起こる可能性はどんどん低くなると考えていた。旧自民党と旧社会党が同居する民進党において考えの違いや幅が党勢を拡げるプラスに働けば良いが、互いに足を引っ張り合ってマイナスに働くのなら同居する意味はない。

 長い年月権力を握り続けてきた自民党には党内の違いを同居させるノウハウがある。しかし万年野党を続けた社会党にはそれがなかった。「日本社会党」ならぬ「二本社会党」と呼ばれるほど左右の路線対立が激しかった。「自分たちの考えだけが正しい」と双方が正義を主張するからである。

 その体質は旧民主党にも受け継がれた。だから私はそのままでいることに反対だったが、大塚氏は「これまでは党内をまとめるため丸くすることばかりに力を入れてきた。しかし異なる考えをそれぞれ伸ばして政策に磨きをかけ、異なる政党が連立して政権交代を果たす道もある」と語った。

 党内を丸く収めることは国民の見えないところで政策を作ることになる。異なる考えを持つ政党同士が公党間の政策協定を結んで政権を作ればその過程が国民に見える。異なる考えを党内で丸めるよりその方が良いのではないかと言うわけだ。

 民進党の分裂を巡り希望の党が「排除」を宣言したことから、保守がリベラルを排除する動きだと多くの国民に看做され、本来は安倍政権による「権力の私物化」がテーマになるはずの総選挙が「保守対リベラル」、ひいては「改憲か護憲か」になったことに私は強い違和感を覚えた。そして「リベラル潰し」に反発する同情票が立憲民主党の躍進を可能にした。

 しかし米国政治を見てきた私には日本人の言う「保守」や「リベラル」が世界とは異なったものとしか思えない。「保守」の思想とは伝統を重んじ人間の理性に信頼を置かない。人間が頭で考えた理想など間違いを犯す可能性があると考える。長い年月を経た先人の知恵を尊重し急激な変化を好まない。「アベノミクス」とか「人づくり革命」とか頭で考えた改革を行う安倍総理は全く「保守」ではない。

 一方の「リベラル」は権力からの自由を意味する。従って国家に保護されるのではなく小さな政府や自己責任を主張する。しかし自由を追求していくと格差が広がり、格差に耐えられなくなると自由の基盤も危うくなる。すると「リベラル」は修正を迫られる。より公平に力を入れるようになる。これを「ソーシャル・リベラリズム」という。

 「保守」も伝統ばかりに縛られると「保守」の基盤が危うくなる。「保守」するためには「改革」も必要になる。ただ急激に変える「革命」はやらない。つまり「保守」も「リベラル」も修正が必要になる時があり、対立しているようで対立していない。自民党には「保守」と「リベラル」が同居し、旧民主党には同居させる知恵が働かなかっただけだと思う。

 そして日本が奇妙なのは護憲勢力を「リベラル」と呼ぶことだ。戦後71年間も憲法を変えさせないできた護憲勢力は伝統を重んじる「保守」と呼ばれてしかるべきなのに「リベラル」と呼ばれ、憲法を変えようとする勢力が「保守」と呼ばれるのは倒錯としか思えない。

 大塚代表は21日の代表質問でこの「保守とリベラル」の誤った使われ方について安倍総理に質問した。おそらく安倍総理に質問する形を取りながら議場にいる国会議員に向けて「保守対リベラル」の誤った図式を考え直すよう訴えたかったのではないか。私はその質問に触発され「田中塾」で「保守とリベラリズム」について私の考えを話した。

 次の国政選挙は再来年の参議院選挙である。そして4年以内には衆議院選挙がある。また参議院選挙の前には統一地方選挙があり、それまでに自公政権に対峙し、打ち負かす体制を作るのが新代表の役目である。大塚代表は手の内をさらけ出すわけにはいかないとしながらも、地域政党を作りそれをネットワークさせて国政と結びつける構想に言及した。

 国会の予算委員会では「森友・加計疑惑」が連日追及され、政府側の答弁を聞いていると疑惑は深まるばかりだが、浮かび上がってくるのは政権が長期化したことで驕りや緩みが著しくなり、緊張感に欠ける政治が行われてきた実態である。前のブログで書いたが日本には権力の暴走を阻止する三権分立の仕組みが機能しないようになっている。

 権力の暴走を阻止できるのは選挙の投票数でしかないことを国民は肝に銘じるべきなのである。総選挙に惨敗した公明党は選挙結果を受けて憲法改正に厳しい姿勢を打ち出さざるを得なくなった。これが民主主義政治の民主主義政治たる由縁である。

 そして今回は突然の解散と民進党の分裂によって「1対1」の選挙構図に持ち込むことが出来なかった。その痛い思いは野党議員全員が共有したはずである。次からはいわゆる「オリーブの木」を実現しなければならない。そのための障害は何かと質問された大塚代表は「保守とリベラルは対立するという誤った考え方だ」と述べた。

 憲法9条をどうするかについて考え方の違いがあるとしても、国民の生命と安全を守るために政治はあるという考えで一致することは出来る。そこから知恵を絞って一致点を広げていくのが政治である。

 そのためには意味も理解していない「保守」と「リベラル」の対立を煽るような幼稚な考えからは卒業しなければならない。「保守対リベラル」の図式でしか見ないところから政治の劣化は始まるのである。

 

ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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「フーテン老人は定職を持たず、組織に縛られない自由人。しかし社会の裏表を取材した長い経験があります。世の中には支配する者とされる者とがおり、支配の手段は情報操作による世論誘導です。権力を取材すればするほどメディアは情報操作に操られ、メディアには日々洗脳情報が流れます。その嘘を見抜いてみんなでこの国を学び直す。そこから世直しが始まる。それがフーテン老人の願いで、これはその実録ドキュメントです」

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