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『らんまん』浜辺美波の前に、男性が主人公の朝ドラでヒロインを演じていたのは?

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)NHK

神木隆之介が明治の世を駆け抜けた植物学者の役で主演する『らんまん』。朝ドラで男性主人公の作品は少ない。そして、妻となるヒロインを浜辺美波が演じている。東京編に入って再会した2人のなりゆきが注目されるが、これまでの男性が主役の朝ドラでは、ヒロインは誰がどんな立ち位置で演じてきたか。平成以降の作品で振り返る。

『凛凛と』で人気アイドルの荻野目洋子にオファー

 『凛凛と』(1990年度前期)は大正時代が舞台。富山の農家に生まれた畠山幸吉(田中実)がテレビジョンの開発に情熱を注ぐ物語だった。パリ、ロンドンと朝ドラ初の海外ロケも行われている。幸吉の妻となる青木郁を演じて、語りも務めたのが荻野目洋子だ。

 歌手として1985年の『ダンシング・ヒーロー』からヒットを連発。ユーロビート歌謡の先駆けとなり、当時の人気アイドルの1人だった。ドラマでも『早春物語』や『こまらせないで!』で主演していたが、ライブも含めた歌手活動で多忙を極めていた中で、この朝ドラのオファーを受けたという。

 郁は大正時代にあって先進的な女性で、幸吉と上野駅で出会い最初は反発し合っていたが、結婚して支えていく。関東大震災で家が燃えたりと苦難もありながら、前向きに立ち向かっていった。荻野目自身は当時21歳で、劇中では19~34歳を演じ、母親にもなっている。

 2001年にプロテニス選手の辻野隆三と結婚し、現在は3人の娘がいる荻野目。子育てに専念して休業していた時期もあったが、2017年に大阪の登美丘高校ダンス部が全国大会で、『ダンシング・ヒーロー』をあしらったバブリーダンスで準優勝。YouTubeで現在までに1億を超える再生数を記録するなど、社会現象的な話題を呼び、荻野目も改めて脚光を浴びた。

 女優活動は見られなくなったが、今年デビュー39周年を迎え、4月に2daysのライブを開催。ウクレレの弾き語りにも取り組んだりと、音楽はライフワークとするようだ。

『走らんか!』で中江有里が主人公に想われる転校生に

 長谷川法世の青春漫画『博多っ子純情』を原案とした『走らんか!』(1995年度後期)は、博多の高校3年生・前田汐(三国一夫)が主人公。代々続く博多人形師を父に持つが跡は継ぎたくないと、バンド活動に打ち込みプロを目指していた。

 登場したヒロインは2人。神戸から転校してきた今宮美樹を中江有里、汐の幼なじみの三浦真理を菅野美穂が演じた。汐は美樹に惹かれ、真理は汐に想いを寄せる三角関係だった。

 中江は1991年にアイドル歌手としてデビュー。『綺麗になりたい』や『白の条件』などドラマにも主演し、『走らんか!』出演時は21歳だった。美樹はリアルで1995年1月に発生した阪神大震災で親友を失った設定で、影がある少女。

 冬休みに大阪に帰省した際、見送りに来た汐が一緒に新幹線に乗り込み、復旧半ばの神戸の街を2人で回る話もあった。中盤で美樹は美術品修復の勉強をするため、イタリア留学に旅立っている。

 その後の中江は芸能活動の傍ら、脚本家や作家デビューも果たし、文筆活動に力を入れていく。『週刊ブックレビュー』の司会や『とくダネ!』のコメンテーターなども長く務めた。また、文化庁文化審議会委員、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議メンバーといった職も担っている。

菅野美穂は背中を押す役でトップ女優の足掛かりに

 菅野は『走らんか!』出演時は高校3年生。1992年にバラエティ番組発のアイドルグループでデビューして、学園ドラマの生徒役などから徐々にステップアップし、抜群のルックスも評判に。1995年3月に歌手デビューした中での、朝ドラヒロイン抜擢だった。

 真理は美樹と対照的に快活な役どころ。老舗の水炊き屋の一人娘で、汐が美樹に惹かれて葛藤しながらも彼の夢を応援し続け、自らも成長していく。悩む汐に「走らんか! とにかく走るったい!」と背中を押すのが、番組タイトルに繋がっていた。セーラー服で博多弁を話すのも、男性視聴者の人気を高めた。

 放送終了後にすぐ、『イグアナの娘』で連ドラ初主演。コンプレックスを抱えながら健気に生きていく役で涙を誘い、話題を呼ぶ。以降、『君の手がささやいている』『愛をください』『大奥』など数々の作品で主演やヒロインを務め、実力派女優としての地位を確立。女優志望者から目標としてよく挙げられる存在でもあった。

 朝ドラにも『ちゅらさん』『べっぴんさん』『ひよっこ』と、ヒロインの母役などで立場を変えて出演している。

 2013年には『大奥』で共演した堺雅人と人気俳優同士で結婚。現在は2児の母だ。一方、2年前にも『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』で浜辺美波の母役で主演。公開中の映画『仕掛人・藤枝梅安』に出演など、折りを見て女優活動も続け、変わらぬ存在感と実力を発揮している。

菅野美穂
菅野美穂写真:アフロ

『マッサン』で初の外国人ヒロインが言葉の壁を越えて

 19年ぶりの男性主演となった『マッサン』(2014年度後期)では、玉山鉄二がニッカウヰスキー創業者がモデルの亀山政春役に。大正時代の広島の造り酒屋の跡取りでウイスキーに目覚め、本場スコットランドで修業。そこで国際結婚したエリーをアメリカ人のシャーロット・ケイト・フォックスが演じた。外国人の朝ドラヒロインは史上初。

 シャーロットは当時28歳で結婚していて、10年ほど舞台を中心に活動していたが、アメリカでも無名の存在だった。『マッサン』の白人女性を対象としたオーディションに応募。日本語はまったく話せなかったものの、日本国内から232人、海外から289人の応募者の中で、演技力とコメディセンスを買われて選ばれた。

 劇中でエリーは、マッサンこと政春の母親に「外国人の嫁などありえん!」と歓迎されず、文化の違いや誤解にも翻弄されたりと苦難の連続。北海道で2人でウイスキー作りに取り組んでからも失敗続きで、太平洋戦争に突入すると、特高警察から敵国のスパイ容疑をかけられたりも。

 そんな中でも、日本のおもてなしの心を知り、マッサンを支えて家族を愛し、二人三脚で本場も認める国産ウイスキーを作り出していった。エリーの「行って帰り」といった外国人が大阪弁混じりで覚えたような日本語での掛け合いは、激動の中で和みを醸し出していた。日本語はクランクイン半年前から猛勉強したという。

 その後のシャーロットは『名探偵キャサリン』や芦田愛菜と共演した『OUR HOUSE』に主演したが、外国人で役柄が限られ、定着には至らなった。しかし、大河ドラマ『いだてん』で竹野内豊が演じたオリンピック日本選手団監督と結婚した役などで顔を出し、『マッサン』を思い出させている。

シャーロット・ケイト・フォックス
シャーロット・ケイト・フォックス写真:ロイター/アフロ

『エール』で実力派の二階堂ふみがポジティブな妻に

 『エール』(2020年度前期)では窪田正孝が主演。全国高校野球選手権の大会歌『栄冠は君に輝く』や、『長崎の鐘』『イヨマンテの夜』など数々のヒット歌謡を生み出した昭和の大作曲家・古関裕而がモデルの古山裕一を演じた。

 その妻となる関内音役が二階堂ふみ。愛知で馬具の製造販売を営む一家に三姉妹の次女として生まれ、歌手を夢見ていた。福島に住む裕一がイギリスの作曲コンクールに入賞したことを新聞で知り、文通から恋に落ちて結婚に至った。

 オーディションで2802人から選ばれたが、当時の二階堂はすでに、『ヒミズ』でのヴェネツィア国際映画祭のマルチェロ・マストロヤンニ賞(最優秀新人賞)を始め、『私の男』『リバーズ・エッジ』やドラマ『ストロベリーナイト・サーガ』など数々の作品に出演し、多くの賞を受賞した若手演技派。今さらオーディションを受けるのが不思議なほどだったが、重要な要素となる歌も含め圧倒的な評価を受ける。

 音は勝ち気で超ポジティブな性格。裕一とは互いに夢へのエールを送り合う関係だった。音と別れてイギリス留学を決意した裕一が、世界恐慌で取りやめになって自暴自棄になったときも、「あなたに幸せになってもらいたい」と涙ながらに励ましたり。結婚、出産を経てからは包容力を増して、曲を書けなくなった裕一を「もう自分を許してあげて」とそっと抱き締めたりもしていた。

 音楽学校のオーディションでオペラ『椿姫』の主演を射止めたり、歌うシーンも多かった。演奏会や最終回の病床シーンで歌った劇中歌『晩秋の頃』は評判を呼び、配信リリースもされている。

 朝ドラで知名度を一段と上げた二階堂は、暗い役が多かったイメージも刷新し、『プロミス・シンデレラ』に主演など活躍を続けている。7月クールの日曜劇場『VIVANT』にも堺雅人、阿部寛、役所広司らと並んで出演する。

可憐な看板娘から定番の妻役をどう見せるか

 改めて振り返ると、男性が主人公の朝ドラでは、ヒロインは支える妻役がほとんど。その中で肩を並べるくらい印象を残し、それぞれの転機にもなっている。

 『らんまん』では、キャリアの長い神木隆之介の妻を演じる浜辺美波も、すでに映画『君の膵臓をたべたい』『約束のネバーランド』、ドラマ『私たちはどうかしている』『ドクターホワイト』など数々の作品に主演した若手トップ女優だ。

 今回の西村寿恵子は下町の菓子屋の看板娘。公式HPでは「植物研究に金をつぎ込む夫のために、あの手この手で苦しい家計をやりくりし、最終的にはあっと驚く方法で家族を救う」となっている。東京編で本格的に登場してからの序盤では、神木演じる万太郎の前でニコニコと笑顔を絶やさない。

 可憐な一方、部屋には曲亭馬琴の小説『南総里見八犬伝』が大量に散乱していて、声に出して読みながら「現八と信乃尊い! 馬琴先生天才すぎる~」と悶えたり、オタクのような顔をのぞかせていた。

 叔母から鹿鳴館で玉の輿に乗るため、ダンスを習わないかと誘われてもいて、万太郎と結婚するまでに紆余曲折がありそうだ。まだ神木ともども子どもっぽいところも見せているが、22歳で妻の役をがっつり演じるのも朝ドラならでは。令和のヒロインの新境地に期待したい。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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