処理水の海洋放出と中国の日本産水産物の輸入停止から半年。その後、アメリカなど海外では?
福島第一原子力発電所のALPS処理水の海洋放出と、それに反発した中国の日本産水産物の輸入全面停止から、今月24日で半年が経った。
そんな中、アメリカの対応はどうなっているのか。海外の現状を報告する。
「放射能含有は無視できる程度」と米専門家
この騒動の当初からFDA(米食品医薬品局)が「処理水に検出可能なレベルのセシウムは含まれていなかった」と発表し、主要メディアが専門家の声を交えて「処理水の放射能含有は無視できる程度」などと報じた。
また、処理水の海洋放出の決定を支持するラーム・エマニュエル駐日米国大使が福島県相馬市を訪れてその地域で獲れた魚を食べ、安全性をアピールした。
NYでは日本産の刺身も食べられる!?
では実際に魚介類を販売する現場はどうだろうか。
ニューヨークは移民が築いた都市なので、イタリアやギリシャなど地中海周辺の国々にルーツを持つ人や中国にルーツを持つ人が多いエリアには、昔から定評のあるシーフード店も多い。
また刺身グレードの新鮮なものや日本産のものも販売されてはいるが、高級住宅地のスーパーや日系スーパーなど限られた場所だけだった。日系社会にとってエポックメーキングとなったのは2016年、ブルックリンのクリエイティブ層が多く住む地区にモダンな佇まいの魚屋「Osakana(お魚)」がオープンしたことだ。
筆者は当時この日本人オーナーを取材した。アメリカでは出身地によって魚介類をまったく食べない人もいる中、この辺に住む若い層に魚がうけ、料理しやすい味噌漬けにしたものなどがよく売れるという話だった。イタリアから取り寄せたという上質のショーケースに魚を並べるなど陳列にもこだわっていた。
昨年、マンハッタンに新たに別の店がオープンし、さらなる魚ブームが到来した。
高級スーパーのウェグマンズでは、とりわけ豊洲直送の魚が並ぶ鮮魚コーナー「Sakanaya(魚屋)」にいつも人だかりができている。
客は日本人ばかりかと思いきやそうでもなく、日本人以上に地元の人々の姿もある。ここを訪れる人は目利きがいいようで、刺身で食べられる切り身などを熱心に吟味したり、カウンター越しに職人にさばいてもらったりしている。
日本産水産物を楽しめる期間限定イベントも
ちょうど今の時期は日本で獲れた水産物を使った期間限定メニューを提供するイベント、NYC-JAPAN OSAKANA MONTHが市内で開催されている。筆者はそのうちの1店を覗いた。
近年アメリカで大人気の和牛と水産物を共に提供するJ-Spec(ジェイ-スペック)では、北海道産のホタテを使った寿司を新たにメニューに加えた。
「都市部であっても、魚が苦手な人、そしてベジタリアンで肉を食べない人もいるため、両方揃えることで選んでいただけるようになっています」。米在住30年以上で東・西海岸両方の事情に精通する店の担当者はこのように話す。
客層を見ると、質の高い料理への出費を厭わないメトロセクシャルな知識層や裕福な家庭の学生など、いわゆる「意識高い系」が主流のようだ。担当者は、食材の産地について客から聞かれることがあるそうだが、「興味からくる質問であって、決してネガティブな意味ではないです」と言う。
このイベントに参加しているのは市内12店だ。「ほかの店でも『北海道産ウニ』を使ったウニ蕎麦、『九州のブリ(ハマチ)』を使ったカルパッチョなどを提供しています」と、イベントを企画した在ニューヨーク日本国総領事館の田井 貴(たかし)さん。
ほかにも「長崎のノドグロ(アカムツ)」「鹿児島のカンパチやシマアジ」「静岡の紅富士(あかふじ)サーモン」「愛知のウナギ」「愛媛のマダイ」「富山のホタルイカ」などが直送され、当地のシェフによって料理が創作される。
農林水産省の資料によると、昨年の農林水産物と食品の輸出額は1兆4547億円(対前年同期比+2.9%)と過去最高を更新した。ただし地域ごと、アイテムごとに見れば、中国の輸入停止措置などの影響で、中国などへの水産物(ホタテ貝、ナマコ)や日本酒、ウイスキーの輸出が下半期に大幅に減少。例えばホタテ貝の輸出の減少額は222億円(24.4%減)にも上る。
一方で、対アメリカでは輸出量が増加している。緑茶や魚介類は123億円増だった。輸出額の増加がもっとも大きな国・地域は香港(真珠、ホタテ貝、タバコ)で279億円増。韓国(ビール、ウイスキー、ソース混合調味料)や台湾(牛肉、アイスクリーム)も増えている。
田井さんによると、アメリカ向けの輸出量が増えているのは水産物、中でもホタテ貝とブリだという。「イベントをきっかけにアメリカでさらに多くの人に日本産水産物の魅力を知ってもらえればと思います。この魚はどこから来たのかと産地や生産者に思いを馳せてもらい、日本の都市部のみならず地方にも足を運んでもらえたらうれしいです」。
(Text and most photos by Kasumi Abe) 無断転載禁止