『ブギウギ』以前に朝ドラで歌手を目指したヒロインたちの結末は?
朝ドラ『ブギウギ』で、趣里が演じるヒロインの福来スズ子が東京の梅丸楽劇団で看板の人気者になった。ステージで躍動的に歌うシーンも大きな反響を呼んでいる。モデルは『東京ブギウギ』で知られる戦後のスター歌手・笠置シヅ子さん。これから「ブギの女王」になるまでが描かれていくはずだ。
これまでの朝ドラでも、歌手を目指すヒロインの物語はあった。どんな展開だったか、平成以降の作品を振り返る。
『てるてる家族』では姉役のモデルが紅白常連の歌手
まず、ヒロインではないが、同様に実在の歌手がモデルだった役を、『てるてる家族』(2003年度後期)でSPEEDの上原多香子が演じている。
原作はなかにし礼の小説『てるてる坊主の照子さん』で、妻の石田ゆりの家族を元にした物語。石原さとみが演じたヒロインの岩田冬子ら四姉妹が登場し、上原が演じた次女の夏子は、60年代末からヒットを連発したいしだあゆみがモデルだった。
劇中で『ブルー・ライト・ヨコハマ』を歌う場面もあり、上原自身のカバーシングルとしてCDリリースも。いしだ本人もクラブ歌手役で出演し、下積み中の夏子を「あなた売れるわよ。このイヤリングを付けて紅白で歌って」と励ますシーンがあった。いしだは実際に紅白歌合戦に10回出場している。
『だんだん』の双子デュオは人気絶頂で解散
『だんだん』(2008年度後期)では、双子の三倉茉奈・三倉佳奈がWヒロインを演じて、劇中でデュオとしてデビューした。
島根の高校生で幼なじみと3人でバンド「シジミジル」を組み、ミュージシャンを目指していた田島めぐみ(茉奈)。京都の芸妓の娘で舞妓の一条のぞみ(佳奈)。生まれてすぐ離れ離れになり、お互いを知らずに育ったが、出雲神社で偶然出会い、双子であることを知る。
のぞみがシジミジルに加わる形の4人組から、めぐみとのぞみの双子デュオ「Sweet Juno」としてメジャーデビュー。『赤いスイートピー』、『渚のシンドバット』などのカバーで人気を博し、アルバムがチャート1位を獲得と快進撃を続けた。
しかし、めぐみはあまりの多忙とカバー曲中心の活動に疑問を抱き、のぞみとギクシャクし出す。わずかな時間を費やして作ったオリジナル曲『いのちの歌』は歌うことを許されず、デビュー1年で人気絶頂にありながら、めぐみがコンサートで突然の解散宣言。アンコールで『いのちの歌』を涙ながらに歌った。
劇中歌がCD化しつつ後半は医療ドラマの様相も
その後、めぐみは高校を卒業するときに目指していた看護師の道に進む。のぞみはソロで歌手活動を続けたが行き詰まり、祇園に戻って女将となった。Sweet Junoのマネージャーが医者になり、やがてめぐみと結婚したことから、ドラマ後半は医療ドラマの色合いも帯びた。
三倉茉奈・三倉佳奈は子役として朝ドラ『ふたりっ子』(1996年度後期)でデビュー。岩崎ひろみと菊池麻衣子が演じた双子のヒロインの幼少期の役で、人気を呼ぶ。『だんだん』では異例のヒロイン再登板となった。
「茉奈 佳奈」として音楽活動もしていただけに、劇中の歌唱シーンで双子ならではのきれいなハーモニーを聞かせた。『いのちの歌』はナレーションを担当した竹内まりやが作詞。茉奈 佳奈のシングルとしてもリリースされている。
『だんだん』では最終回でも、めぐみとのぞみが互いの妊娠を報告し合った後、シジミジルのメンバーと共に日本海に向かって歌うシーンがあった。
『あまちゃん』ではアイドルデビューから震災で転換
朝ドラ人気を復活させた『あまちゃん』(2013年度前期)では、能年玲奈(現のん)が演じたヒロインの天野アキがアイドルになっている。
東京育ちの高校生で、最初は母の故郷の岩手の北三陸という街で祖母の影響を受け、海女になることを決意。だが、動画が観光協会のホームページに掲載されると人気を呼び、ファンが押し寄せる事態に。
親友で「ミス北鉄」の足立ユイ(橋本愛)と共に「潮騒のメモリーズ」として、お座敷列車で昔の青春映画の主題歌『潮騒のメモリー』を歌った。アキは「アイドルになりたい!」と宣言し、大物プロデューサーの誘いを受けて単身上京する。
人気グループ「アメ横女学園」の2軍で地方アイドルを集めた「GMT47」に加入。デビューが決まったものの、母親の春子(小泉今日子)とプロデューサーの過去の因縁からアキは解雇。春子が作った事務所で個人で活動を始めると、オーディションで『潮騒のメモリー』のリメイク映画のヒロインに選ばれ、主題歌も歌った。
映画はヒットし初ライブも決まったが、東日本大震災が発生。アキは被災した北三陸に帰ることを決めて、壊滅した海女カフェの再建を誓う。そして、ユイと潮騒のメモリーズを復活させ、最終回では再びお座敷列車で『潮騒のメモリー』を歌った。
ブームから紅白歌合戦で企画ステージも
『あまちゃん』は「じぇじぇじぇ」が流行語になったりとブームを起こし、紅白歌合戦では「特別編」として企画コーナーが設けられた。
ドラマ仕立てのステージで、アキこと能年は「GMTスペシャルユニット feat.アメ横女学園」での『暦の上ではディセンバー』を皮切りに、潮騒のメモリーズで『潮騒のメモリー』、出演者全員での『地元へ帰ろう』と歌った。
劇中では最後は岩手に戻ったが、能年の無垢で真っすぐなアイドル役は出色だった。中でも潮騒のメモリーズは、シンメトリックな振りで往年の王道2人組アイドルを体現。強い印象を残した。
能年はもともと中学時代からギターを弾き、バンドをやっていた。のんになってからは自ら音楽レーベルを立ち上げ、1stアルバムには高橋幸宏、矢野顕子、大友良英らが参加。今年6月にも2ndアルバムを発売など、女優業と並行して精力的だ。
『エール』では夢は叶わずも歌唱シーンに称賛
『エール』(2020年度前期)では、昭和歌謡を代表する作曲家・古関裕而さんがモデルの主人公・古山裕一を窪田正孝が演じた。その妻となるヒロインの関内音役が二階堂ふみ。
教会で世界的オペラ歌手の歌声に魅了されて歌手を目指し、結婚した裕一の才能を信じて背中を押しながら、自らの夢も追い続けた。二階堂は2802人が応募したオーディションで、定評があった演技力に加え、歌唱力も評価されて選ばれたという。
音は音楽大学に入学し、舞台劇『椿姫』の主役に選ばれたが、妊娠が判明して降板。音楽学校も退学した。長女を出産し、戦後には子育てもひと段落して歌のレッスンを再開。オペラ『ラ・ボエーム』のオーディションに合格する。
しかし、稽古が始まると、他の出演者との実力差は明らか。実は作曲家として成功した裕一の妻として、話題性で受かったことを知り、降板した。
目標を見失ったが、裕一から教会でのクリスマスの慈善音楽会で、音のために作った曲を歌ってほしいと頼まれる。子どもたちに歌を教えて音楽の楽しさを思い出し、当日は『蒼き空へ』を堂々と歌い上げた。終盤では乳がんを患い、別荘で療養していたが、病床で口ずさんだ『晩秋の頃』も話題を呼んだ。
『エール』の最後の放送は特別編として、NHKホールから出演者総出演で小関裕而さんの名曲を歌うコンサートが届けられた。トリを飾ったのが、裕一の指揮で音が歌う『長崎の鐘』だった。
こうした数々の二階堂の歌唱シーンは、その都度SNSで話題になり、「本当に歌がうまい」「心に響いて涙が出る」などと称賛された。歌は本職でない二階堂の上達ぶりに、検討されていた吹き替えがなくなり、歌唱シーンが増えたという。
初めて歌手として大成する過程を趣里が辿る
こうして見ると、歌手を目指したかつての朝ドラヒロインたちは、芸能界で脚光を浴びた時期はあっても、最終的には他の道を選んでいる。人生的には、それが幸せだったようではあるが。
『ブギウギ』で趣里は主題歌の『ハッピー☆ブギ』も、EGO-WRAPPIN’の中納良恵、さかいゆうと共に歌っている。笠置シヅ子さんがモデルのスズ子は、物語の中で初めて歌手として成功することは間違いない。その過程を、趣里が等身大の成長で辿っていくのを楽しみに観たい。