アップルの脳波測定イヤホンの発明はどこが新しいのか?
一般に、ブレインテックと呼ばれる技術分野があります。脳科学と情報通信技術のの組み合わせにより生まれるテクノロジです。その重要なサブカテゴリーの一つにBMI(Brain-Machine-Interface)、あるいは、BCI(Brain-Comuter-Interface)と呼ばれるものがあります。脳波で直接コンピューターを操作するというテクノロジです。今後、新たなイノベーションが生まれる余地が十分にある、まだレッドオーシャンに至っていない市場ではないかと思います。
たとえば、イーロンマスクが同創立したスタートアップ企業Neuralinkは、最近脳に(手術により)埋め込むためのデバイスの治験の承認を得ました(参照記事)。このような主に医療向けの大がかりなBMIとはまた別に、たとえばゲーム向け等のカジュアルなBMIのイノベーションも今後数多く登場してくるものと思います。
そのような文脈で、「Apple、”AirPods”を脳波計にする特許 高まる期待」という記事(日経新聞)で紹介されたアップルの特許出願を見てみると興味深いものがあります。
公開番号は US2023/0225659、実効出願日は2022年1月14日、発明の名称は"Biosignal Sensing Device Using Dynamic Selection of Electrodes"です。発明の名称を見ればわかるように、測定の対象は脳波に限定されているわけではなく、心電図や血流等も対象になっていますが、明細書の記載を見ると脳波を主眼とした書き方になっています。まだ公開されただけで実体審査は始まっていません。日本での出願は確認できていません。中国に関連特許が出願されていますが、その他の国での出願は確認できていません。
そもそもイヤホンはカジュアルな脳波測定を行うためのデバイスとしては理想的です。脳の近くに常時装着されていても不自然ではなく、しかも、耳孔部分の皮膚と常に接触しています。ヘッドバンドのような専用の脳波測定デバイスを常時装着するのは、社会通年的にまだ厳しいものがあります(Meta Quest2やApple Vision Proなどのシースルー型HMDが一般化すれば状況は変わるのかもしれませんが)。
イヤホンで脳波・心電図・血流等の生理的データを測定するというアイデア自体は新しいものではありません。今回の発明のポイントは、最初のクレームドラフティングと発明の名称から考えて、測定のための電極方法の選択方法にあるものと思われます。
消費者向け製品のイヤホンで脳波測定を行うと、耳孔の形状が人によって様々であるため、電極をどこに設ければ正確な測定が行うべきかという課題が生じます。この発明は、その課題を、とりあえず多数の電極を設けておいて仮測定し、一番良さそうな電極を選択するという単刀直入なやり方で解決します。タイトル画像に示すように、イヤホンのイヤピース部分に多数の電極を設けておきます。
ところで、この発明は、現実の製品に実装すると集合体恐怖症(蓮恐怖症)の人にとっては不快なものになってしまう可能性があります。工業デザイン的にうまくまとめるのが課題となるかもしれません。
では、もう少し、権利内容を詳しく見ていくことにしましょう。
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