デンマーク若者が語る、未来不安を克服するための行動計画
幸福の国デンマークでも抱える若者の問題
「現代のデンマークで若者が直面している最大の問題の一つは、メンタルヘルスです」
そう明かすのは、26歳のフレデリック・デイラ(Frederik Dahler)さんです。デンマークの左派政党「赤緑連合党」の青年部であり、フェミニズム、環境、気候変動を中心に活動している「RGU」の代表を務めています。
「未来が怖い」
若い世代の不安に起因するのは、気候変動や経済的不安という構造的な問題だ。
フレデリックさんは、これまでの世代と今の若い世代では、「未来」の捉え方が全く違うと取材で指摘しました。
「SNSで何が起きているかを知り、純粋に未来が怖い。若い世代にとって、未来は必ずしも『物事が良くなる』ことを意味しません。私の世代はより経済的に不安定な生活を強いられ、よって精神的にも不健康になっている」
対策として心の専門家を増やす以上に、より悩みの根幹にある「経済不安の解消」をフレデリックさんは提案します。
根本解決への道は経済不安の緩和
「政治から発生する経済不安こそが若者のメンタルヘルス悪化の原因。公共交通機関の無料化、歯科治療費の無料化、教育への補助金の増加は、若者が直面する経済的プレッシャーを軽減し、結果的にメンタルヘルスを改善することにつながるでしょう」
若者が抱える問題にRGUが提案する解決策
- 若い世代が抱える悩みの根幹にある構造的な問題に目を向ける
- 経済的な問題を減らしていくことで「未来への不安」を減らす
- 緑の転換を強いる前に、コミュニケーション方法を見直す
- 「公共交通機関の無償化」などの代替案を提示する
- 個人のこれまでの生活を責めて分断を煽るのではなく、他の選択肢とセーフティネットワークを充実させる
「私たちは、経済的な問題を解消し、未来への不安を減らすことを目指しています」
個人消費に焦点を当てた気候危機の議論への疑問
「気候危機を個人の消費の責任にするのは間違っています。本当の問題は、化石燃料を売って利益を得ている大企業にあります」
化石燃料から利益を上げる「大企業」という経済の構造問題から世間の目をそらすために、プラスチックの買い物袋やストローなど「個人消費」が問題視される傾向に彼らは警報を鳴らす。
フレデリックさんとRGUは、「全国レベルでの公共交通機関の無料化」のような具体的な提案を通じて、問題解決のための新しい道を示しています。
若者の政治参加を促す「移動手段」
「そもそもデンマークは平たい土地で、山もなく、小さい国。空路よりも電車を中心とした交通システムを優先したほうがいい。それなのに今は車や飛行機を使う経済的に余裕のある人向けの開発が進んでいる。これでは移動の自由を損なうだけではなく、気候にも悪影響です」
必要なのは、高速道路でも空港でもない、無償化された公共交通機関だ……。
実は「北欧では、若者がなぜ政治活動に積極的なのか」という背景に、「移動手段」「交通政策」というのは大きなヒントになっている。
子どもにとっても、「何で移動するか」は身近な問題だ。EVに乗るのか、歩くのか、自転車なのか。特に車生活が中心となりやすい地方でこそ、若者にとって切実な問題となる。車でしか移動できない街づくりは、若者の「動く自由や自立のチャンス」を制限し、車を持つ保護者など、誰かに「依存する」傾向を強めるからだ。「日本ではもっと交通政策に若者が本来関わってもいい」と筆者は感じている。
このような緑の転換を図る政策の議論をする時、フレデリックさんは環境政党や環境派がしてきた「個人を怖がらせて、責める」コミュニケーション方法を変える必要性があると感じている。
分断を煽る「グリーン・コミュニケーション」に変革を
どの国にもある環境・気候政党だが、そのコミュニケーション方法は壁にぶつかっているといえるだろう。言論の多くが、個人のこれまでの生活スタイルを「責める」傾向にあるからだ。
フレデリックさん「気候政策で『化石燃料の車を禁止』と言うのは簡単です。しかし、デンマークでマイカーを禁止したらどうなるか?代替手段がないため、多くの人々が非常に不自由な生活を送ることになるでしょう。私にとって気候政策とは、人々の車や食料、仕事を奪う前に、代替手段があることを確認すること。そうでないと市民は危険を感じ、危険を感じている人々は変化を望まない。だから、変化を望むのであれば、まず彼らが安全だと感じられるようにすることから始めなければならないんです」
首都コペンハーゲンでは、『車をやめてバスに乗らなければならない』と言うのは簡単だが、デンマークでは多くの人がバスのない場所に住んでいる。首都に住んでいる人からそんなことを言われたら、もちろん激怒するだろうとフレデリックさんは考える。
「結果、『自分の生活』と、『人々が望む生活』との間に矛盾が生じてしまう。だからこそ、気候政策では『個人の消費や個人の選択』についてではなく、『セーフティネットがあること』が重要となります」
恐怖を煽るのではなく、代替え案を用意して、「飴(あめ)と鞭(むち)」のバランスをとる。「化石自動車の禁止を話す前に、まずは公共交通機関を無料にする必要がある」とRGUは行動している。
日本の若者へのメッセージ
最後にフレデリックさんは、日本の若者にも積極的に声を上げ、行動することの重要性を伝えていました。
「政治が複雑に見えるのは、権力を持つ人々が意図的にそう見せているからです。しかし、本当は政治はもっとシンプルです」
「政治とは、社会で最もお金と権力を持つ人々と、それ以外の人々との闘争です。化石燃料に依存し、巨大な利益を上げている企業との階級闘争に、私たちは今負けています。現状を変えるためには、一人一人が政治に参加し、声を上げることが必要です」
北欧の民主主義を支える若者たち、その不安をどう取り除いていくか
フレデリックさんは、現在の若い世代が直面するメンタルヘルスの問題は、経済的な不安に根ざしていると明言していました。RGUは、公共交通機関の無料化や教育支援の増加など、具体的な解決策を通じて、若者の不安を軽減しようと努めています。
若者のための政策を議論するときに、気候は重要なテーマです。そのなかで、「これまでのコミュニケーション方法には分断を煽り、個人を不快感にさせるという問題があった」と、「コミュニケーション方法を変える必要がある」とハッキリと指摘する若者の代表の言葉に、筆者は新鮮さを感じました。
安心して市民がライフスタイルを移行できるような議論、若者のリアルな悩みの解決方法を提案できるのは、まさにこの世代であり、政治の決定のテーブルに若者が同席していることの重要性をこのインタビューを通して改めて感じたのでした。