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JT準優勝に見たサーブの「力」

市川忍スポーツライター

2013/2014年Vプレミアリーグ男子大会がパナソニックパンサーズの優勝によって4月13日に閉幕した。

わたしが感じていた今シーズンのいちばんの見どころは惜しくも準優勝に終わったJTサンダーズの躍進だった。新たにモンテネグロ出身のヴコビッチ監督を迎え、ここ7シーズン4強入りを逃してきたチームにテコ入れをした。大事な場面で自ら崩れるメンタルの弱さは消え、辛抱強く戦う、強かりし頃のJTサンダーズが戻ってきたという印象を受けた。

開幕前にヴコビッチ監督に話を聞く機会があった。最も記憶に残っているのは「監督というのはチームや選手に合わせて自らが変化するものだ」という言葉だった。

とかく監督が代わればチームがどのように変化するのか、選手がどのように変わるのかに注目は集まる。練習方法はどう変わったか?トレーニングの方法は?と、我々は目に見えるわかりやすい変化を期待しがちだ。しかし、JTが変えたのはサーブローテーション(サーブを打つ順番)と、スターティングメンバーの中に「ポイントを奪えるサーブを打てるプレーヤー」を増やしたことくらい。もちろん越川優の新加入は大きいが、イゴールにしても、井上俊輔、八子大輔にしても、昨年もJTに在籍していた選手である。その彼らの力を最大限に生かせる戦略を考えたのがヴコビッチ監督の功績だろう。ヴコビッチ監督はこうも言った。

「選手が材料であるとしたら、レシピを考えるのが監督の仕事だ」

自軍にサーブ権がある状況で得点を挙げる「ブレイク」に着目した戦略は、監督がこのチームの顔ぶれを見たときに決断した、選手の能力を生かし「最も勝てる確率の高い戦略」だったのではないだろうか。

「サーブはミスせず入れていけ」は解説のミスリード

ブレイクの重要性と、それに関連して相手からポイントを奪うサーブや守備陣営を崩すサーブを打つことの大切さについては近年、ことあるごとに語られてきた。しかしそれが定説となっていたのは限られたチームの現場や、一部のマスメディアだけだった。テレビ中継の解説では相変わらず「サーブはミスをしないよう確実に入れていけ」などという時代錯誤な言葉が視聴者に届けられていた。最近の試合では、サーブミスが出るたびに観客から大きなブーイングが起きる。テレビ中継のミスリードの影響も大きい。もちろん、サーブミスはないに越したことはない。しかし、強力なサーブが打てることで、相手のレシーバーに与える精神的負担の大きさにもっと注目すべきだ。

レシーブの名手、東レの米山裕太は言った。

「今シーズンのJTはイゴール、越川さんとポイントを奪える選手のサーブが試合開始早々から続くことで、受けるこちらもかなり精神的に厳しかったです。ミスがなく、しかも2ローテーション目、3ローテーション目と更に成功率が上がってくる。成功してリードを奪えば、打つほうもさらに思い切り打てる。その繰り返しという感じでした」

2点差以上をつけなければセットを奪うことができないバレーボールのルールを考えると、ブレイクの得点力を上げようと試みるのは理にかなった考え方である。パワープレーが多く、一発のスパイクで得点できる男子バレーは、これまでサーブ権を持っていないチームのほうが得点を挙げるのに有利だと考えられてきた。ただしサイドアウトの応酬では一向に勝負がつかない。ブレイクの得点力を上げなければ2点差以上引き離すことが難しいのであれば、その得点力をアップしようと考えるのは当たり前の理論だろう。

ブレイクでの得点力を上げる方法についてはサーブ強化に重点を置くのか、ブロックとレシーブのディフェンスシステム強化に重点を置くのか、はたまたラリーの中での攻撃力のアップを重要視するのかという着眼点の違いがチームごとにあるのだが、今回のJTの躍進により、わたしはサーブの重要性を改めて実感した。

サーブを武器にするFC東京とジェイテクト

2011/12シーズンでサーブ効果率リーグ1位になったFC東京の坂本将康監督は言う。

「うちは選手には10割の力で打ち、必ずコートの中に入るサーブを要求しています。もし相手のチャンスボールになるようなサーブを打ったら?それは、もう“日頃、どんな練習をやってるんだ”って話ですよ」

ミスは絶対に許されないという意識づけが重要なのだと坂本監督は続ける。

「そもそも最近よく聞くリスクサーブという言葉自体がおかしい。サーブはリスクを背負って打つものではないと僕は思います」

一時期、代表やVプレミアリーグの監督や選手の口からは「7割の力で打つ」「8割の力で打つ」「この場面はたとえ失敗してもいいから思い切って打つ」というコメントが頻繁に聞かれた。最後の「たとえ失敗しても」という心境をリスクサーブと表現する指導者が多い。

ただし、そういった指示がFC東京には存在しない。どのエリアに打つという取り決めはあるものの、常にマックスの力で打ち、失敗は許さない。失敗しないという大前提のもと、練習の中で個々の選手がその精度を高めていくのだという。昨今こそ故障者の影響でサーブ成績は振るわないが、FC東京が2年前にサーブ効果率1位を記録した背景にはこういった練習方法があったのである。

昨年末の天皇杯で準優勝に輝いたジェイテクトの戦い方も、「いかに強いサーブでチャンスを作り、得点を挙げるか」という、いい意味で割り切った戦法だった。スタメン6人のうち5名が強く、強力なジャンピングサーブを打つ。寺嶋大樹監督は「たまたまサーブのいい選手が集まった」と話すが、その戦力を生かした戦い方を考え、実践しているように見えた。サーブミスをすれば直接失点につながるため、ときにそれが敗因にもなりうるが、ほかのチームに高さで劣るジェイテクトは、こうして自分たちの「武器」を見つけることで勝つ術を模索してきたのではないか。「賭け」という言葉を使うと誤解されるかもしれないが、こうした覚悟や割り切りが「攻める姿勢」を生む。

攻めることを忘れたチームはどんな競技においても勝利とは縁遠い。

今シーズン、JTがブレイクに注目し、準優勝という結果を残したことは大きい。優勝決定戦という注目される試合で、そのサーブ力と、サーブポイントがチームを勢いづかせる様子を大いに見せつけてくれたからである。

サーブは「攻める気持ち」を表す意思表示

これは個人的な印象だが、昨年までのJTはたった2、3点のビハインドですぐにコート内があわただしくなり、見ている側がまだまだ追いつけるチャンスがあると感じる展開でも、選手がミスを連発して負けるパターンが多かったように思う。しかし、今年のJTは違った。他社のコラムでも触れたが「イゴール、越川さんのサーブ時で必ず追いつける、逆転できるという確信があった」(国近公太主将)と、終盤まで誰一人、あきらめないチームになった。選手を支えるのは確かな戦略と技術であり、精神力とは、決して滝に打たれたり、理不尽な長い練習を辛抱することによって鍛えられるのではない。

あとはその戦い方を決勝のような非日常の状況下でも、普段通り実践できるかにかかっているだろう。JTにとっては来シーズンが真価を問われる1年となる。

サーブはトスを上げるところから、打つまで、一人でも練習が可能な、バレーで唯一のプレーである。ジャンプ着地時のひざの負担が怖ければ、トスだけ練習する方法もある。実際、高校時代の越川は正確なトスを習得するため、トスだけを何百本と上げる練習を繰り返していた。

全日本にもサーブでポイントを重ねる選手に現れてほしい。

そして例え格上のチームを相手にしてもひるまず「攻めるのだ」「絶対に勝つのだ」「まだまだ諦めていないのだ」と、そのプレーで意思表示をしてくれる選手が現れるのをわたしは待っている。

スポーツライター

現在、Number Webにて埼玉西武ライオンズを中心とした野球関連、バレーボールのコラムを執筆中。「Number」「埼玉西武ライオンズ公式ファンブック」などでも取材&執筆を手掛ける。2008年の男子バレーボールチーム16年ぶり五輪出場を追った「復活~全日本男子バレーボールチームの挑戦」(角川書店)がある。Yahoo!公式コメンテーター

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