ドラマづくりの理不尽はどこまで本当か。朝ドラ作家の自伝的ドラマ「書けないッ!?」の虚実を調査
生田斗真さん主演「書けないッ!?〜脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活〜」(テレビ朝日系)は、突如連ドラのチーフライターに抜擢された脚本家の奮闘を描くドラマ。プロデューサーや俳優など関わる人たちのそれぞれの都合でドラマの内容が変わりながらもなんとかまとめあげていく、働き方改革とは真逆の脚本家の苦労と、それを見守る家族たちの話が30分という長くもなく短くもない時間で描かれる。
テレビ朝日の新しいドラマ枠に挑んだ福田靖さんはこれまで大河ドラマ「龍馬伝」、朝ドラ「まんぷく」、月9「HERO」など人気ドラマを次々手掛けてきた。深夜の30分枠を書くにあたって、その自分の脚本家半生をドラマにした福田さんは、知り合いから、ドラマに書かれていることが本当? と心配されているとか。ドラマづくりの理不尽。どこまで本当で、どこまで創作か、聞いてみた。
自分でもどこまで実話かわからなくなってきた
――「書けないッ!?」の脚本はすでに書き終わっているそうですね(※取材は2月の上旬に行いました)。
「生田斗真さんのスケジュールが限られていたので、スピンオフも含めて早めに書き終え、撮影も昨年のうちに終わっています」
――通常の連ドラと比べたらずいぶん進行が早いですが、企画はいつ頃、立ち上がったのでしょうか。
「2020年の夏です。コロナ禍で本来やるはずだった仕事が飛んでスケジュールが空いたときと、テレビ朝日さんの新しいドラマ枠が立ち上がったときがちょうど重なって、わりととんとんと進みました」
――自伝的な脚本家の話を書こうとした理由を教えてください。
「企画がいきなり進行したもので、じっくり取材して資料を調べる必要のある題材だと間に合わなかったことと、夜、遅い時間に放送するドラマになるので、肩がこらずに見ることのできるホームドラマのようなものというテレビ朝日さんのリクエストもあり、だったら自分のことを書くしかないと考えました。以前から、雑談として話している僕の体験談がプロデューサーの方々には面白いらしいんですよ」
――業界視聴率がよいと聞きました。私もやや野次馬的好奇心も込みで見ています。主人公が口述筆記で執筆するスタイルが福田さん自身と重なるそうですが、ほかにどのへんまで福田さんなんでしょうか。
「書いているうちに、自分でもどこまで実話がわからなくなっていますが……まず、脚本の仕事をはじめたものの、たいした仕事もしないまま、5年くらい経過して、妻に食わせてもらっていて、そのことにたいした危機感も抱かず、楽天的に生きていたところ、突然、連ドラの仕事が来て怒涛に巻き込まれた流れは実話です。ただし、僕の妻は小説家ではありません。ほかの実体験としては、俳優さんの一言で急遽、脚本の内容が変わることもかつては経験していることです。考えすぎて頭がオーバーヒートして、脳を冷やすしかないと思い、“脳冷却”というところへ行って頭をキンキンに冷やしたこともほんとうです(笑)」
逆に時々、的を射たことを言うところこそ大事にしています
――書くことに息詰まると出てくる空想上の人物・スキンヘッド(浜野謙太)は実話ですか。
「スキンヘッドはフィクションです。あれは、僕が常に感じ続けているプレッシャーを具現化したものです」
――あの強烈なビジュアルは福田さんが指定しているんですか。
「あれは僕が考えました。ホームドラマのなかで若干飛び道具がほしいなと思って。ただ、最初は小峠さんのような坊主頭のかたにやっていただくイメージでした。坊主ではない俳優さんがキャスティングされるのなら無理にスキンヘッドにしなくてもいいですと言っていたのですが、浜野さんがしっかり作り込んできくれてびっくりしました」
服部宣之プロデューサー「浜野さんは福田さんが脚本を書いた朝ドラ『まんぷく』にもご出演されていて、福田さんの脚本なら…とご快諾を頂きました。福田さんがスキンヘッドを望まれていると聞いて、特殊メイクにも挑戦して頂けて…(笑)。あの頭の特殊メイクには3時間かかるんですよ。だから、浜野さんは誰よりも朝早く現場に来て、3時間、かけて支度して、ひとことだけ喋って誰よりも遅く帰るんです(笑)」
――「まんぷく」の浜野さんが演じた白馬に乗る歯医者さんは大人気でした。月9「HERO」の「あるよ」のセリフで人気になった田中要次さん演じるマスターもそうですが、アクセントになるキャラを生み出すのが巧みですよね。
「必ずしもそういうキャラを出そうと意識して作っているわけではないんです。たとえば、料理をしていて、何か足りないなと思った時、スパイスとして考えるようなものですね。僕は料理を作れないのに料理に例えるのもアレですけど(笑)。スキンヘッドに関しては、ドラマの内容が僕の日常と地続きすぎるので、何か違うものを足したいと思ったときに浮かんできました」
――プロデューサーや俳優にはモデルがいますか。
「プロデューサーとAPと演出家のふざけた感じは、ややステレオタイプに書いていて、さほど新しいものを作っているつもりはないんです。逆に時々、的を射たことを言うところこそ大事にしました。そちらのほうにモデルがいるといえばいます。僕も実際、グサッとくることを言われたことがあるんですよ。さすがこの世界に長いだけあることがあって、おもしろおかしく茶化しているだけでなく、ちゃんと熱意をもってやってる方々がテレビドラマの世界にはたくさんいるんです」
吉丸のキャリアでは考えが及ばないことも
――自伝的と言うと、実話じゃないところも本気にされてしまうことはないですか。
「うちの息子のクラスメイトは、福田家の実話だと思って見ているようで、フィクションの部分も本当のことと思われて困っていることもあるようです。実家の知り合いからは、福田さん、再婚だったの? 連れ子だったの?と驚かれたこともあります。先日も母から電話で『禿頭の妄想はほんとうに出るのか』と心配されました(笑)」
――取材は要らないとはいえ、本編と劇中劇のふたつを書くのは大変じゃないですか。
「僕よりも、制作スタッフの負担が増えるので、劇中劇のシーンのためにセットを作らずに済むように、グリーンバックのシーンにするなど、費用も時間もかからないように考えています。ドラマの吉丸圭佑のキャリアではそこまで考えが及ばないでしょうね(笑)」
いまだに“福田ワールドなんてないと思っています
――福田さんの器用さが生きたドラマですね。福田さんはこれまで、大河ドラマ、朝ドラ、月9と、様々な枠の特色に合わせて作品を書いています。
「僕自身はそんな多彩だと思っていなくて、吉丸のように発注に応えるという意識でやっています。いまだに“福田ワールドなんてないと思っています。それは、奈美(吉瀬美智子)にセリフで『この世界には自分の世界なんてない』と言わせました。こういうことをやりたいと提案してくれる人がいて、それはたいてい、自分では思いもかけないことで、それをおもしろがって書いているんです。逆になんでも好きなもの書いてくださいと言われたら困ります(笑)。ただ、たとえばエログロはやらないという自分のなかでのルールはあります。自分の子供に見せられないものはやらないというようなだいたいの線引きをしています。一年もの大作である大河ドラマは充実した仕事でしたが、『書けないッ⁉』みたいなコメディをこのキャリアで書けることも嬉しいです。B型の血液しか吸わない吸血鬼なんていうくだらない話を、あと何年くらい書けるか試してみたいですね(笑)」
――作家のなかには、脚本を一字一句変えてはならないと言うかたもいますが、福田さんは?
「僕にはそういうのはないです。脚本は設計図だと思っていますから、最終的に現場に委ねています。逆に、多少、セリフを変えられても、揺るがない構成や流れを作っておくことが僕の仕事であって、どうぞ、そのなかで遊んでくださいと思っています。でも度を越して遊ばれるということは、本が舐められているということかも。この本は変えられない、これより面白くできないなというものを書けば遊びもほどほどになると思うんですよ。空の締めのシーンなんですが。ただ、先日見た『書けないッ!?』最終回の完パケには、台本にないシーンがありました。あそこをもし褒められたら、ありがとうございます、僕が書いたんじゃありませんけど……というしかない(笑)。でもあれはOKです。現場スタッフの俳優さんへの愛情を感じました」
内田有紀さんのおかげでドラマが膨らんだこと
――ほかのかたの要望で変わったことで思いがけずおもしろくなったことはこれまでありますか。
「いい話のほうがいいですよね。……なんでしょうねえ。俳優さんは自分の役を大事にして、掘り下げていくので、そこまで深く考えるのか……と驚くときがあります。それと、皆さん、俳優としての思い入れも当然あって。たとえば、『まんぷく』での内田有紀さんの役は、早い時点で亡くなってしまって他の登場人物の夢に出てくるようになりますが、「亡くなっても夢として何度も出ることができてうれしいけど、欲を言えば、ほかの皆さんのように、私ももっといろいろな方々とお芝居をしてみたいです」と、ご本人から遠慮がち言われたので、バレンタインデーの思い出シーンや、缶詰でおなじみの野呂さんと意外な組み合わせシーンを作ってみたら、ドラマが楽しく膨らみました。あれは内田さんのおかげですね」
――そんなに要望を聞いていると、収集がつかなくなりませんか。
「僕は八方美人なところがあるので、言われると答えたくなってしまいます(笑)。北村有起哉さんが演じたプロデューサーのセリフのように、最終的に人前にさらされるのは俳優さんです。自分の預かり知らないところで脚本がつくられ、それを演じたことでいろいろ言われたら、割りに合わないと思います。だから、できるだけ要望は取り入れようと心がけています」
名前だけでも主役と脇役に差をつけたくない
――「書けないッ⁉」はどういうところに着地するのでしょうか。
「完パケの最終回を見て、我ながらいい話だなと思いました(笑)。主人公が脚本を書けない書けないと苦しみながら、プロデューサーとのやりとりを延々繰り替えしていても飽きてしまうので、吉丸家の家族の話に若干シフトしていきます。かつて僕もそうだったことで、最初はただただ眼の前の締め切りに追われていましたが、最終回に向けてどういう終わる方すればいいだろうと考えたとき、なぜ、脚本家という仕事をしているのだろうと立ち止まり、自分の仕事と向き合っていきます。お笑い要素は減りませんが、意外と深い話になっていきます」
服部P「くだらないなあって笑いながら見ていたのが、最後、ちょっと温かい涙が出るんですよ」
「八神隼人(岡田将生)がいいんですよ。主人公が生田斗真さんということだけ決まっていて、わりと急ぎで進んだ企画だったので、八神役で岡田さんが出てくれるとは思ってなかったのですが、出演が決まったことで、俄然セリフが増えてきて、役割が大事になってきたんです。最終回は、彼がいなくては成立しないほどに役が育ちました。生田さんにも岡田さんにもほかの俳優のかたがたにも、せっかく一緒にやるなら楽しんでほしいし、俳優さんの魅力が出るように考えています。話をおもしろくししつ、俳優さんの魅力を引き出そうと思って書いています」
服部P「圭佑が書く脚本に『愛がある』というセリフもありますが、福田さんの本にも愛を感じます」
「それが愛かはわかりませんが、どんな端役にもフルネームつけます。現場で通行人1とかいわれるよりはモチベーションがあがると思うんですよ」
――それは劇団をやっていたころからの習慣ですか?
「それはあるかもしれません。同等にノルマがあり、同等にバイトし、時間を割いて芝居を作っているにもかかわらず、主役と脇役に差があるのが申し訳なくて、劇団員全員が立つようにつくっていました。その感覚がいまだにあると思います。ちなみに、奈美の書くヴァンパイアものの小説は僕が劇団時代にやった舞台のお話です。そんなふうに、二度とこういう自伝的なドラマは書けないだろうと思うほど、僕のすべてを注ぎ込みました。まあまあいける夜食かと思ったら、コースメニューのようないいものを食べさせてもらったぞという感じで視聴者の皆さんに楽しんでいただけたらと思います」
Yasushi Fukuda
1962年、山口県生まれ。劇団プロ・ローグの主宰を経て、三十代で脚本家デビュー。きっかけは「書けないッ!?」のゼネラルプロデューサー黒田徹也が舞台を見て、テレビドラマの脚本を書かないかと声をかけてくれたこと。2002年「ウエディングプランナーSWEET デリバリー」で初めて連ドラを単独で手掛ける。主なドラマ脚本に「救命病棟24時」シリーズ、「HERO」、「ガリレオ」、大河ドラマ「龍馬伝」、「先に生まれただけの僕」、朝ドラ「まんぷく」、「ケイジとケンジ〜所轄と地検の24時〜」などがある。
書けないッ!?〜脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活〜
テレビ朝日系 土曜よる11時30分〜
脚本:福田靖
演出:豊島圭介、Yuki Saito
出演者:生田斗真 吉瀬美智子 菊池風磨 浜野謙太 小池徹平 山田杏奈
岡田将生(友情出演) 北村有起哉
3月13日 本編終了後から全4話、菊池風磨(Sexy Zone)さん主演の配信オリジナル作品「書けないッ!? スピンオフドラマ ~大学生 仙川俊也の筋書きのない人生~」をTELASAで配信